第37話 さらば春の大地
というわけで、二週間ぶりくらいにやってきました、始まりの村!
おや、誰かが凄い勢いで駆けてきますね。
あれは……ザックだな……ふふ、よっぽどモルモルの到着が待ち遠しかったんだろうな……。
「ユウさん! 待ってましたよ! 来たって聞いて、居ても立っても居られなくって……」
「わかったから、おちつけ。モルモルは逃げねえからさ」
「へへ、わかってんですけど、待ちきれなくって。こっちっす! こっちこっち!」
元気いっぱいに案内された場所には、くっそでかい溜め池が作られていた。
我が家の池よりもだいぶ大きなため池は、近くの川から水を引いて作ったらしいのだが……その川とやらを、見たことがねえんだよなあ。
池に繋がる水路を目で追ってみれば……あー、あれか……と、薄っすらと見える川を見つけることができたけど……ザックくんや、あれは俺の国じゃ「近く」って言わねえんだよ。
そこそこ遠いのに、よくまあここまでこの短時間で水路を引けたよなあ。
俺がいるうちはまだ無かっただろ……ほんと、村人たちのポテンシャルはやべえな。
「これだけあれば、モルモルたちも喜んでくれますよね?」
「ああ、うちの池より広いからな、きっと喜んでくれるさ」
「良かった……俺の弟弟子みたいなもんっすからね、快適に過ごしてもらいたいなって思ってたんすよ」
弟弟子……そうか、ザックもモル助の弟子だもんな……。
同じくモル助に師事したこいつらも同門ってことになんのか。
ちなみに、この池はちゃんと「モルモルたちが住み着く池」として周知が済んでいて、村人たちの何人かは、モルモルが来るのを今か今かと楽しみにしていたらしい。
そんな楽しみにするような魔物じゃねえんだけどな……まあ、ポヨポヨしてんのは……可愛いかもしれんが。
なんにせよ、村の一員として受け入れてもらえそうで良かったわ。
「ユウさんがぱぱぱーっと上下水道の基礎工事してってくれたじゃないっすか。そしたら、『早く使えるようにしてほしい』って急かされるようになっちゃって……コンロも作らなきゃないのに、もう大変っすよ……」
「ああ……それに関しちゃマジ済まねえ。アレばっかりは一気にやらねえとならねえからなあ……まあ、弟子と協力して切り抜けてくれ」
「うっす……ところで、モルモルたちはどこっすか?」
微妙に落ち着きがねえなって思ったら、モルモル探してたのか。
気付けば、村人たちがわやわやと集まってきてるし……こいつらがあれか、モルモルを心待ちにしてた連中か?
ようし、池もバッチリいい感じだし、忘れないうちに喚んでおこう。
「ルーちゃん、ザックくんがモルモルを御所望だ。出してくんな」
「はーい、じゃあ喚ぶねー! でてこーい、モルモルー!」
ルーちゃんの可愛らしいかけ声と共に、小さな光の柱が立ち、その中からぴょこぴょことモルモルたちが現れた。
「「「おおおおお……!」」」
「おぉお……モルモルだ! そっか、そういえばルーちゃんそんなことできましたね!」
ルーちゃんが召喚をする様子を見たことがあるザックは『あーね』って顔をしてっけど、村人や、見学に来たらしい魔導具店の連中は口をあんぐりあけてびっくりしている。
「ユウ殿、我らモルモル上下水道部、命に代えても勤め上げて見せますぞ!」
モルルがクイッと身体反らしている。
これはきっと、胸を張っているつもりにちがいない。
「命は大事にしとけ。まあ、そんくらいの気持ちで頑張るってことは伝わったよ」
このモルモル達は、パンとモル助の厳しい研修を耐え抜き、その知識と技術を受け継いだ精鋭たちだ。きっとザック達の力となり知恵となり、村の発展に貢献してくれるだろう。
「村のみんな、こいつらが新たな仲間のモルモルだ。みんな気のいい連中だから仲良くしてやってくれな」
「我ら、モルモル上下水道部の名を汚さぬよう献身する故、どうかよろしく頼む!」
「「「「頼む!」」」」
モルモル達の挨拶に「お、おう」となっているが……ま、怖がっては居ないようだから大丈夫だろう……。
「ユウさん……モルモルってよ、喋れるもんだったっけ?」
村人が苦笑いをしてそんなことを聞いてくる。
モルモルが喋れるって……なにを当たり前の……
……ああそうか、俺もザックも慣れきってたから忘れてたが、普通のモルモルは喋れねえんだったな……。
「このモルモルたちは、特別な訓練を受けたおかげで、頭の上の魔導具を使って喋れるようになってるんだ。野生のモルモルはここまで賢くねえから、気をつけてくれよな」
こいつらの頭の上には、小さなベレー帽がちょこんと乗っている。
これはモル助が頭に乗せている王冠と似たようなもので、これを基地局として、一定の距離内にいるモルモルの言葉を翻訳してくれるという、とんでもねえものだ。
五匹全員にそれがついているのは、今後分裂して増えた時に対処できるようにするためだな。
それ以上増えた場合は……まあ、それまでには旅から戻っているだろうから、その時考えよう。
……さて。
モルモルは託した、ザックに激励も送った。
それではいよいよ冒険の旅に――と、いきたい所なんだが、もう一軒だけ寄っておかないといけないところがあるんだよなあ。
「ユウサンガー キタヨォ!」
「うおおっ!? ユウだ! ユウが来やがった! 今度はなんだ! 俺もう村長とかやりたくねえよお!」
俺の顔を見るなり失礼な事を言う男、キンタ。
なんだってなんだよ……いっつも面倒ごとばかり持ってくるようなこと言いやがってよ……いやまあ、半分は合ってるけどよ……。
「まあまあ、今日は面白いもん持ってきたんだよ。これをくれてやるから頑張りなって
」
「おっ? なんかくれるのか? お前がくれるものは仕事以外は良い物ばかりだからな……って、なんだこれは」
キンタに渡したのは、ヒカリにもくれてやった連絡の魔導具だ。
……首輪じゃなくて指輪だけどな。
キンタに首輪とか、絵的にアレすぎるわ。
指にはめるように言うと、左手の薬指にはめようとしやがったので、右手の人差し指にはめてやった。
こいつ、地味にネタを拾いに来やがるから怖いわ……。
雑に『離れていても俺と連絡が取れる道具なのである』と伝えると『へえ、便利な道具があるんだな』と、特に気にせず受け取ってくれた。
仕組みとか聞かれても困るので、脳筋はこう言うときとてもありがたいぜ。
「ユウさん! なんか遠くに行くらしいじゃないですか! 居ない間、どうすりゃいいんですか! キンタさん動かすのも楽じゃないんですよおおお!!!」
うおおお……シゲミチか……急に来るじゃんよ……。
む、いつの間にかリットちゃんが来てルーちゃんと遊んでるな……なるほど、俺が来てると聞いて、シゲミチを連れてきてくれたのね。
このままこっそりと居なくなって、留守中の事は全部シゲミチに押し付けようと企んでいたのだが……。
……リットちゃんがウインクしてる……まさか、俺の行動を先読みしての行動か?
ううむ……マジで侮れん少女だ……。
「よ、ようシゲミチ! まあ、俺が居なくても今のお前らなら自分たちで何とかできるだろうし、本気で困ったときはキンタに言えば俺と連絡してくれっからさ!」
「キンタさんが? まさか、ユウさんとこまで寝ないで走ってくれたりするんです?」
「それはそれでおもしれえが、まあ、特別な方法があるんだよ」
キンタ走らせるとか発想がウケる。
指輪渡さねえで、そうしてもらった方が良かったかな?
「ユウさん、良かったら泊っていってよ。村の代表の家だからって、大工達が部屋を増やしてくれたんだ」
む……言われてみれば、確かに少し広くなって、村長の家っぽくなってるな。
お泊り会は楽しそうだが、一泊してうだうだしてると、また余計な仕事が増えそうだからな……。
「悪いね、マーサ。折角だけど今回は遠慮させてもらうぜ。こうしている間にも、俺が来るのを待っている、まだ見ぬ友が居るかも知れねえんだからな!」
「あはは。また面白い言い方をしちゃってさ。つまり、またどこかでウチらにしてくれたみたいなことするんでしょ?」
「そういうこったね」
「はー、そういうことならしょうがねえな……ユウ、俺も頑張るけどよ、お前も頑張れよ」
「おうよ、キンタ。任せておきな」
「ユウさん、なにか面白いものを見つけたら、持って帰ってきてね」
「ああ、リットちゃんのお土産、いーっぱい見っけてくるよ」
「ありがとう、ユウさん! 私ね、それでリパンを稼ぐんだ!」
「お、おう……そうだな、いい感じの商材を見っけて来るよ……」
「ユウさん……どうか優秀な人材をもっともっと発掘してきてくださいね……村だけだとちょっと人手が足らなくて……」
「できたらやるわ……」
「それやらない感じがするんですけど! 頼みますよ、ほんとに……」
なんて事をやってるうちに、噂を聞きつけた村人たちがワラワラと集まってきてしまって。
結局、出発式もどきをやるはめになりまして、予定より三十分遅れで盛大に見送られながらの旅立ちとなりました。
どうせまたすぐ帰ってくるってのに、ほんとこいつらったら……。
まったく……良い奴らばっかで泣けてくるぜ。
じゃあな、始まりの村のみんな……。
新たな友と出会い、新たな物と一緒に帰ってくるからよ、その日まで元気でな……。
◆
ガタゴトガタゴト
スマホで道を作りながらゆっくりとクロベエ車を走らせ、かれこれ三十分が経ちました。
頭に浮かぶのは、名残惜しそうに俺を見送る村の連中と、まだ見ぬ土地での出会い。
さあ、これから俺にどんな出会いが……――
――あれ、ちょっと待って?
意気揚々と出発したけどさ……パンさんが言ってる集落の場所ってどこなん?
あれ……場所って確認してたっけ……してねえな。
「ヘイパンサン! 新たな集落の場所を教えて」
「はい、集落の場所……って、あたしはスマホのAIじゃないっつーの……ええとね……」
とかいいつつ乗ってくれるパンさん。
そういうとこマジで好きだぜ。
「あっ……」
「あ?」
「次の集落の場所は、塩のダンジョンから、西方向にずーっと行ったところ、ですよ」
「モノマネ上手すぎてうける。まんまスマホのAIじゃん……おいちょっと待って? それって、今向かってる方向と逆じゃね?」
「いちど、我が家方面に戻り、西方向です」
「それってつまり……また村を通って家に戻る感じになるって……こと?」
「ルートを外れました。安全な場所でユーターンしてください……ユウだけに」
「……」
「いひゃいいひゃい! ほっへは ふへははいへほお!」
ウッソだろお前……
……
…
ガタゴトガタゴト……既に整備済みの道はいいよな。特に苦労することもなく、サクサク走れるんだもん……このまま……そっと脇にそれて……。
「あ、あれ? ユウさんだ」
「どうしたんですか?」
「ユウさんだ……ユウさんが戻ってきたぞ……」
「さっき見送ったのにユウさんがいるぞ」
「おーい、ユウさんがまたきたぞー!」
村の脇をこっそり抜けようと思ったのに……即バレやがった……。
あっという間にわらわらと集まっていた村人たちから「なんでなんで」の大合唱。
「あれ、ユウじゃん。どうしたんだ? あんなにいい感じに別れたっつうのによ」
くっ……ころせ!




