第1話 再出発
ガタゴトガタゴト ガタゴトガタゴト
クロベエ車……改め猫車が原野を走る。
まだ見ぬ新たな土地へと向けて、猫車がガタガタゴトゴトとひたすら走る。
ガタゴト ガタゴト……にゃんにゃんにゃん。
馬車を引くのは黒き魔獣と白き魔獣。仲睦まじく二頭の猫が猫車を引いている。
「クロベエ、疲れてないか!? そうだ、私が代わってやるからお前は休んでいてくれ!」
「馬鹿だな、ヒカリ。お前も一緒に荷車引いているじゃないか」
「あ! そっか! 一緒に仲良く仕事をしてるんだったな!」
「仲良くではないだろ!」
黒いトラ猫と白猫がどうでも良い会話をしながらイチャイチャと猫車を引いている……はあ、ヒカリ……お前さあ……。
なんでこうなっちまったのか……誰が悪いって、俺とパンさんだな。
俺が「旅の目的地ってどこにあんの」って聞かなかったのも悪いし、聞かれなかったからと、言おうとしなかったパンさんも悪い。
でもさあ「始まりの村に寄りながら行くかあ」って言った時に「いいわねえ」とか言ってたんだよなあ。
多分、次の目的地である『冬の大地』がどの辺りにあるのか、特に気にしてなかったんだと思うわ……。
んでさあ、くっそ気まずい思いをして始まりの村を抜けてさあ……女神の森をビューンと高速で抜けたんですよ。
旅用に作った猫車の足回りは近代化されたものだし、なにより街道の整備が終わってっからね。
家まで一泊せずに行くことができるわけよ。
で、モルモルやウサ族なんかともさ「まかせたぞ」「おおせのままに」みたいなやりとりをして出てきたわけじゃん?
ばったり会ったら気まずいし、見つかる前にコッソリ通り抜けよう……って思ってたのに……家のあたりで丁度よく日が暮れやがってなあ……。
これはこれで都合がいい、だったら暗さに紛れてそのまま抜けてやれと思ったら、パンさんがごねたわけ。
『ユウー、疲れたあ。ねえ、ちょうどいいし、このまま家で休んでいきましょうよー。ねえ、ルーちゃんもその方が良いわよね? ね?』
『うーん……ねえ、ユウ。ママもこう言ってるし、今日はおうちで休もう? 今日のことはしょうがなかったんだよ。明日、しれっとやりなおしたらいいんだよ』
なんか、うまいことルーちゃんを使ってごねたっつうか、俺を諭させたっつうか……。
そこまで言われちゃうと、まあいいかあ……って。
既にグダるだけグダっちまってるし、考えてみたらモルモルやウサ族は良い奴らだから、キンタたちみたいに変な顔したり、からかってきたりしねえよなあって。
じゃあ、明日また出直すかあって家に向かって、案の定途中でリリィやらモル助やらとばったり会っちまったが「あれ、忘れ物ですか?」くらいの反応でな。
いやほんと、良い奴らだよなあ……なんて思いつつ、帰宅して、のんびり一夜を過ごしたのだが。
事件が起きたのは、翌朝のことだった。
出発の支度を整え、さあ改めて出発しようかって時に、ヒカリの奴が家に来ちまったんだよ……。
『家の見回りに来てみれば……はて、これはどうしたことだろう? クロベエが居るように見える……これは夢だろうか? いいや違う……! 匂いが本物だと伝えている!……クロベエ、私を迎えにきてくれたんだな!』
なんていうわけよ……。
そこはそれ、俺のクロベエちゃんだからさ――
『なにいってんの! 違うよ! 間違えて来ただけだよ! お前はダンジョンに帰れ!』
――って、尻尾を嬉しそうに振りながら、仕事に戻るように言うわけよ。
だが、ヒカリはクロベエにしがみついて離れないわけ。
カブトムシみたいに、ギュッとしがみついて動かないわけ。
『どうすんのこれ……? せっかくフロアマスターだからって、お留守番を納得させたのに……なんかもう一生離さないって感じになってるわよ……』
『どの面下げてそんなこと言ってるんすかねえ……』
『ふひゅーふひゅー』
吹けてねえよ。
で、どうすんべって頭抱えてたら、出勤途中のリリィが来たんだよ。
なんでも、旅のお見送りをしにきたとかでな、ほんとウサ族は良いやつだよなあって思ったわけ。
そこでひらめいたのよね。
二階層にうじゃうじゃいるウサ族は、戦力としては頼りにはならんが、日常的な管理なら、十分頼りになるんじゃねって。
んで、こそっとリリィに聞いたわけよ。
『この様子じゃ留守番させるのは難しいし、ウサ族全員でフロアマスター代理してって言われたらできるか』
って。
そしたら、できなくはないが、現状フロアマスターが居なくて困ることは無いのではないかと言われたわけ。
現状、二階層にくる冒険者は居ないし、一階層のアホな魔物たちには許可が下りていないので、来ることもない。
そして、二階層の住人たちはお行儀がいいので、治安的な問題もないと。
『ですので、ヒカリ様をお連れしても問題はありませんよ』
なんて太鼓判まで押されちまってなあ……。
だったら、なんの問題もないなと言うことで……しれっとヒカリを誘ったわけですよ……。
『うーん、やっぱこれを引くのはクロベエだけだと大変だよなあ、あ、ちょうどよくヒカリが来てるじゃん。なあ、ヒカリ、お前も旅についてくるか? 良かったら、クロベエと一緒にこいつを引っ張ってくれよー』
なんて言ったら、ギュルルルンって音を立ててヒカリの忠誠度が上がる音が聞こえてな……。
『お任せください親父殿! このヒカリ、クロベエと共にどこまでもお供します!』
……っつうわけで。
結果的にヒカリも旅に同行することになったんだ。
まあ、実際のところ今んとこは居なくても良かったみたいだし……二頭とも楽しそうだから良かったかなって。




