第14話 解体すんぞ!
見事イノシシを討伐した俺は、その亡骸を高く掲げ持ち意気揚々と拠点に戻った。
はい、嘘です!
俺にそんな力はないでーす。凄いのはスマホだけでーす!
なのでツルでくくって、クロベエくんと一緒に引きずってきましたー!
……おかげで手足がだるくてしかたがねえよ。
イノシシさんがくそほど頑丈でさ、ここまで引きずってきたのに、全然ぼろぼろになってねえの。
これは普通に助かったけど、こんなのよく倒せたなって思うぜ。
あ、倒したの俺じゃなくてスマホでーす……はぁ。
まあええわ! 切り替えてこ!
つーことで、解体する前に図鑑に収めてみましょーう。
パシャリ
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魔獣:ヒッグホッグ 体長2m~5m
ぬた場でごろごろして体中に泥をつける習性がある。
その身についた泥は、魔力により性質が変わり、魔鉄鋼となる。
……額のあれさ、あたしも外骨格だと思ってたんだけどさ……
あれって、泥がヒッグホッグから滲み出るマナと結合して硬化したものなんだって。
さっきブーちゃんからメッセが届いてはじめて知ったわ。
いやあ、大自然ってフシギだねー……って
なんでブーちゃんからメッセ来たんだろ……ヒッグホッグの写真送ったっけ……?
あ……ごほん! ヒッグホッグの肉は非常に美味である。
ジビエ特有のクセはなく、高級ブタのように甘い脂に、やわらかな肉質を楽しめる。
筆者はロースを炙り、レモンと塩でいただくのがいいと思う!
素材:毛皮 魔石 肉 魔鉄鋼
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「筆者って誰だよ……つか、パンちゃんは音声入力やめたほうがいいぞ、まじで」
ポコン!
『私ですが?』
うるせーな、わかってるよ! 暗に答え言ってたじゃねえかよ!
パンちゃんヒマなんだなあ……つか、ブーちゃんって誰だよ……前に話してた同僚さんか? それっぽいよなあ……なんか有能な香りがすげえするわ。
「あ、ついでに聞くけどさ、レモンってこっちにもあるの? あと、塩ってここらでとれる?」
ポポコン!
『ありますよー レモンはルンという果実ですが、レモンと似てるので見ればわかるかと』
『塩は……この辺りだと岩塩が使われてますね。採掘地はここの岩場が近いかな?【位置情報添付】』
おお、メッセのリンク踏んだら、岩塩ポイントまでのナビが立ち上がったぞ!
塩がありゃ、たいていなんとかなっからな。こいつを解体したらさっそく取りに行こう。
……解体……ああ、そうか。
イノシシさん、解体しなきゃなんだよなあ……。
釣りが趣味なので魚をさばいたことはある。鳥も、叔父からヤマドリを貰った時に、なんとかネットで調べながら頑張ったことがある。
まあ、鳥さん好きだからよ、メンタル的にちょっとキツかったけれど、あれはまだ魚の延長的な感じがしたからな。
わりと何とかなったんだよ。
しかしイノシシはどうだろうな……。
漫画や映画なんかで、解体シーンを見たことはあるくらいのもんで、まったくの未経験だ。
ああ、グロさとか、忌避感は大丈夫。その手のはさ、ウルッグのおかげでだいぶ慣れちゃったんだよね。
問題なのは、忌避感じゃなくて技術的なお話なんよ……。
うーん……AI に聞いてみるか? いや待て、検索した方がいいかもしんねえ。AI って、たまに適当なこと言うからな……なになに、足を縛って木につるし、下に穴を掘ると……――
ポコン!
なんだようるせえな……今調べてるとこだっつーのに……あーもう、通知に触ってメッセ開いちゃったじゃん……うん?
『今アプリでできるようにしました』
「まじかよ神じゃね」
ポコン!
『女神ですが?』
ポヒュ!
『そうだったわ(神に祈る猫のスタンプ)』
いやあ、流石は女神さまだね。実装タイミングが神がかってるぜ。
でもさ、もう少しこう、なんというか……ねえ?
まだもうちょっとだけ、泥臭くあえぎたかったというか、さ。
苦労して捌いた肉は、ちょっと失敗して臭みが残っちまったが……これはこれでがんばった証を感じられて美味い!
みたいな……こう……ロマン的な……さ。
実際やったらグロくてキツいだろうけどさ、こういうのって、手を付けるまでのワクワク感って言うか、そういうのあるじゃん?
ポコン……
『要らないなら戻します……(しょんぼりキャッツのスタンプ)』
「いやいや! 助かるから! 血みどろになるの嫌だし、確実に失敗して不味いお肉にしちゃいそうだもん! マジ助かるし、ほんとにありがたいから! 戻さないで!」
ポコン……
『ほんとかなあ……』
ポヒュ!
『すいませんでした。めちゃたすかります(五体投地するアザラシのスタンプ)』
ポコン!
『わざわざメッセも送ってくれたので、今回は信じましょう……(顔を半分出して様子をうかがう猫のスタンプ)』
確かにさ、少しがっかりはしたよ。嫌だなあって気持ちはあったけど、これも経験じゃ! っていう、ちょっとした心の昂りもあったからね。
けどさ、一度だけじゃなくて、毎回やるのってキツいじゃん。マジで大感謝だぜ、パンちゃん先生!
というわけで、ウキウキしながらアプリを見てみると……ありました!
アプリのホーム画面に『解体』という項目が増えていますよ!
さっそくアイコンを押してみると、カメラが立ち上がり、画面中央に大きめの四角い枠が表示されている。
きっとこれに対象を収めれば……おお『マニュアル解体』と『オート解体』のボタンが表示されたぞ。
「マニュアルは……なんか面倒な気配がするので、今回は楽そうな『オート』を使ってみよう」
ボタンをタップすると、ヒッグホッグが光に包まれ見えなくなった。
ゴキッ ガキッ ベリリッ ぬちょぁっ!
おお……この光はグロシーンをカットするためのものか。
素直にありがてえ……でもできれば音も消して欲しかった……。
音だけでも十分グロいっつうか、こういうのって普通はさ、ピカーって光ったら『デデーン!』って肉だけ現れる感じなんじゃね?
めきめき! ぷるるん♪ ゴリゴリァ!
まさか普通に解体作業が始まるとは思わなかったわ……つか、マジで音が生々しくてキツい。
クロベエと共に、なんとも微妙な顔でそれを見守っていると……音がぱたりとやんだ。
まもなく光も消えて……中から毛皮と少量の金属片、そして山のように積まれた肉が現れた。
「うおおおおおお! 見ろよクロベエ! 肉だぞ! 肉!」
「にゃあああ! にく! にく! にく!」
「ロース! ロース! あたし! ロース! ロース!」
「おい、今どっかの女神の声が後ろから聞こえたんだが!?」
ポコン!
『気のせいです。しかしすごい量のお肉ですねえ』
こいつ……まあいいや。たしかにすげえ量だわな。
倒したのがさ、ヒッグホッグでもデカい方のやつだったわけじゃん、肉の量も半端ねえわ。
ひとりと一匹じゃあ、持て余すっつうか、腐らせちまうよ。
「どうすんべなあこれ。ストレージに入れるしかねえが、画面サイズに切るのはめんどくせーしなあ……」
ポコン!
『あんたねえ……せっかくあげたんだから、もっとストレージを活用しなさいよ』
「えー? 結構使ってね?」
ポコン!
『もっと効果的に使いなさいって話よ。わざわざバッグを木の実でいっぱいにしてみたり、ヒッグホッグを苦労して引きずってきちゃったりしてさ……見ててびっくりしたわ』
「ラッツはまあ、わかるけど、ヒッグホッグはしょうがねえだろ」
『中に入れたら時間が止まるのよ? 食べ物なんかはすぐに入れたほうがいいに決まってるじゃないの』
「現地でいっこずつスマホに入れるの面倒だったんだよ。つか、今やこんなお肉になってっけどさ、あの巨体がスマホに入るわけねーだろが」
ポコン!
『うん? ヒッグホッグが入らない?????』
「今はさ、こうしてブロック肉になってるからナイフで細かくすれば入るだろうけどさあ……狩りたてのあれはむりだろ? あんなん枠を通らねえじゃん……つうかさ、この肉を収納すんのも割と嫌なんだが……」
だって液晶にお肉のぬめっとした脂がつくんだぞ? 嫌すぎるだろ……。
神コーティングとやらがされてるらしいからさ、拭けば落ちるんだろけどさあ、だからといって、肉を画面に付けようとは思わないじゃん?
女神に魔改造されたけど、これ買ったばかりの新モデルよ? 怒りの一括十八万円のスマホなのよ?
ポポコン!
『……枠をくぐらない??????』
『あーー! そういうことwwwwww』
ポコン!
『ヒュフッ た、確かにそれでも入るっちゃ入るけど……ヒイ……そ、それって隠蔽用に用意したおまけ設定みたいな機能で……プッ……お、お肉を……液晶に……あははははははは』
「パンちゃんさん?」
ポポポポコン!
『あっはっはっは……おなかいたい! そ、そう言えばちゃんと説明をしてなかったけど解体と同じなのよ』
『ストレージ画面を、よく見なさいよ。回収アイコンがあるでしょ?』
『それを押せばカメラが立ち上がるから、その枠内に入れて回収したいものをタップするだけ。簡単でしょ?』
ポポコン!
『あ、先に言うけどそのボタンは最初っからあったからね? それに、ヒッグホッグだって、スマホにちょっと当てたら入ったからwwww』
『ていうか、丸太入れてたじゃないのwwwww アレだってスマホより大きかったでしょ!』
「あっ……そういやそうか……丸太はあれだよ、細長えじゃん! だから無意識にやったんだよ! ミニバンみてえなヒッグホッグがスマホに入るとか思わねえだろが!」
クッソ、顔が熱い! 俺としたことが大失敗だ!
ポポコン!
『ほんと……君と来たら、回収ボタンに気付かないどころか、枠を通らないとかwww そ、それより……すまっスマホに……肉をあて…当てるとか言っちゃってんのがくっそうける……あはははははは』
『まじでくさ』
ポッポポコン!
『(草原のスタンプ)(草原のスタンプ)(草原のスタンプ)』
あおおおおおお! くそがよおおおお! 悔しすぎて恥ずかしすぎてどうにかなっちまいそうだぜ!
「あーーもう! そもそもの話、わざわざアプリを経由しなきゃねえってのがめんどくせえんだよ! どうにかなんねえんすか!」
ポコン!
『ほんと細かいこと言うわよね……うーん、しょうがないわね、笑わしてくれたし、いかにもな感じの道具を支給してあげる』
「うおお言ってみるもんだ! そうだな、せっかくだしカバンタイプより指輪タイプがいいな! だってかっこいいも――」
俺の言葉をぶった切るかのように、ドスンという音を立てて何かが降ってきた。
ポコン!
『はい、アイテムボックスよ。大事に使いなさい』
それは、俺が入れるくらいでけえ木箱だった。
……つうかさ、これまんま某サンドボックスゲーのチェストじゃねえかよ……。
「これがほんとのアイテムボックスってやかましいわ!」
ポコン!
『フフッ』
「なにわろてんねん!」
こんなふざけた見た目だが、大抵のものは大きさ関係なくヌルりと収納できちゃうすげー箱らしい。
取り出すときは、欲しいものを想像しながら手を入れるとヌルっと出てくるそうだ。
スマホのストレージと連動していて、どちらからも出し入れが可能。
また、うっかり中に落ちないよう、ボックスには生物を入れられないようにロックがかかっているそうだ。
こんだけデカいからな……重たいものとか入れてる時に、うっかりするとズルっと行きそうだし助かるわ。
……仮にロックが無かったら……入った生物はどうなっちまうんだろうな? 聞きたいような聞きたくないような……。
ポコン!
『あ、これめちゃくちゃ重たいから、動かす時はスマホのストレージに入れるといいわよ』
「ストレージにアイテムボックスを入れるのか……次元干渉とかそういうの起こして爆発とかしねえよな」
ポコン!
『しないわよ……(たぶん)』
「たぶんってなんだよ! おい、こら! くっそ、こういう時はだんまりかよ!」
……ほんとに大丈夫だよなあ?




