第31話 魔導具ってなあに
◇◆SIDE:リパンニェル◆◇
ザックくんが一生懸命メモを取りながら、モル助に質問しまくっている。
あの様子なら、そう遠くない日に始まりの村に上下水道が敷かれることでしょう。
そうなると、ルーちゃんやユウ、それにモル助と相談して浄化用のモルモルを何匹か村に派遣しないといけないでしょうね。
村に行った後は、必要に応じて分裂してもらえばいいし、新たに別の村が近場に生まれたら、次は始まりの村から派遣して、現地で分裂してもらって……。
……そのうち、浄化モルモルみたいな新種族としてシステム登録されちゃうかもしれないわね。
それにしても……この子たち、なかなかに熱が入ってるわね。
うーん……もう私がいなくても大丈夫よね? 師弟の間に挟まるのは良くないし、先に上に戻ってましょう……。
「ただいまー」
あら……? なんかめっちゃいい匂いがしてるわね……。
「パンさん! やっぱりこのかまど最高よ! 煙が出ないし、火加減の調節まで出来るのはほんと便利ですごくって!」
お玉を片手に興奮気味に語るのはマーサだ。
そういえばこの子、串焼き作らせてる時にやたらとユウに迫ってたわね。
アレを見た時は、家族崩壊の四文字が頭をよぎってめちゃくちゃ焦ったけど、調理器具について問い詰めてるだけで、なーんだって思ったっけ……。
まあ、ユウがモテることなんて無いから、そんな心配は無いんだけどさ。
「すっかりお気に入りみたいね。実はね、これを村でも使えるように――」
「本当!?」
「ちょ、マーサ……近いから! 近いって! 塔を建てられちゃうから! ちょっと! あーあー! リットちゃん、ちょっと、お母さんを――」
「パンさん! これがあれば私もお母さんのお手伝いができるの! お願い! これを村に! 村にー!」
「ちょ、やめ! こら! 変なとこにしがみつかないで! きゃっ……やめ、やめ……あああああ!! ユウうううう! 助けてええええええ!!!!」
……
…
……母子が落ち着くまで五分かかりました。
「もう、話は最後まで聞きなさい。つまりね、村に広めるためにも、あなた達にはある程度仕組みを知っておいてもらいたいの」
「仕組み……ですか?」
「ええ、道具のことをよく知っておくと、何かあった時に助けになるでしょ」
「なるほど……たしかにそうね」
「それでね、この魔導コンロは『魔導具』と呼ばれるものなの」
「マドウグ?」
「村で使われているランプも実は魔導具でね、簡単に言うと……道具を使って魔法を再現できるものって感じかしら」
「魔法……そういえばユウさんがなにか言ってたわね」
「ここを押すと、この模様のところが熱くなるでしょ、その仕組に魔法が使われているのよ」
「火がないのに熱くなるって不思議だなっておもったけど、まほうなんだね」
「魔法ってね、自分で使おうとするとすんごく勉強と訓練をしなきゃならないんだけど、魔導具なら誰でも直ぐに使えちゃうのよ。凄いわよねえ」
「ええ、凄いし便利だわ……」
魔導具についてフワっと説明できた……わよね? うん、大丈夫そうね。
さて、ここからが本番ね。魔導具を扱うにあたって肝心要の説明、ダンジョン運営にも関わる大切な説明をしなくっちゃ。
「で、ね。魔導具の命とも言えるのが魔石なの。貴方達が使ってるランプ、あれって点かなくなったらどうしてる?」
「滅多にそう言う話を聞かないけど……たしかマモ爺が中の石を交換してたわね」
「あ、もしかして、その石が魔石なんですか?」
「そ、リットちゃん大正解。魔石は魔物を解体した時に出てくるんだけど、見たこと無いかしら?」
「あー、あの食べられない硬い石がそうなのねー」
「お母さん、これ食べられないからって捨ててるよね。私、いくつか拾って持ってるよ」
「まあ! えらいわよリット!」
固くなかったら食べてたのかしら……。
ていうか、ユウを喚んでなかったら……リットちゃん世代くらいで魔導ランプの使い方も失伝してた可能性があるわね……。
「リットちゃんが持ってるのは多分だけど、クッカやロップのものね」
「そうです! ランプのよりおっきくてきれいなんだ」
ランプ用のクズ魔石と比べたら大きいでしょうけれども、それでもコンロには使えないのよねえ。
「実はね、コンロを動かす魔石はもっと大きいの」
「えっ!? それってどれくらい……なの?」
「そうね、小さくてもリブッカくらいのは欲しいわね」
そういうと、リットちゃんが「リブッカ……」と小さく呟いて悲しそうな顔をした。
「あのね、パンさん……」
「どうしたの?」
「うちもそうだし、みんなコンロを欲しがると思うの。だって、お家におけるし便利だから」
「そうね」
「お父さんたちは、狩りが上手になったけど、頑張ってもリブッカはあんまり取れないと思うの」
「ああ……そ、そうね……リブッカを狩るのは大変だって言ってたわね」
「なのに、みんなが欲しがれば、買うのに沢山のお金が必要になるとおもうの。そうなると……買える人がかぎられちゃって、みんなが使えなくなっちゃう」
「確かに……リブッカの魔石を集めるのは大変でしょうね」
「こんなに素敵なまどうぐを、使えない人がいるのは悲しいなって思ったの……」
ああ、なんていい子なんでしょう。
そしてなんて賢い子なのかしら。うっすらだけど、需要と供給の概念を理解しているようなきがするわ……。
でもね、リットちゃん。その辺のことは、ちゃーんと考えてあるし、言われると思って説明も用意しておいたのよ。
……私じゃなくて、ユウが、だけど。
「大丈夫よ、リットちゃん」
「ほんとう?」
「ええ、今日さ、お父さんたち、ユウと一緒にお出かけしてるでしょう?」
「うん……森に行ったの?」
「違うわ。ダンジョンってところよ。そこはね、森よりも強い魔物がいっぱいいるの」
「ええっ、そんなところに行って大丈夫なの?」
「ダンジョンはね、特別な場所だから何があっても絶対死なないし、大けがもしないでおうちに帰ってこれるの」
「そっか……それならお父さんでも安心だね!」
「ええ。それでね、ここからが大事なお話なんだけど、ダンジョンで魔物をやっつけるとご褒美を残して消えるのよ」
「ご褒美?」
「そう、お肉とか、魔石とか、鉄とか……そういうのを落とすの」
「おにく!!!」
「肉ですって!」
うっ……しまった、お肉の話題を出すと怖いんだったわ……。
ほんとどうして、こんなにお肉に執着するようになっちゃったのかしら……。
「で、でね、落とす魔石っていうのがね、コンロに使える大きなものなのよ」
「あ……それじゃあ」
「狩人の数も増えたでしょ? だから、交替で何人かがダンジョンに来るようになれば、村で魔石に困ることはなくなるわよ」
「魔導コンロを使うためには魔石が必要……あの食べ物を冷やす箱や、お風呂もきっと魔導具よね……キンタにたっぷり稼いでもらわないと……ぶつぶつ……」
説明を聞いている内にマーサの表情がどんどんやる気に満ちてきている。
キンタくん、いっぱい、いっぱい頑張ってくれたまえ……。
なんて、会話をしながらも母子の手はしっかりと動いていて。
我が家のキッチンの便利さに興奮した母娘は、お昼ごはんにしては多いんじゃ……ってくらいの料理を作り上げてしまって。
食べ切れるか不安になり始めた頃……ザックくんが戻ってきた。
そういえば居たわね……存在を忘れかけていたわ、ごめんね。
できたてのご飯を食べつつ、先程までマーサ達に話していた内容と大体同じ話をザックくんにも伝えた。
うん、予想通りめちゃくちゃ興奮してるわね。
もっとも、彼の場合は使えることよりも、作れることに興奮してるんだけどね。
そう、彼には水回りの仕様書と、コンロに冷蔵庫をお土産に持たせて、自作できるように頑張ってもらうことにしたの。
ほら、ユウのスタンスってさ、なるべく住人たちの力でやらせようでしょう?
手っ取り早くやろうと思えば、今いる住人分くらいの魔導具は配布しちゃって、上下水道もユウがささっとやるのがいいでしょ。
けど、それだと未来に繋がらないからって、最低限のこと、今回ならサンプルで一台ずつ送る……その程度で止めるわけ。
このスタンスは、私にとっても、凄く好ましいことだから、ほんとありがたいわ。
バグの反動なのか、村の住人たちのスペックが爆上がりしてるからね……。
今のザックくんならコンロはもちろん、冷蔵庫だってすぐに再現してしまうでしょうね。
そして、将来的にはそれを元にして新たな魔導具の開発だってできるようになるでしょう。
っと、そうだった! ユウから念入りに「これは必ず伝えるように」って言われてたことがあったんだった!
ええと……カンペカンペ……ブッ……なによこれ……まあいいわ。
「少年よ……」
「え……パンさん、俺の名前忘れたんすか? ザックっすよ……」
「知っているが……まあ、聞きたまえよ少年よ」
「そのユウさんみたいなノリ、なんなんすか……」
「君にはこれから様々な物を造れるようになって、村の生活を向上させる使命を与える」
「うおおお! それって魔導具屋とかやれってことっすよね、やります!」
「返事が早いわね……最後まで聞きたまえ。コンロの仕組みを知っているのは、図面を託された君だけだ」
「うっす、光栄っす! バッチリ作れるよう、頑張るっす!」
「頑張るのは良い。君ならすぐに作れるようになるだろう。そうなると……村の住人たちは君の元へ殺到し、作る量がとんでもないことになるだろう……」
「うっ……確かに……」
「だからさ、ザックくん。君は弟子を取りなさい」
「俺が弟子っすか? ええ! 俺に師匠になれってことっすか!?」
「ええ、そうよ。ユウがまた広場に人を集めてなんかやるらしいからさ、その時にコンロを見せて協力者を募りなさい」
「でも俺、師匠っぽいことなんもできねっすよ?」
「難しく考えなくていいのよ。弟子なんてお手伝いをしてくれる人って思ったらいいの」
「ひでえけど……まあ、弟子とかそういうもんか……」
「魔導具に興味があって、器用な人を捕まえて一緒に作るのよ。コンロが売れたら、そこからお金を別けてあげたら、嫌な顔もされないでしょ」
「そうか……お金が貰える上に、魔導具を造れるとなれば。俺みたいな奴はホイホイ来るっすね……」
「弟子の数が増えれば、君が新しい魔導具を考える時間も作れるでしょ?」
「新しい魔導具を……生み出すか……いいっすね、弟子と一緒に考えるのも楽しそうだ、ありがとうっす、パンさん! 帰ったらいい弟子探します!」
ふう……危ない危ない。
悔しいけど、あいつに言われなかったら、ザックくんがキャパオーバーになる未来なんて想像できなかったわよ……。
昨夜、寝る前に言ってたのよね――
『ザックとダンだけじゃ近い将来キャパオーバーで潰れちまうからよ、早めに他の技術者を育成したほうがいいわけじゃん』
『だからさ、パンさん。ザックにプレゼンすっときに、弟子の育成を勧めてほしいんだよ。技術者が増えれば村はもっともっと発展するだろうし、それが世界全体の発展に繋がっていくわけじゃん?』
『こういうのは早い方がいい。だから、忘れないでやっといてくれよな、頼んだぜ、パンさん』
――って。
貰ったカンペは酷かったけど、アレがなかったらまともに説明できなかったでしょうし、助かったわ。
『俺にはチート知識なんて無いから無双なんてできねえ』
なんて、アイツはよくぼやくけどさ、広く浅くでも色々知ってる時点で凄いって気づきなさいよね。
私は十分に助けられてるし、ここも素敵な世界に変わり始めているじゃないの。
ありがとね、ユウ。
あなたを連れてきて、本当に良かったわ。




