第35話 動き始める村
さて、最後に忘れちゃいけないのが魔石についての説明だ。
魔石はいわば魔導具の電池に該当する肝心な部分。コンロの場合は魔石一つで数ヶ月持つけど、それってなんでもいいわけじゃないんだよな。
今や空気設定と化した、スマホの充電を思い出してやってほしい。
あれって魔石によって充電できる量が変わるじゃんか。それって純粋に内包している魔力の量が違うだけなのかなって思ってたんだけど違うんだって。
パンさんが後出しで言いやがったけど違うんだってさ。
お約束設定で雑に説明すると、クッカの魔石をFランクとすると、ヒッグホッグやリブッカはDランク程度。
Fランクの魔石は内包魔力量が20ポイント程度だが、Dランクともなれば桁が上がって500ポイントもあるわけだ。
これだけみても、Dランクの魔石のがすげーんだなって思うけどさ、魔導具を動かすのに肝心なのは、内包魔力量だけではなく、放出できる魔力の強さ……最大出力量らしいんだな。
コンロってさ、実は結構エコな仕様みたいでさ、一般的な調理時間だと、一日当たり3ポイントくらいの消費で済んじゃうんで、それだけ見ればクッカの魔石でも六日は行けそうな感じがするわけじゃん。
けど、実際はそうじゃない。
これも後出しされて、ブチ切れることになった案件なのだが……魔導具のコアとなる部品に『魔導回路』というものがあるらしくてな……。
これは、刻まれている回路が複雑になればなるほど、必要な魔力の出力量が上がっていくそうなんだ。
回路が単純な魔導具、例えばライターみたいな魔導具なら、Fランクでもいけるそうなんだが、IHめいた魔導コンロや、浄水器のように複数の術式を組み合わせためんどくせえ回路の場合は、最低でもDランクじゃねえと動かねーんだってさ。
……ちなみに、なんで魔導回路で俺がブチ切れたかと言うと、それこそ今の村人たちに作ることが出来ないものだからだな。
これを作ろうと思えば、魔法の勉強をがっつりとした上で、魔法の発動まで出来るようになっている必要があるとか言うんだもん、俺がブチ切れるのはしょうがねえだろ。
なので、当分の間は回路に限ってこちらで用意をしてザックに納品することにしたんだが、これがまた単体だと俺のスマホで作れなかったんだよなあ。
だから、パンさんにその役目を与え、いずれ余裕ができた頃に村人相手に魔法講座をするよう、約束をさせたよ。
いつになるかわからねえが、しっかりとリマインダーに入れとくからな。
覚悟しておけよ……。
っと、話がすこーし横道にそれちまったが、魔石だよ、魔石。
村人たちも魔導ランプは使ってるからさ、サラッと説明をした時点で『ああ、マモ爺が変えてたやつ』とか言って理解してくれたし、それなら結構あまってるよな! なんなら捨ててるよな! なんて、盛り上がってたんだが……。
『コンロを使うには、最低でもリブッカくらい強い魔物の魔石が必要だ』
そう言った瞬間、目に見えて会場のテンションが下がってなあ……。
まあ、そのリアクションも予定通りっつうか、利用させてもらったんだけどな。
ざわつく会場に『だ・け・ど! ご安心ください! い~い方法があるんです!』と、通販めいたセリフをブチかまして改めてダンジョンの説明をしてやったんだ。
キンタたち狩人が、試しにダンジョンに入ったこと。
ダンジョンの魔物は強いため、ぼっこぼこにされたこと。
しかし、キンタたちも徐々に強くなり、最後にはリブッカ級の魔石をいくつも持ち帰れるようになったこと……。
などなど、キンタたちを呼び、彼らにも体験談を話してもらいながら説明したんだ。
大事なのは、狩人ほど戦い慣れていなくても、ある程度動ける人間であれば十分ダンジョンで強くなれるし、魔石を持ち帰れるようになるということだな。
ダンジョンの仕様を聞いたのもあって、興味を示す村人は多く、なにより魔石以外にも鉱物や薬草、卵や肉等の食料が手に入るということに、奥様連中が大いに食いついてなあ。
狩人さんちはもちろん、それ以外のお仕事をしているご家庭の方々も『あんた、ダンジョンに行きな』と、グイグイやってましたわ。
……まあ、みんな一度くらいは試しに行ってみるといいさ。
つーわけで、説明会は大盛り上がりで終わりまして。
村人たちは大興奮でそれぞれのお家に帰っていきましたよ……もうね、興奮しすぎて、今直ぐダンジョンに行く勢いだったから、止めるのに苦労したよ……。
受け入れ準備しなきゃねえんだから、マジで勘弁してくれ。
そのために、一度帰らなきゃならねーんだが、二日三日くらい、村で作業しなきゃならないんだよなー。
ザックの店やら銭湯やらを建てなきゃならないし、各家庭の基礎工事も済ませなきゃならないからな……あ、そうだ。
忘れる前にキンタ村長にお仕事を与えておかねーと。
リットちゃんのおうちあらため、村役場へと行き、キンタを呼び出してもらった。
なんだかとっても面倒くさそうな顔をして現れたキンタ村長に両手を出すようにいい、ストレージから直に5kgの米袋くらいの布袋を取り出してやった。
「キンタ、これ村の運用資金だから勝手に使うんじゃねえぞ?」
「うおお、重てえな!? なんだこれ……うっわ、リパンがすげえ沢山入ってる……こんなに……俺が貰っていいのか?」
「よかねえよ。村の運営資金だっつーの」
「ウンエイシキン?」
「ああ、これからザックたちが水回りの仕事をするだろ? その代金をそっから払ってやってくれ」
「にしては多いような気がする……多いんだよな?」
リットちゃんより数字に弱い男、キンタ。そんな彼のために何のためのお金か、やさしく優しく教えてあげました。
今後、よそから人が来た際に、その人たちにも支度金として500リパンを配るようにしないと村の中のリパンが足らなくなってしまうということ。
そのために、ちょっとどころじゃなく多めのリパンを渡したということ。
それ以外にも、村のために何かをするとき、例えば広場を整備したりするのに人を使ったときの報酬として使ってもいいということ。
でも、調子に乗って使いすぎると、住人が増えた時に支度金を用意できなくなること。
万が一、やらかしてしまった場合は、キンタが責任を持ってダンジョンで換金アイテムを集め、冒険者ギルドに納品してお金を稼ぐこと……。
……と、先生が小学生に教えるように説明してやったのに、キンタの奴め、早々にギブアップしやがってな……。
「ちょっと待ってろ……」
と、震えた声で言いつつ外に出ていき、シゲミチを連れて来やがった。
確かにこういうのはシゲミチに任せた方が安心だけどさ……。
まあ、キンタには無理かと、シゲミチくんにお金の管理をお願いしたわ。
配りすぎず、ケチり過ぎず。ちょうどいいバランスでお金を村に流し、お金の価値が低くならないよう気を付けるように念を押しておいた。
税金収入的なのは今のところ銭湯以外には無いから、雑にやりすぎると村が破綻しちまう……。
シゲミチが来たならと、ついでに今後の公共事業についての説明と言伝を頼んだ。
「これから村に風呂やら上下水道やらを作るってのは知ってるだろ?」
「はい! わざわざ井戸まで行かなくても良くなるんですよね!」
「おうよ、そんな便利で素敵な仕組みを作るためにだな……――」
かくかくしかじかと。
上下水道の工事と、完成した施設の維持にはモルモルの存在が不可欠であるということ。
そのモルモルは、俺が住んでいる土地の住人で、人を襲う事が無いばかりか、キンタ以上に賢く、人の言葉まで話せるということ。
そんなモルモル達が住処とするのは施設の維持に必要な浄水施設であるという事と、それをこれからザック主導で大工を集めてガワを建築するということ。
それが終わり次第、俺が施設に仕上げをし、そこで働くモルモルたちを連れて来るので、それまでの間に村人たちにモルモルについて説明をして、素敵なフレンズを見て怖がらない様にしてほしいということ。
以上の事を伝えると、一通りメモを取り終わったシゲミチは『任せてください』と、頼りがいのある素敵な笑顔を見せてくれた。
これが出来る男って奴なんだよなあ……見てるかキンタよ……って居ねえし。
逃げやがったな、キンタめ。




