第25話 それでは皆さんいってらっしゃい!
大怪我は治す、なぜならば、ダンジョンは人族・魔物(魔族・魔獣)双方にとっての稼ぎの場、言い換えれば職場なわけですよ。
仕事をしにきて大怪我をして、治るまで仕事ができなくなるっていうのは、本末転倒なわけです。
だから、塩のダンジョンでは死なないのは勿論のこと、大怪我をしても、帰る時に自動回復(今回はリリィがポーション使って手動回復)される仕様になっているんだけど……。
ダンジョン内で負った怪我の全部が全部、その対象になるわけじゃないわけ。
ちょっとその辺の説明もして、たるみきった心を引き締めてもらいましょう。
「お前らさあ、すっかり安心しきった顔してっけどよ、魔物とやりあえば痛えし、怪我だってすんだからな?」
「あったりまえだろ、んなこたわかってるよ。でもよ、ダンジョン出りゃ綺麗に治るんだろ? そこまでピリつかなくてもいいじゃねえか」
「そっす、そっす! 狩りならアレっすけど、ダンジョン? なら治るんだし、そこまで気合い入れ無くてもよくねっすか?」
「治るのは、あとに引きずるような大ケガだけだ。なんでもかんでも治すわけじゃねえぞ」
「えぇ! ちょちょっとユウさん、それってどういうこと?」
「狩りができなくなると困るんだけどー?」
ほんとこいつら……はあ、やっぱ厳し目の仕様にしといてよかったわ。
この様子じゃあ、イージーモードで運用したらとんでもねえことになってたぞ……。
今回のダンジョンアップデートは、俺とルーちゃん、そして管理神であるパンさんの手によって実現したものだ。
パンさんは管理神だけあって、アレでも大抵のものは実装できちゃうわけ。
最初に考えたのは、ダンジョンから出た瞬間に『突入時と同じ状態』にまでダメージを回復するっつう、超安全仕様のイージーモードだったんだけど、話し合いの結果それはやめることにしたんだ。
なんでって、それに慣れちゃうと、ダンジョン外で取り返しがつかないことになるじゃん。
そして、そうなるやつを見たやつは「お外こわ……」ってなって、ダンジョン内でしか狩りをしなくなっちゃうじゃん。
そんなん本末転倒じゃねえか。
俺はダンジョンをメインの稼ぎ場にしてほしくねえわけ。
ダンジョンはあくまでも生活の補助的なもの、狩りの需要が下がったときや、素材が欲しい時に稼げる場として用意したんだよ。
だから、ダンジョンに籠りっぱなしになるのは、困るんだよね。
「大丈夫だって。手足がポッキリ折れるような怪我なら流石に治してもらえるからよ、仕事ができなくなることはねえよ。直らねえのはしょうもない切り傷や、捻挫くらいのもんだ」
「ええー! 捻挫でも十分動けなくなるじゃないっすか! 治してくださいよ!」
「うるせー! なんでもかんでも治したら、外で油断してやらかすだろうが! こんくらいがお前らにはちょうどいいんだよ!」
「うっ……確かにそうっすね……」
「つーわけで、さっそくこれからダンジョンに入ってもらおうと思うんだが……今回はお試しってことで、特別に軽い怪我でも治してやっから、怖がらねえで潜ってこい!」
「そうは言うけどよお……死ぬような場所って聞いたら……なあ?」
頭をボリボリかきながらキンタが言うと、狩人達もそうだそうだ! と声をそろえて言う。
「リリィさんに回復してもらうのは嬉しいけど、やっぱまだちょっとおっかないぞ!」
「むしろリリィさんの癒やしだけ受けたいまである!」
「お前ら……はあ、逆に考えてみろよ」
「逆に……?」
「ああ、普段返り討ちに合うような相手とよ、戦うわけじゃん。それって、めっちゃ成長できると思わねえ?」
「……確かに……」
「リブッカとか、確実にやられるのわかってっから、挑む気すら起きねえもんな……」
「でもここなら……やられても、大丈夫じゃねえけど、死なねえと……」
「なあ、ユウ……本当に死なねーんだな?」
「ああ、大丈夫だ!」
「リリィさんの癒しだけ受けたいんですがそれは」
「お前はさっきからそればっかだな! いいから黙ってやられてこい!」
期待半分、不安半分と言った面々を転送室に連れて行く。
「よーし、そこの石版に手を置いてくれ。ダンジョンの中に転送すっからよ。中にも同じのがあっから、帰りは向こうで同じようにやってくれ」
「お、おいさっきもテンソウとかいってたが、テンソウってなんのことだ? あと同じようにっていわれ……うおお? 光ったぞ?」
まーた質問魔のキンタくんがごちゃごちゃはじめたが、誰かが石版に手を置いたらしく、転送門が起動してしまったようだ。
転送についての説明とかダルすぎるから助かったわ。
誰だか知らんがグッジョブだぜ。
「みなさん、いってらっしゃーい! がんばってねー!」
「おおい! ユウ! ルーちゃん! くっそテンソウってなん……」
「「グッドラック!」」
光に包まれ消えていくキンタ達にルーちゃんと二人で親指を立ててにこやかに見送ってやった。
◇◆◇
あれからかれこれ三十分。
ルーちゃんとしりとりをしながら、今か今かと待っていたんだが……ようやく最初の犠牲者が現れたようで、回復部屋から『うわああ』と声が聞こえてきた。
「はーい、お薬かけますよー……はい、なおりましたー」
「う……あれ? 生きてる? 生きてる……」
「はい、生きてますよー。もう大丈夫ですからねー、また頑張ってきてくださいねー」
「う、うううううっす……」
リリィがめっちゃ優しい声で治療してるのが聞こえてくるな……。
これ、正式に運用が始まったらダンジョンシステムが自動でやるようになるんだが、今日の特別版を味わったキンタたちから『リリィさんを戻せ!』なんて、クレームが入りそうだな。
まあ、そんなのガン無視してやるけれども。
間もなくしてフラフラと部屋から出てきたのは若い狩人、マサシゲだ。
少し混乱しているようで、キョロキョロと辺りを見渡していたが、俺に気づいたのか、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。
お茶をすすりながら様子を見ていると、マサシゲが口を開いた。
「ユユユユ、ユウさん…なななな、ななな」
「まだダンジョンの緊張が残ってるみたいだな。よし、こういう時は深呼吸をするんだ! 吸ってー……吐いてー……吸ってー……吸ってー……吸ってー……」
「ブハッ! いい加減吐かせろっつーの! ハアハア……ああ、くそ、お陰で落ち着きましたよ……つか、なんすかアレ……なんなんすかあそこは……」
落ち着いたマサシゲが興奮と恐れを全開にして塩のダンジョン一階層『湿原』について矢次に尋ねてくる。
「すげえだろ、あれがダンジョンってやつよ」
「冗談キツいっすよー……特にあの緑のオッサン、あいつなんなんっすか? キウリもっとるけ? とか言うんで、少し変わってるけどリリィさんみたいに働いている人なのかな? って思って返事をしようとしたら……いきなり背中からですよ? いつの間に回り込んだのかわからないけど、兄ちゃんすまんなって言いながら背中からブスっと一撃ですよ! あーもう、まだろくに活躍出来てなかったっていうのに!」
あー……タルットにやられたか……。
アイツはほんとクソだからなー。
そんなクソにだまし討ちみたいな事されて、一番乗りのリスポーンとか……俺ならトラウマもんだが、だいじょうぶそ?
「マサシゲくん……まだいけるか?」
「勿論っすよ! そりゃあ、おっかねえっすけど、あの緑のオッサンにやられっぱなしってのは悔しいっす!」
「うっしゃよく言った! ようし、とりあえず今は休んどけ! キンタたちが戻ってきたら、もっかい行ったらいいさ」
「うっす! 今度はあのオッサン、ぶん殴ってやりますよ!」
気合十分のマサシゲくん。
あいつ、強くなるぜ……たぶん。
うーん、こうやって体験談を聞いてると、実際に中の様子を見たくなってくるよなあ。
あれよ、あれ。
現代ファンタジーに良くある、ダンジョン配信っていいよねー。
推しの冒険者が頑張る姿を、エアコンが効いた部屋でビール片手に応援するの。
あー、面白そ。
でもなー、流石にそれは今直ぐやっていいもんじゃねえよなあ。
配信させる以上、住民たちにも閲覧環境を与えないといけないだろうし、それをやるなら、テレビが必要だ。
そのテレビは、その気になれば俺のスマホ様が作ってくれるだろうが、それをやるのはレギュレーション違反だ。
だから、実現しようとすれば、リプラシルの文明レベルがもう何段階か上がって、現代日本と近しいところまで発展するのを待つ必要がある。
……そんなの、俺がいるうちにやるのは無理なので、ここは別の方法で行こうと思う。
そう、ダンジョン運営ものでよく見る、監視ルームをパンさんに作ってもらうんだ。
冒険者たちの様子を見て楽しむも良し、やんちゃな魔物たちの監視に使うも良し。
つうか、なきゃだめじゃねレベルの設備じゃん。
パンさんなら、きっと家からでも見れるようにできるだろうし、そうすりゃルーちゃんもダンジョン管理が楽になるだろうし……。
「ルーちゃんもそう思うだろ?」
「うん? なにが?」
よし、ルーちゃんも『うん』って言ってるし、後でパンさんに作ってもらおう!




