第6話 この婆さんかわよすぎない?
どちゃくそ可愛い婆さんこと、マルリさん。
バーグから変わり者と聞いてはいるが、かわいいは正義っつうか、かわいいだけじゃダメってこたぁねえ!
マモ爺再び的な、どうでもいい不安はどっかにすっとんでいった冒険者パーティ『ルーちゃんとゆかいな仲間たち』は、半ば無理やりにマルリさんのお宅に入らせてもらったのでありました。
「というわけで、俺たちはここからずーーっと行ったところにある所から来たんですわ」
「マジでなんなんじゃお主らは……妙な姿をしておるし、ぐいぐい勝手にわしの家に入ってくるし……唐突に雑な説明を始めるし……なんなんじゃよお……」
……言われてみれば、確かに何なんだろうな、俺たちは……。
今回ばかりはルーちゃんも「やっちまったわ」って顔をしている。先頭に立ってグイグイ入っていったのはルーちゃんだもんな。
気を取り直してテイクツーと行きましょうか。
「ごめんください、こちらにマルリさんという方がお住まいだと伺ったのですが」
「なにしれっとやり直しとるんじゃ! わかったから、さっさと話をすすめんか!」
うーむ……なかなか良いツッコミをするぜ……マモ爺ならこうはいかねえ、賢い人ってのは確かなようだな!
「実はですね、マルリさんが想像出来ないほど遠い所にですね、外なのに暖かくて雪がふらねえ土地があってですね」
「嘘じゃろ」
「いやいやマジですって! 俺たち、ここに来るまで雪とか見たことなかったし。な、ルーちゃん」
「うん、そうだよ。ルーちゃんね、ここではじめて雪を見てびっくりしたんだ」
「ほー……雪を見たことがなかったのか」
「うん、さむいってのも、初めてでね、お水もカチカチでびっくりしちゃった」
「そうかそうか……うんうん、こんなに可愛らしい子が言うなら本当なんじゃろうなあ」
マルリさんがルーちゃんを撫でながらそんなことを言う。
さすが俺たちのルーちゃんだ、お婆ちゃんのハートを掴んで離そうとしねえぜ!
見ろよ、マルリさんをよ……すっかり遊びに来た孫に目を細めるお婆ちゃんだ。
……絵的には少女が少女を撫でているようにしか見えないけどな。
「そんで、そこに住む連中は、弓で狩りをしたり、野菜を作ったりして暮らしてんですわ。他にもまあ、色々おもしろいことを最近はじめたんだけど、それについてはまた追々……」
「狩りというのだから、ユミというのは魔獣を狩る道具なんじゃろうが、初めて聞くのう。一体どんなものなんじゃ?」
うーむ、やはりこちらの土地には弓矢が存在しねえのか……あ、パンさんが目をそらした……いや、もう今さら何も言わねーって。
ようし、説明すんのもめんどくせーし、ここは実物をみせてやろう。
ストレージから練習用のしょぼい弓を取り出し、矢を軽く引いて射ってみせた。
射ったのは鏃がついていない練習用の矢、それも軽めの力で引いただけだ。
なので、矢はふわりと飛び、壁に当たって……当然ながら刺さること無く、カラリと音を立てて床に落ちた。
しかたがないとは言え、全然強そうに見えなかったろうし、微妙な反応をされるだろうなあ……と思ったのだが――
「おおおお、なんじゃなんじゃそれは! もっかい! もっかいやってみせとくれ!」
――バカウケじゃんか。
うーむ、この婆さんかわいいな! 目をキラキラさせながら腕をぶんぶん振り回して大興奮しとるわ!
よっしゃ! 見てろ! 本物の弓ってもんをみせちゃるぞ!
今度は本気じゃいと、魔鉄鋼の矢とコンポジットボウを取り出すと、マルリさんが『わあ』と可愛らしい声を出した。
それに気を良くしてつい、強めに射ってしまって……。
放たれた矢は、バヅンと、めちゃくちゃいい音を立て……石壁に深々と刺さってしまった。
……うっわ、やべえなこれ……ごめんなマルリさん、壁に穴を開けちまったよ。
申し訳ねえと、マルリさんを振り返れば、それはそれはもう大興奮で。
「ふおおおおおお! 凄いのう! 全く目で追えんかったし、壁にこんなに刺さるとは! これを使って狩りをしとるのか? すごいのう! すごいのう! これなら狩りも楽ちんじゃろうなあ! ウーフンどころか、奥から出てくる固い連中もいちころじゃろうなあ!」
「確かに弓はつえーんですけどね、それは離れた相手に対してだけ。近くに寄られるとどうしようもなくなるんですよねえ」
「剣とか槍とかは使わんのか?」
お、槍だけじゃなくて剣もあるのか!
「それがですね……向こうの連中は剣も槍も知らんのですよ」
「なんと、そんなことが……ううむ、そうなると家の近くに魔獣が出た時に大変じゃろうなあ」
「え、家の近く?」
「うむ、家の近くじゃと、そのユミでは狙いにくかろう? 短剣でもあれば楽じゃろうにのう」
「ええと……家の近くまで魔獣がくるんすか?」
「ん? 向こうではでないのかの? ここは出るぞ、穴の底から這い出てくるんじゃ」
「えーと、空洞に魔獣が住み着いちゃってるってことなんです?」
「いや、そういうわけではなくてじゃな……ええと、なんって言ったかの……」
と、ちょいちょいとルーちゃんが俺の袖を引く。
「どうしたんだい?」
「あのね、ユウ。ここね、途中からダンジョンになってるみたいよ。下の方からダンジョンコアの気配を感じるの」
「だ、だんじょん?」
「ああ、そうじゃ! ダンジョンじゃ! わしらが住む空洞はダンジョンと繋がっていての。深く潜ればそこは魔獣の住処、ダンジョンなんじゃ」
「へ、へえ……マルリさんはダンジョンをご存知なんすか」
「うむ。かか様のかか様の、ずーっと昔のかか様の頃から、ずうっとあっての……昔は魔獣もあまりおらんし、気温も高くないしで普通にはいれたそうなんじゃ」
「え、ダンジョンに入ってたんですか? 狩りでもしてたんです?」
「いや、なんでも、最奥に立派な鉱石があるとかでの、まるで炎のような不思議な鉱石で、きっとこれが空洞を温めてくれているのだろうと、毎日みんなで磨きに行ったりしての、それはそれは大切にしてたそうなんじゃ」
……それって、もしかしなくてもダンジョンコアなのでは……。
パンさんを見ると、スマホを弄って知らないふりをしていた。
あ、これパンさんも意図してなかったネタだな? うん、目を逸らしたから確定だ。
ようし、後で追及してやっからおぼえとけ!
「それにしても……ルーちゃんや、よそから来たのに、よくダンジョンを知っていたのう……」
「ああ、うちの近所にもダンジョンはあっからね。ルーちゃんも縁があるってわけよ」
「ほほう、ダンジョンというのはここ以外にもあるのか」
「みたいだね。うちのダンジョンはここのと違って、中から出てくることはないんだけど……狩場として使い始めた連中が、弓が通じないって大騒ぎでねえ」
「ふむ……もしや、剣や槍の噂を聞いてここまで来たのではないか?」
「お、いい線いってるね! でも用事はそれだけじゃなくてね」
「なんじゃ? 他にもなにかあるのかの?」
「まあ、いろいろだけど……あっちのことを知ってもらいたくてさ、さっき見せた弓の他にも、肉や野菜を持ってきてるんだよ」
「む! 肉と野菜じゃと! ユミについてはあとでいい! 先に肉と野菜をみせとくれ!」
「おお、めっちゃ喰いつくじゃん……ここじゃ出し切れないからさ、どっか広いところまで案内してくれよ」
「出し切れないほどじゃと……それだけ持っとるようには見えんが、ははあ、さては表に置いてある魔獣がくっついた妙な荷車に山ほど積み込まれておるんじゃな? ようし、わしに続け! こっちじゃこっちじゃ!」
ぴょいんとお外に飛び出すマルリさん。
見た目だけじゃなくて、身体能力も婆さんにみえねーんだが……マジで婆さんなん?
……鑑定君、壊れてたりしねえ? しないかあ……。




