第3話 モッコモコのかわいいの
はじまりませんでした。
「いやあ、たすかったぞ! 若いの! しっかし、ほんとうまいスープだのう!」
とても可愛らしいもっこもこの衣類に身を包んだ、この小さな人族はバーグとかいうおっさんで、この先にある洞窟で暮らしているそうです。
そこの人たちは、みんなバーグさんのように背がちっこくて、もじゃもじゃだそうです。
「ってドワーフじゃねえかちくしょう!!!!」
「いきなり何怒ってんのよ? あ、わかった……あんた、行き倒れの女の子だと思ってたんでしょ」
「えぇ……俺を見て女だと思ったのか? これでも俺、結構デカいほうなんだが……俺を見て女と間違えるとか、よっぽどだぞお前……」
うるさいわい!
だいたいにして、もっこもこのフードで顔を覆ってっから、遠目じゃ顔とかわからねえじゃんかよ!
もっこもこのが、もっちょもちょ歩いてコケたらよ、テンプレノベルだったら確実に新ヒロイン加入イベントだっつーの!
……はあ、おっさんだったし、別に怪我や病気じゃなかったし。
なんかもう、どうでもよくなってきたわ。
雑に語ろ。
おっさんの名前はバーグ。
洞窟にある集落……ここらでは『空洞』と呼ぶ場所で暮らしているらしい……あ、これさっき言ったわ。
洞窟の中は暖かく、過ごしやすいけれども、狩りをして肉を得られる場所ではないのだという。
となると、外に出なければならない。
外は非常に寒く、厳しい環境だけれども、代々伝えられてきた防寒着を着込めば、まあギリなんとかできる。
順番に回ってくる「狩り当番」に当たったバーグは、同じく当番に当たった四人の仲間たちとともに雪原へとやってきたのだが。
狩りの最中、魔獣の反撃を受けたバーグは、こりゃいかんと一歩下がり、反撃の隙を狙った。
しかし、魔獣はそれを許さず、しつこく突撃を繰り返す。
避けるバーグに突く魔獣。
そのうち、魔獣はどこかに行ってしまったのだが……その頃には仲間の姿も、そして洞窟がある方向すら見失ってしまっていた。
愛用の槍をどこかに落としてしまったため、魔獣に遭わぬよう、コソコソと記憶を頼りに必死に歩き回り……ようやく見慣れたところに出たところで時間切れ。
そう、腹が減って倒れてしまったのだ。
はあ……結局真面目に語っちまったわ。
なんかこう、ちょっぴり懐かしくなっちまう感じの話だったが、どっかの狩人より勇敢だよなあ……。
バーグのヒゲを少し貰って、煎じてキンタに飲ませてやろうかな……。
「あんたらが来なかったら、いまごろウーフン共の餌食になっとったわい」
ウーフンというのは名前の通り狼のような魔獣……かとおもったが、短い角を額に生やしたもこもこのかわいらしい風貌の魔獣らしい。
しかし、その見た目に反して獰猛な性格をした肉食獣で、年に何人かは犠牲になっているそうだ……何それ怖い……。
「あいつのう、人は喰わぬのだが酒を奪っていくんだ……うう……あれだけ持ち出してきたのに、もう小瓶に一本しか残っとらん……」
犠牲ってそういう……なんか、これもどっかで見たような流れだわ……。
「なあ、そんなめんどくせえ魔獣じゃなくてさ、もっと狩りやすいのは居ないのか?」
「それがのう、ウーフンはお得なんだわ」
「お得」
「ああ、肉は旨いし、毛は服になるしの……それに……他の魔獣といってものう……洞窟のはアレだし、かといって森までいくのは難しいし……まあ、ウーフンならそこらにいるから困らんのだわ」
なんとなく横目でパンさんを見ると、ぱっと目をそらされた。
……ははあ。
さては『食べてよし、素材に良し、肉食じゃないっと。こんな魔獣を洞窟の近くに配置すればまあ、生きていけるっしょ』なんて雑に配置したんだなあ?
「な、なにを考えているのか? 分からないけどお? ちがうわよ!」
自ら答え合わせしてくんのやめてもろて……。
なるほどなあ……まあ、一応は理に適ってはいるから、追及しないでおいてやるわ。
……しっかし、ほんと、住人たちを甘やかすよなあ、この女神様はよ。
さて、いつまでもこうしてるわけにはいかねえな。
「なあ、バーグ」
「なんだ?」
「俺たちはさ、ここから遠く離れた始まりの村ってところから来たんだよ」
「遠く……まあ、その魔獣が引く大きな荷車があれば、この雪の中でもそんな真似ができるのだろうな」
「なんで来たかっていうとさ、実はこの辺りに洞窟に住む人族が居ると聞いて、会いに来たんだわ」
「つまりなんだ、どこからか……俺らのことを聞いてここまで来たと……?」
スープを食べる手を止め、ギラりとした顔でこちらを値踏みするような目で見つめる。
ああ……短い付き合いだが、このおっさんが何を考えているか俺にははっきり分かる。
これは……――
「すまん、喉に肉が詰まっていた……ふう……なんだ、わざわざ来てくれたのか、なんにもないが歓迎するぞ!」
――だと思ったわ。
親の顔より見たわ、この展開……ほんとリプラシルの奴らはこういうネタをナチュラルにやるよな……。
腹が膨れ、ついでに謎の酒を小瓶で一本飲んですっかり元気になったバーグ。
彼の案内のおかげで、それから程なくして洞窟前に到着……したのだが……なんじゃこりゃあ。
俺が思ってたんはさ、こう……鍾乳洞の入口みたいのがチマっとあるような……観光地でみられるようなアレだったんだけど……こりゃあすげえ。
なんなんこのクッソでけえ入口は。自動車道のトンネルじゃねえかよ。
おかげで猫車のままでも余裕で入れるんだが……うっわ、こうして道路を均したらまんま自動車道だわ。
「さっきから思ってたが、ユウのそれ、すんごいのう。道がたちまち歩きやすくなるわい」
「お、おお? そうか? まあ、魔法ってやつよ」
「ふむ……マホウか。世の中には俺が知らないことがまだまだあるんだなあ」
そういや人前で整地したの初めてかもしれん。
始まりの村で、ポンポコポンポコスマホで建造してたし、あいつらも慣れきってたからすっかり忘れてたけど、そういや初期はこんなリアクションされてたっけな……。
うーむ……そう考えると、キンタたちも出会った頃とだいぶ変わったんだなあって思うわ……なんだか感慨深いぜ。
ひとり静かにエモがりつつ洞窟を進んでいくと、ちらほらと住人たち――ちっこいおっさんや、ちっさいおっさん、ちっちゃなおっさんたちの姿が見えた。
どのおっさんも猫車やクロベエたちに驚くことは無く、ただただ興味深そうにこちらを見ていた。
「っておっさんしかいねえのかよ!」
「ユウ……ちゃんとみろ。あっちの小僧は俺の半分もいきとらん子どもだし、こっちの男は俺より大分生きとる。強いて言えば俺とあっちの男はおっさんだが、そこのとあれは子どもだぞ? ほら、改めてみると違いがわかるだろう?」
「う、うーん……そういう感じがするかもしれないっすね」
……全部同じじゃねえかよ……。
うーん……顔の半分がヒゲで覆われてるのもあって、どれも等しくバーグに見える……慣れるまで大変だぞこりゃ……。
つうか、一度バーグと別れたら見っけられる気がしねえ。
……あ、そうだ!
「ねえねえ、美人で素敵で可愛くて美人な女神様ぁ」
「な、なによ急に……気持ち悪いわね……あ! わかった……エ、エッチなお願いする気でしょ……こんな所じゃ嫌よ! みんな見てるし……」
「なに言ってんだお前! なに言ってんだマジで! そうじゃなくてよ、スマホにAR的な感じで、かざすだけで名前と年齢を見れる機能を追加してくれよ……ここに来てから会った人族、全員バーグに見えるんだよ……」
「そ、そういう事ね……って、そんな面倒な仕様変更、急に言われても出来るわけないじゃないの!」
「大丈夫だ。お前なら出来る。だってパンさんはとても賢いからな!」
「え? 賢い? そう? そうね、あたしって賢いもんね! よーし三十秒で終わらせるわよ!」
そして、宣言通り二十五秒くらいでスマホに新たな機能が追加された……。
割とダメ元だったんだが、まじでやりよったわ。
ほんとパンさんすげえよな。
ポンコツ属性さえなければ、今ごろ多くのユリカゴを管理する、すげえ管理神になれてたんじゃねえかな……。
って、バーグ、これで六十二歳かよ……うっわ、こっちのヒゲ、ラームくんは八歳と……バーグと同じくらいにしか見えねえのに……マジかあ。
「……なあバーグ。今まで俺が会ったのって、全員男で合ってるよな? まさか女の人までフサフサとしたヒゲが生えてたりしないよな?」
俺が知る、創作物に登場するドワーフの女性には様々なパターンがあった。
男と変わらぬ、立派なヒゲを蓄えているパターン。
細くてサラりとしたヒゲを蓄え、編み込んでいるパターン。
ヒゲは生えず、肝っ玉かーちゃんみたいな体格が良い女性のパターン。
そして……なぜか、幼女……または少女にしか見えない読者受けを狙いすぎているパターン……。
リプラシルのドワーフ女性がどのパターンなのか……ここがこの旅における分水嶺となるだろう……。
いやあ……ハーレムとかそういうのは、ぶっちゃけ考えてねえけどさ……それはそれとして、華やかな方がいいだろ……。
全部ヒゲだったら……それは……ちょっと悲しくなるかもしれん……。
「何言ってるんだ、女どもにヒゲなど生えるわけがなかろう。ユウは俺を女と間違えておったが、俺からすれば、ヒゲがないお前こそ女に見えるわい!」
「うるせえな、ほっとけ! 伸ばしても汚くなるだけだから剃ってんだよ!」
「そういうことか……立派なヒゲに育たぬとはかわいそうにのう……」
「俺らにとっちゃ、これが普通だから良いの!」
「ふうむ……お前が男で、そっちのパンは女なんだろう? しかしどちらをみても男の特徴も女の特徴もない……ほんと、外の連中は不思議だのう」
女の特徴……?
ヒゲがなかったら女、それだけじゃねえのか……?
パンさん?
……なんかこいつ……斜め上をじっと見てる……あ! これ思い出そうとしてる時のアレだ! お前、なんか大事なこと忘れてるだろ!
パンさんを揺さぶって、記憶を蘇らせようとした瞬間、高い声――女性の声が耳に飛び込んできた。
「あんた~~~!! 帰ったのかい? 無事で良かったよお!!」
「おお! ヒルダ! 心配をかけたのう! ユウ、これが俺の妻、ヒルダだ」
「あらあら……なんとも……変わった人たちねえ!」
「ヒルダ、失礼なことを言うな、この人たちはな、行き倒れの俺を助けてくれたんだ」
「まあ! そうだったのかい! うちのバーグがお世話になってすまなかったねえ。ほんとろくでなしで……ねえ、あんた、この人たち言葉がわからないのかい?」
「何を言っとるんだ、さっきまで話してたんだぞい……どうしたユウ? 何故黙ってるんだ?」
「け……」
「け? どうしたユウ、それだけじゃわからんぞ?」
「ケモミミ少女だ~~~~!!!!!」
バーグ(六十二歳)の妻だというヒルダは、ふさふさの猫耳を生やした少女だった。




