第30話 お師匠様
◇◆SIDE:リパンニェル◆◇
マーサたちにお昼ご飯の支度を任せ、ザックくんの背中を押して水回りの見学へ。
「まずはここからね」
「ここは……ああ、昨日見たフロっすかあ……」
これって台所にもあったっすよねえ、なんて、少し残念そうに言いつつも、がっつくようにして給湯器や蛇口を調べまくっている。
……これ、ほんとにリプラシルの住人なのかしら? ブーちゃんがこっそり自分とこの子たちを連れてきたんじゃないのってくらい、別物なんだけど……。
うちの子達がこんなにやる気をみせるようになるなんて、ほんとユウには感謝しか無いわね……。
あいつを連れて来る前に同じことをしてもダメだったでしょうね。
きっと「へー、水とお湯が出るんだ」って、ちょっとだけ面白そうにして、後はもうおしまい。
設置してあげたら、便利に使いはするでしょうけども、それがどういう仕組でどうすれば作れるのかを調べようと考える子は現れなかったと思うわ。
「ザックくん。お風呂の水は使った後どうすると思う?」
「えっ? そりゃあ……顔を洗ったり、掃除に使ったりした後、畑に撒くんじゃ無いんですか?」
少年は何を当然という顔でエコエコしい事を言う。
たしかにその精神はとてもいいものだけれども、今回の場合は不正解なのよねー。
「畑に撒くのはまあ、いいわね。畑を持ってない人はどうすればいい?」
「うーん、風呂なんてもんは家にはないから、身体を拭いた後の話なんですけど、余った水はその辺りにバシャーっと撒いちゃいますね」
当たり前でしょうと言った顔でそんな事を言うザックくんに少し意地悪な例えを出してみる。
「例えばだけど……汗だくになったキンタがこのお風呂を使ったとするじゃない? その残り湯、君は飲める?」
言ってて気持ち悪くなってきた……少年もウンザリした顔で首を横に振っている。
「なに言ってるんすか!? 飲めるわけないっすよ!」
ほんと、なに言ってんだろうね……もっと良い例えがあったでしょ!
「じゃあさ、その残り湯で顔を洗えるかしら?」
「う……飲むよりはマシだけど……あんましやりたくないっすね……」
……ダメだ、想像したら気持ち悪すぎるわ……あたしってやつぁ、なんでキンタを例えに出したのよ……。
「ここのお水はね、全部近くの泉から汲み上げてるの」
「ああ、家の裏にある、立派な泉っすね」
「そう、あそこのお水は、すっごく綺麗なの。なのに、お風呂の水をそのまま外に流しちゃったら、地面が吸いきれなかった分が泉に流れ込んで汚れちゃうかもしれないでしょう?」
「あー……キンタさんのあれやこれやが泉にってことっすか……」
やめなさいよ! その話はもうおしまいなの! 蒸し返さないで!
「水の汚れはね、馬鹿に出来ないのよ。気持ち悪い以上に、病気の原因になるんだから」
はえー、と、感心した顔で私を見つめるザックくん。
あ、いいわねこれ……知識チートで俺TUEEEEをやったときの高揚感? いいえ、これは違うわね……。
そうだわ、これは信仰心……管理世界に住まう子どもたちから、私へと向けられる信仰の証……ああ、そうよ、これは信仰心だわ!
ダイレクトに信仰心を貰えたのっていつ以来かしら!
……ふう。
余りの心地よさに我を忘れるところだったわ……あぶない、あぶない。
ザックくんが続きの説明を聞きたそうにしているし、ここで地下に移動しましょうか。
「足下に気をつけて降りるのよ」
「うわ……地面の下に部屋があるんすか……ユウさんち、すっげえなあ」
先に行かれるとパンツを見られる恐れがあるので、案内役と言う事で先にハシゴを下りてやったわ。
帰りは帰りで適当に理由をつけて上らせれば覗かれる心配はないでしょうね。
……ザックくんはユウみたいにスケベじゃなさそうだから、そこまで警戒しなくても良さそうだけど、ラッキースケベというものがあるからね。
女神の秘密は軽々しく見せてはいけない禁則事項なの。
「お待ちしていました、奥様、ザック殿」
打ち合わせ通り『奥様』と私を呼ぶモル助。
あいつの奥様役ってのがなんだかちょっとアレだけど、女神様って呼ばせるのはまずいからね。
まあ、ルーちゃんという可愛い娘ができたし、村に行ってからずっと夫婦として過ごしっぱなしだから……いい加減慣れたし、あいつとルーちゃんと家族やってんの、実は結構楽しかったりするのよね……。
それをユウに言うのは、それこそアレだから、ぜっっったいに言わないけど!
「ご苦労さま。それじゃモル助、案内は任せたわよ」
「お任せください。それではザック殿、こちらへ。まず、この管ですが――」
無事にモル助にガイドを押し付け……引き継がせることができた。
違うのよ、面倒だからとかじゃないのよ。
あたしが浄化設備の説明なんてできるわけないじゃないの。
餅は餅屋、ここはモル助に任せたほうが、ザックくんだって嬉しいでしょ。
モル助って賢いだけじゃなくて、責任感も強いからさ、モルゾウと一緒にかんっぺきにここの管理をこなしてるのよねえ……。
がっつり強化されてるとは言え、モルモルとは思えないわ……。
モルモルってこう……もっとのんびりとした子たちだと思ったんだけどなあ。
「モル助さん、頭に乗っけてんのかっけーっすね。それなんすか?」
「良いところに気づいたな、これはユウ様からいただいた、清掃責任者の証なのだ」
「へえ……よくわかんねっすけど、なんかすげーっすね!」
そう……モル助は我が家の清掃責任者なのです。
ホテルで執事めいたことをしててびっくりしたけど、この子はれっきとしたうちの清掃係。
モルゾウもがんばってくれてるけど、あの子ってちょっとのんびりしたところがあってさ、たまに掃除が甘かったりするんだけど、モル助はそれをカバーした上で、きっちりと指導までするのよ……。
それをみたユウがさ、謎の感動しちゃって『清掃責任者』にしようって言い出したわけ。
あたしもさ、モル助の頑張りは知ってたから「あ、いいわねー」って同意したのよ。
んで、役職だけじゃなんだし、記念になんか上げたいよねーって盛り上がってさ。
それで、色々考えたり試作したりした結果……見ての通り、モル助は頭に王冠を載せることになったんだけど、これってただのアクセサリーじゃないのよ。
なんとこれはね、ルーちゃんの自動翻訳スキルを付与した魔導具なの。
モルモルやヒカリって普通に喋ってるようにみえるけど、あれってあくまでもルーちゃんの加護によるものでしょ?
だから、それを使えるルーちゃんか、私(女神なのでそれくらいお手の物)がいないと言葉が通じなくなるわけ。
……ユウはまあ、万能翻訳があるからね。
仲良くなった魔物の言葉はなぜか通じるようになる謎仕様だから、本人はまだ気づいてないけど、ルーちゃんがいなくても、この辺の魔物となら普通に会話できるようになってるはずよ。
それでさ、今後は今日みたいに他所から人が来ることになるでしょ。
そうなると、私らが留守中に意思の疎通が出来ないのは不便だよねーって思ったわけ。
それで、ヒカリには腕輪、モルモルたちには帽子タイプの翻訳機を作ったんだけど、ちょうど良く記念品の話が出たんで、モル助のは特別に王冠にしたってわけ。
なんかキングモルモル的な感じで可愛いのよねー。
……って、ザックくんとモル助の距離が随分と縮まっているわね……ていうか、縮まりすぎじゃない?
大変! ザックくんがガチ恋距離でモル助に迫ってるわ!
「師匠! つまり、この仕組みにはモルモルが必要不可欠と言うことですね? つまりこの部分をこうしてああして……それで――」
「おお……ザックよ……お前はなかなかに理解が早いな。その通り、ここはこうなってああなっててな――」
「なるほど、わかりやすくて助かりますよ、師匠!」
「うむうむ」
違ったわ……良かったわ、なんか師弟の絆結んでたわ。
なんでそうなったのか……よくわからないけれど、どうやら種族を超えた師弟関係が生まれちゃったみたいね……。




