第2話 胸躍る冒険の日々
……で、出発からかれこれ……四日が経ったわけですが。
まあ、いつものことだが……ぶっちゃけ飽きてきてるのよね。
育成中のリプラシルちゃんだからさ、旅の合間に寄るような村や町なんてもんはねえし、集落も目的地までは無いらしくてな。
景色もこう……バイオームがまだ変化してねえから、俺んちの周りと似たような原野が広がっててさあ、見たような魔獣がピョコピョコしててさあ……あんま盛り上がらねえんだよな……。
パンさんの奴も暇なのか、ちょいちょいルーちゃん連れてダンジョンに転移しやがるしな……。
まあ、村に行ってる間にも、ちょいちょい見回りやら、調整やらに行ってたから、必要なことなんだろうけどなー。
せっかくの旅なんだから、もう少しのんびりしててほしいぜ。
ま、俺は俺で楽しくやらせてもらうけどな。
暇っちゃ暇なんだけどさ、この旅もそこまで悪いもんじゃねえんだよね。
ガタゴト猫車に揺られて移動をしてさ、日暮れが近づいたらいい感じのところにテントを張って野営をしてさ。
朝日と共に目覚めて熱いコーヒーをすするって生活は……まあ、ぶっちゃけ最高だ。
元々そういうのが好きだっつうのもあるんだが、雑にそこらにテントを張っても、なんなら焚火をしたって誰にも怒られねえっていうのは、すっげえいいわ。
子どもの頃に憧れた探検家そのものっつうか……おっさんになってから憧れたファンタジー世界の冒険者っつうか。
なんか、そんな感じでウキウキすんのよね。
でも……リプラシルだからなあ。
普通のファンタジー世界ならさあ、こうやって馬車で走っていれば、盗賊に襲われた商人の馬車と出会ったり、そこからケモミミ美少女が生えてきたり、それが貴族だったり、そのまま屋敷に招かれたり……陰謀から救って感謝されたり……こう……あるだろう?
「けど、なーんも起きねえ! 胸躍る冒険の日々はどこ行ったよ! おもしろイベントフラグはどこで立てたら良いんだよ!」
「んなもん立つわけないでしょ、リプラシルだもの……」
「うわ、びっくりした……急に生えてくんなよ、びっくりすんだろ」
「ふふ、ただいま。ダンジョンは平和そのものだったわ」
「お、ごくろうさん」
「冒険者もなかなかやるようになったわねー。ワンダリングエネミー役のタルットが二匹に増えてたわよ。一匹だとたまに危ないんだってさ」
「へえ、やるもんだ。そろそろモル丸も忙しくなるかもなー」
「そうねー……あーお腹空いた。ご飯にしましょうよ」
突然帰ってきて突然飯を提案とは良いご身分だよなあ……まったく何様なんだ……ああ、女神様だったな……ならばしかたあるまい。
「クロベエ、ヒカリ。昼飯にすっから馬車をとめてくんな」
「おっけー」
「了解です、親父殿! とまるぞクロベエ!」
「あーもう、うるさいな。わかってるってば!」
他に旅人なんてもんもいねえし、道なんてねえっていうか、俺が作りながら進んでるわけだから、駐車場の心配なんてものはない。
止めたい時にそのまま止まっても、誰にも迷惑がかからねえんだぜ?
こういう開放感だけはほんと最高だわ。
猫車から降り、ストレージから椅子やらテーブルやら魔導コンロやらを取り出していく。
なに作っかなー……んー、昼だし適当でいっか。
スープを火にかけ、薄く切った肉とレタス的なアレでサンドイッチを作る。
「わあ、いい匂い。ねえねえ今どの辺まできたのー?」
ダンジョンで疲れたのか、ちょっぴり眠そうな顔をしたルーちゃんが椅子に座りながら言う。
どの辺だろうな? たしかにそれは俺も気になるわ。
「ヘイパンさん! 目的地までどんくらい?」
「だからスマホAIみたいに使うなっつうの……えーっと……今は目的地まで三分の一くらい進んだ感じかな?」
「え、もうそんなとこまで来たの? 前に聞いた時はもっとかかるようなこと言ってたよな?」
「そりゃそうでしょ……足回りつよつよな猫車なんか作っちゃってるし、それが走る道だって、立派すぎるくらい立派だし……移動速度が上がるのは当たり前じゃないの」
くっ……それを言われちゃ何も言えねえ……。
……
…
出発から七日が経った。
昨日の午後あたりから、ようやく……気候に変化が現れ始めたんだ。
なんかさ、日が傾き始めた時に、微妙に肌寒いなって思ったんだ。
うちがある場所や始まりの村がある辺りって、常春みたいな環境なんだよね。
だから、こっちに来てからずっと、この肌寒さってのを感じてなくってさ、なんだかちょっぴり懐かしいなって思ったんだけど……。
その後一泊してさ、寝袋から出たらびっくりしたよ。
すっげえ寒いの。
そんな気候が違うものかよって、テントから顔出したら霜が降りてて思わず二度見したわ。
そういや、昨日の昼前くらいからかな、そこらに生えてる木々が色づき始めてたんだよな。
そう、紅葉。
まあ、こっちの木々は、青い葉っぱやらピンクの葉っぱやら、ちょいちょいでたらめなのがあるからさ、完全に同じ感じとは言えないんだけど、それでも緑多めの景色が、黄色やら赤やらが多めの、センチメンタルな感じに変わってたんだよね。
んで、今気づいたけど、ここらはそれに混じって杉のような木々が生えてんの。
多分、これからジワジワと広葉樹が減り、針葉樹に変わってくんじゃねえかなあ。
それに、ずいぶん視界がいいなあとは思ってたけど、遠慮なくそこらに生えまくってる草たちも、背が小さめっつうか、平たい感じのが増えてんのよね。
うーむ、こらもう完全に晩秋の景色だわ。
そうか、俺たちは春から冬に向かって旅をしてるんだよなあ……って思ったら、すっげえワクワクしてきちゃったよ。
……まあ、寒いのは嫌なんだけども。
いやあ……ここに来て、大失敗だわ。
旅の目的地って冬の大地じゃんか。
パンさんからそれとなく聞いてたから、知ってたはずなのにさあ……防寒対策なーんも考えてなかったわ……。
いや……ストレージに地球で着てたアウターがあるのは覚えてんだよ。
けどさ、ルーちゃんやパンさんが居るんだぜ? 俺だけポカポカするわけにはいかねーっつうか、みんなでポカポカしてえじゃん。
こんな時こそスマホ様やと、クラフトで作ろうと思ったら、完成まで二時間とか表示しやがんの。
お前、ここんとこ製作時間とかなかった感じにしてたじゃねえか! こういう時こそ、ご都合主義発揮して時間スキップしてくれよ!
俺も寒いが、なによりルーちゃんがかわいそうだろ! いい加減にしろ!
「ふぁあ……うるさいわねえ……朝っぱらからなに寂しいことしてんのよ……家族が相手してくれないお父さんみたいよ」
やっべ、口に出てたんか……パンさんを起こしちまったわ……いや、待てよ。
こんな時こそ女神様や。
「パンさん、パンさん」
「なによ……うう……流石にここらまで来ると寒いわねえ……」
「そう、寒いんだよ。俺らがそうなら、ルーちゃんだってそうだろ?」
「そうね、起きたら朝の寒さに驚くでしょうね」
「思ったんだけどさ、防寒着でモコモコになったルーちゃん、可愛いと思わねえ?」
「絶対にかわいいわね!」
「だろ? そう思って冬服を作ろうと思ったんだが、クラフトさんが意地悪してさあ……」
「わかった! ちょっと行ってくるわね!」
「え……ちょ……」
パンさんが消えちまった……。
俺はただ……期間限定でもいいから、アプリを改良してクラフト時間を短縮してもらえたらなあ……って思っただけなのに……。
あいつ、どっか行っちまったぞ……。
「ただいま!」
「うおおお!? お、おかえり?」
ほんとこいつ……急に現れるからビビるわ……って、ウニクロの袋じゃねえか……うっわ、まじかこいつ……日本から仕入れてきやがった!
気軽に日本の物を買ってこられるっつうのも……リプラシルのことを考えると……なあ?
「ほんと、良いこと言ったわね! ほらみて、ルーちゃんのコートとかマフラーとか色々買って来たわよ! ふふ、こっちはあんたのよ。ナイス提案賞の景品としてあげるわ」
「わぁ……女神様だわ……」
「ふふん! 崇めなさい!」
うおおお……ちゃんと俺の分まで買ってきてくれたのか……。
まあ、住人たちに使わせるわけじゃねえし……俺らのものならセーフって前に決めてたし……あったけえし……いいわ、許すわ……セーフだわ。
……
…
いやあ、モッコモコのルーちゃん、可愛いですねえ。
目を覚まし、テントから這い出たルーちゃんは「え……身体がブルブルする!」なんて、可愛いことを言ってましてね。
パンさんが「これが寒いという感覚よ。さ、こっちの服を着ましょうねえ」と……お着替えをさせたんだが、もう最高すぎるほどかわいくてかわいくて……。
これで寒さ対策もバッチリだぜと、出発したのだが……猫車ってさ、通気性抜群だからさあ、冷たい風が入ってくるわけよ。
御者席に居る俺はもっと寒いし、クロベエとヒカリもちょっと寒いとか言ってるわけよ。
まあ……これも旅の醍醐味……辛いけどしかたあるめえと思ってたら、ふっと寒さが緩んだっていうか、感じなくなってな。
不思議に思ってたら肩を叩かれ、振り返ってみたらドヤ顔のパンさんよ。
なんでも、断熱フィールドみたいな結界を張ったとかで、これでもう寒くないぞと。
わぁ……女神様の魔法最高!
何が旅の醍醐味じゃ! やっぱ旅は快適なのが一番よ!
……
…
そんな感じで、手のひらくるっくるな旅を続けてきまして……出発から二週間が経ちました。
思えば遠くまできたもんだっつうか、周りはもうすっかり雪景色よ。
猫車のタイヤも、雪上用のごっついのに変わり、もうすっかり厳つい感じになってるぜ。
そう、俺たちは今、冬の大地に居るんだ。
まあ、ジワジワと春から晩秋、晩秋から冬に変わった感じだったから、気づいたら……って感じだったけどね。
多分、四日くらい前に完全に入ったんだと思うよ。一気に雪深くなって、パンさんの結界がないと寝られないくらいに寒くなってたからな。
だから、猫車を包む結界から抜けると寒くて寒くて。
マジでこんなとこに人なんていんの? って疑うレベルですわ。
人が居んならこう、煙の一つや二つ見えてもいいだろうに、未だに全然見えねーし。
まさか既に滅びているとかねーよな……なんて嫌な予想が頭をよぎったところでイベントが。
「ユウ、ちょっと出てきなよ。なにか居るよ」
「親父殿、あれは人族ではないか?」
バカップルキャッツが仲良くそんな事をいうので、どれどれと御者席に這い出てみれば……なるほど、確かにありゃあ人っぽい。
フラフラとこちらへ向かってくるのは、身長百四十センチくらいの小さな人影で、もこもことした防寒着らしきものを着込んでいる。
あれでスノータルットでした、なんてクソみたいな展開だったら嫌すぎるが、タルットはあんなに可愛らしい感じではないから違うと思いたい。
よし、ファーストコンタクトだ。
まずは声をかけてみようかなと思ったところで、スッとその人影が……消えた。
え? 消えた!? な、なんだ? 幻術かなにかか!?
「ユウ、あいつぱったり倒れたぞ」
「親父殿、どうしよう? 助けるか?」
あ、倒れて見えなくなっただけか……って、倒れたってヤベエじゃんか!
「うん、助けよう! クロベエ、ヒカリ! そっと近づいてくれ!」
「おっけー!」
「任せろ!」
小さな人影に向かって、ショリショリザクザクと猫車が向かっていく。
来たか、人助けイベントが……!
以前はリットちゃんという幼女だったが……あれは体格からしてもう少しだけお姉さんだろうな。
やべえな……俺の異世界ハーレムストーリーが今ここに始まってしまったようだぜ。




