第26話 キンタ ダンジョンに立つ
◆◇SIDE:キンタ◇◆
いやあ……こっちに来てからびっくりしっぱなしだよな。
ユウの家……は、遠目にチラリとしか見てねえから、詳しくは知らねえけど、ここに泊まれと連れて行かれた家、あれはマジで驚いたな。
見たことがないほど広くて、しかも家が縦に重なってんだぞ? その、上に重なってる方に俺たちが泊まる部屋があってよ、しかもその部屋には、閉まってるのに開いてるような……自分でもなに言ってるかわからねえが、そういう感じの窓があってよお……。
リットとマーサと驚きながら、外の景色を眺めてるうち、他になんかねえのかって思い始めてよ、ユウに聞いたら、今度はフロとか言う、たっぷりとしたお湯に浸かる部屋に連れてかれてなあ……。
あれはほんと気持ちが良かったし、その後に飲んだビールがまたうまくてなあ……。
そんで、食事の世話とかしてくれた姉ちゃんたち。
あれもびっくりだったな。
なにせ、頭にロップ耳がはえてんだぜ? つうか、顔もよく見りゃ、ちょっとロップっぽいんだ。それでいて、バインバインだろ?
聞けば、ロップに近い魔族だっていうじゃねえか。
そんなことあるかよ?
……まあ、あるんだろうな、実際いるんだもん。
そんで、そのロップの姉ちゃん、リリィから、ダンジョンとやらの説明を受けてよお……。
あれ……どうしたんだっけ?
「キンタさん! キンタさんってば! 現実逃避してないで指示を出して下さいよ!」
モフゾウに言われ我に返る。
ああ……そうか、俺はダンジョンとやらに居るんだったな……。
岩山に作られた、変な部屋に入ったと思ったら、ピカっと光りやがってよ。
なんだこれはと、思ってるうちに光が消えて。
そしたら、いつの間にかユウたちの姿が消え、残っていたのは俺たち狩人だけ。
みんなで、なんだなんだと首を傾げながら、とりあえず一度外に出て、ユウから話を聞こうぜって……出てきたら全然違う景色が広がってたんだよなあ……。
驚きすぎて……頭がどうにかなっちまいそうだよ。
「だからキンタさんってば! 俺達どう動けば……」
おっと、いかんいかん。
てっきり魔獣の森に連れてってくれるのだとばかり思ってたが、このダンジョンはダンジョンで悪くねえ。
死なねえらしいし、大怪我をしても治してもらえんだろ? だったら遠慮なく腕試しができるし、試したくても試せなかったようなことだってできるだろう。
よっしゃ、せっかく連れてきてもらったんだ、強くなって帰るぞ!
「ようし、モフゾウ、あとケンゴにヤス! 俺に続け! マサシゲとヤスタカは後ろからついてこい! 周囲に気を配りながら慎重にだぞ!」
「「「うっす!」」」
俺達は森と共に生きる狩人だ。
だから、こんな泥濘んだ狩場にゃ慣れちゃいないわけよ……。
狩りの訓練だっつうなら森にしてくれりゃいいのによう、なんたってこんなジメッとしたところに……うおおお……変に体重かけると滑るな……気をつけねえと……。
……ん? なんか居るな。
「ヤス、向こうになんか居るぞ、気をつけて歩け。 モフゾウ、お前は右を警戒しろ」
「おう!」
「うっす!」
少し進むと、板でできた道……幅が広く、背の低い橋のような道が現れた。
足場が悪すぎて辛かったので、正直ありがてえが……なるほど、板の下は底が見えねえ水場か。
もしかすると、水場に住む魔獣がいきなり現れるのかもしれねえなあ……。
あっちの水路なんて、見るからに魔獣が潜んで居そうじゃねえかよ。いつ魔物がザバリと飛び出すかわかったもんじゃねえぞ……。
爺さんが言ってたっけなあ……女神の森の西に池があって、デケえ魚の魔獣が居るって。
どうにか食おうとしたが、狙うやつはみんなケツを噛まれてひでえ目にあったんだって……。
俺も小せえころに池を見に行ったことがあるが、確かになにかデケえのが泳いでたんだよな……。
……もしも、ここに同じのが住んでたら、対処できずにケツを噛まれちまうかもしれねえな……。
まさか居ねえよなと、水面を覗き込んでいると……男の声が俺の耳に飛び込んだ。
「お、兄ちゃんたち見ん顔やね、キウリもっとる?」
思わず後ろを振り向いてみれば……緑色の肌をした、知らねえおっさんが立っていた。
いや……顔をよく見りゃ人じゃねえ、恐らく魔族だな。
その、謎の魔族が、マサシゲに親しげに話しかけていた。
なんだか、随分と馴れ馴れしい。
もしかして、あのオッサンもリリィみたいにユウに協力してる魔族なのかね。
だったら、ここのことを色々と教えてもらいてえところだが……――
「うーん、もっとらんのか、ほい、残念賞!」
――緑のおっさんがよくわからんことを言ったその瞬間、なにか、太くて尖ったものがマサシゲの腹から飛び出した。
くそ! マサシゲがやられた!
ここは魔物の住処、ダンジョンだ。油断していい場所じゃねえんだった!
腹に穴を開け、倒れ込んだマサシゲは真っ白な顔をして今にも死んじまいそうだ……。
ちくしょう、どうすりゃいい? 外に運べばユウがなんとかしてくれるだろうが、緑のオッサンをどうにかしねえとそれもできねえ……。
ああ、畜生! こうしている間にもマサシゲはどんどん弱っちまう……このままじゃ……――
ーーあ? マサシゲが……消えちまったぞ?
「あーそういやそうやったね。うんうん、君たちもああなりたくなかったら、きばってやー」
ああ……そっかそっか。
オッサンの言葉を聞いて思い出したぜ……そうだったなあ、ここじゃ死ぬこたぁ無いんだったわ。
どんだけひでえ怪我をしても、死にかけた瞬間にテンソウされて五体満足の状態まで回復されるってな。
「あの小僧の事なら心配いらんで? 今ごろすっかり元気になっとる頃やろ」
どうやらオッサンも回復のことを知ってるみてえだな? ああ、もしかしてオッサンたちもそうなのか?
そういや、リリィが言ってたか。
『ダンジョンはガチンコ勝負をする場所です』
って。
俺ら人と魔物が力を見せあい勝負をする場所、それがダンジョン……なるほどねえ、完全に理解したわ。
「ほれほれ、あんちゃん、わいは敵やぞ! 油断してたらお前もザクーってなるんやで」
勝負となっちゃあ、負けるわけには行かねえよなあ。
マサシゲの仇も取らなきゃならねえし……なにより、早々に全滅した日にゃよお、きっとユウのやつ小馬鹿にした顔をして……くっ! 思い浮かべるだけでムカつくぜ!
この戦い、ぜってえに負けらんねえぞ!
「モフゾウ! ケンゴ! 援護しろ!」
俺のかけ声と共に二人が陣形を取る。
いつかのために練習している、大型狩猟用の陣を試してやる!
左右からの射撃で獲物の動きを制限しつつ、時間を稼いでよ、俺はその間に弓を限界まで引き絞り……狙いを定めて急所を射貫く……という手筈なん……だけどよお……。
クッソ、このおっさん、異常に素早いな!
全然動きを止めらんねえし、俺も狙いをつける暇がねえ!
「はい、残念賞! ほい! これまた残念! ほれほれそろそろ当ててくれや」
左に右に、上に水にと巧みに避ける緑のおっさん……くそがよ、すっげえ腹立たしいぜ!
「うーん、避けるのにも飽きてきたわ。そろそろグッバイのお時間にしよか」
グッバイってなんだ? 一体なにを……ああ? なんだあ?
緑のオッサンが怪しげな動きを始めたぞ?
よくわかんねえが、これはぜってーやべーやつだ!
「ケンゴ! ヤス! モフゾウを護れ! なにか来るぞ!」
「さーらばいばい、さーらばい……くるっと回って最後っぺ♪」
気が抜ける声で、妙なことをいいながら、へなへな、へろへろと妙な動きをしている……おおん? こっちにケツを向けて……ぐおぉおあああ!?
くそがぁあああ!!!!!
こ、こいつ……やりやが……
……
…
目と鼻が焼き切れたような感覚がして……はっと目を開けたら、石で出来た小部屋に居て、ユウがくれたのと同じ薬を持ったリリィの姿が見えた。
「もう大丈夫ですからね、お仲間の皆様もそちらにいますよ」
指で示された方を見てみれば、ヤスにケンゴ、モフゾウが心配そうな顔をして俺をみていた。
「ちくしょう……やられちまったってわけかよ……」
フラつく体で部屋から出てみれば、申し訳なさそうな顔をしたマサシゲと、ニコニコとしたルーちゃん、そして、すっげえ嬉しそうな顔をしたユウが、パチパチと手を叩いて迎えやがった。
「おかえりなさい、キンタさんたち!」
「初めてのデス、おめでとうございます! 初めての生き返りはどうでしたか? ちなみにキンタパーティの生存時間は四十七分でした! 初めてにしてはがんばりましたね!」
はー、予想よりずっとムカつく顔してやがる!
「キンタさん、すいません……俺が未熟なばかりに……」
最初に刺されたマサシゲが頭を下げてくる。
見たところ傷もないし、元気そうだ……な。
俺らはともかく、こいつはマジで死んじまうくらいの大怪我してたのに、すっかり元気になってるな……。
死なねえやら、大怪我もすぐに治るってのは、マジなんだなあ……。
「さて、初めてダンジョン死を経験されたキンタさんに質問です!」
うん? なんかリリィが小さな棒を俺の前に差し出してるんだが……なんだこれ?
「お、おう?」
「気を失い、転送されてきた皆さんの表情は非常に辛そうでした。きっと、壮絶な死を迎えたのでしょう……ダンジョン初の死は、いったい、どのようなものだったのでしょうか?」
俺らがなににやられたかってか?
そりゃおめえ……あれだよ……あれなんだよ……。
だから、正直ユウに聞かれたくねえ、リリィには話してもいいが、ユウに聞かれるのは嫌だ! ああ、くそ、やめろリリィ! そんな目で俺を見るな! 下から見上げてくんじゃねえ! 俺にはマーサが……!
ちくしょう、なんかいい匂いするな……ああもう、わかったよ、答えてやるよ!
だから、そんなうるうるした目で見上げんのはやめろ!
「緑の……オッサンだ……」
「緑のオッサン、ですか? あー、タルットですね。タルットに攻撃されたと? それはどのような攻撃だったのでしょう?」
「……だよ……」
「申し訳ありません、もう少し大きな声でお願いします」
「ああああ!!! もう!!! 屁だよ!! 変な踊りの後に放たれた屁だよ!!!」
文句あるかと、顔をあげると……床に這いつくばったユウ達が、笑いすぎて死にそうになっているのが見えた。
……くそがよ! 次はぜってー負けねーからな!




