第19話 ご招待
一夜明けて。
早朝からえっさほっさと歩き、遠くに我が家が見え始めたのは十七時頃だった。
俺も疲れているし、キンタたちだってお疲れ気味だ。
ルーちゃんとリットちゃん、パンさんにマーサは途中から荷車に乗り、クロベエに引いてもらっていたので、まだちょっと元気そうだが……遊ぶのは明日にしてもらおう。
てなわけで、まずは腰を下ろしてゆっくり休んでもらいましょうと、家には向かわずゲストハウスが建っているはずの場所に向かった。
そう、ウサ族に任せておいた、宿泊施設だ。
なんかノリと勢いで早々とご招待しちまったが、ウサ族に頼んでからまだ四日くらいしか経ってねえんだよな……。
あいつらも、頭がおかしくなるレベルで手が早いけど……まあ、小屋くらいのもんなら、間に合ってる……はずだ。
……ただなあ、張り切りすぎてる可能性もあるんだよな。
オーダーしたときのあいつら……ちょっと引いちゃったレベルでやる気に満ち溢れてたからな……。
あの様子なら、気合が空回りしてデカいのを建てようとしてまだ半分もできてないってオチもありうるな……。
まあ、ダメなら最悪テントで……って。
マジかー。
家から少し離れたところに、なんだか大きめの建造物が建っている……。
あいつら……やりよった。マジでホテルみたいのを建てやがったわ。
たった数日でこれはちょっとやべえ……。
ウサ族……またちょっと進化してねえ?
二階建ての、なんだかとっても立派過ぎるゲストハウスに向かってると、狩人達が騒ぎ始めた。
「ま、魔獣だ!」
「ユウさん! 魔獣が出ました!」
はあ? 魔獣? ここらにはゲーミングミミズやネズミくらいしか居ねえんだけど……ああ、なるほど、確かに魔獣だわ。
「クロベエ!!! おかえりいいいいい!!! あ! 親父殿たちもおかえりなさい!」
うんヒカリだったわ。
「喋った? 喋ってるぞ?」
「い、いやまてクロベエさんも喋ってるよな……」
「も、もしかしてこの辺りの魔獣は喋るのか?」
なんだか懐かしいリアクションしてんな……初めてあの村に行った時を思い出すわ。
「こいつはクロベエの奥さんだから大丈夫だぞ」
「ユ、ユウ? なにいってんの! べ、べべつにそんなんじゃないけど?」
「他にもモルモルという魔獣や、うさ耳生やした魔族なんかもいるが、みんなここの住人で、穏やかな奴らだから仲良くしてやってくれ」
「……な、仲良くなあ……」
変な汗を流しながらキョロキョロと辺りを見渡すキンタたち。
「まあ、詳しい話は追々な。さあ、ここがゲストハウスだ。好きに使ってくれ」
さも知ってるように扉を開けたけど……中を見て変な声出そうになったわ。
扉の向こう側には立派なロビーがあって、中央には二階に上がる大きな階段が見えている……なにこの豪邸。
『なんやこれえ! ゾンビとか出そう!』と、心のなかで騒いでいると、二階から……ええと……あれは……ウサ族……でいいのかな? 鑑定……やっぱそうかよ!
君たちぃ? 前に見た時はこう、モフ度が高い、ケモケモした感じでしたよね?
なんかケモ度がぐっと下がってんだけど……そこまで行っちゃうと、もはやウサギ系獣人って感じじゃねえかよ……マジでどうなってんの?
「お帰りなさいませ、ユウ様。お客様をお部屋までご案内します」
うっわー……。
メイドさんだ、うさ耳メイドさんが居るわ。
って、もしかしてこいつ、ちょいちょい俺の仕事手伝ってくれてたウサ族じゃね? だよな、リリィだよなあ……なんかケモ度が下がってるし、なんでそんなにメイドっぽくなっちゃってんの?
あ、いや、別にメイド服着てるわけじゃないんだよ。
なんつうの、所作っていうかさ、雰囲気っていうの? それがもうもう完璧にうさ耳メイドさんだよ……。
くっそ、こうなったらメイド服作らねえといけないな!
ち、ちがうんじゃ! 俺の趣味じゃねえよ、こいつらが、こいつらがメイドさんを幻視させるレベルで仕上がってるから、しかたなくだよ!
そんなウサ族の登場に、キンタたちと言えば……デレデレとだらしのない顔をしてやがる……。
キンタさん? その娘さんね、魔族なんやで? さっき「仲良くな」って言った時ビクついてましたやん。
なにおもっくそデレついてるんですか。
ああ、マーサが凄い顔でキンタの尻をつまんでるわ……こりゃ、きっと後で大変なことになるだろうなあ……。
「それでは、ユウ様。後はお任せください。お客様、こちらへどうぞ」
「おう、キンタ、また後でな!」
「いでで……お、おう……」
キンタ達が二階に案内されていくのを見送ると、タイミングを見計らっていたかのようにウサ族をゾロゾロと連れたモル助が現れた。
「主の主よ、無事で何よりだ。ウサ族と相談しているうち、このようなものになってしまったが……満足していただけただろうか?」
「満足も何もびっくりしたよ。お前らよくこんなの建てられたな?」
「いえ、我々だけの力ではありませんので……」
謙遜するウサ族達。
いやいや、もっと誇って良いんだぞ? なんたって俺は『俺の家を参考に二十人くらいが寝泊まりできる家を作っておいてくれ』と雑に頼んだだけだからな。
想像してたのは大きめの平屋、もしくは小屋が数棟かなくらいのもんだったから、まさかこんな二階建ての高級宿屋みたいなのを建てるなんて思ってなかったつうの。
「それもこれも……女神様のおかげなんです」
「パンさんの?」
思わずパンを見ると……あれ? なんで目を反らしたんすか?
マジでなんの気なしに見ただけなんだけど……まさか、なんかやったか?
いや、やったな!? なにかやったな、パンさん!
「女神様のおかげ……ね。なあ、パンさんよ、ちょっとその辺り、詳しく聞かせてくれない?」
「ワ、ワァ……すごいすごい! すごくりっぱにたてたわねー! ねえユウ、あたしあっちがきになるわ! ねね、ルーちゃんも楽しみよね! ほらほら見学しましょうよ!」
リアクションでバレバレなんだよなあ……マジでこれ、なにかやってんな。
「リリィ、モル助……何があったのか、詳しく教えてくれないか?」
「あーあー! ユウ、ねえ、ユウってばあ!」
「ええい、袖を掴むな! ひっつくな!」
つうか、なんでここまで必死になってんだよ?
多少、女神的な力を使ったところで怒るような俺じゃねえってわかってるだろ?
大体さあ、そうやって隠そうとしたら、余計に俺が気にするってのわっかんねえのかよ……。
雉も鳴かずば撃たれまいとは、まさにこのことだわ。
パンさんを押さえつけ、なんとか静かにさせたところでウサ族――ナナが語り始めた。
「せっかく作るのに、使い捨ては勿体ないからと、お客様が帰った後は女神様がお住まいになられる神殿として使えるようにと、女神様がおっしゃったんですよ」
「ムグー! ムグー!」
「ほう……神殿……ね」
「女神様はお優しくって、このように作りなさいと設計図までご用意してくださって。見て下さい、ユウ様。この素晴らしい建築様式を……もう、我らウサ族一同……腕が鳴って仕方が有りませんでした」
やわらかに微笑むナナから手渡されたのは一枚の大きな図面。
紙の左上には大きく『リパンニェル神殿』と書かれていて、その下にまるでCADで書いたかのように精密な平面図が描かれていた。
それを見ると、一階にはロビーと大浴場と食堂があり、二階には五部屋の個室があるようだ。
それぞれ十畳前後の部屋……ん、なんだ?
よく見ると、小さな字でなんか書いてるな……。
「ムガムゴ……ムゴー! ムゴゴー!」
うるさいですね……ええとなになに……『昼寝部屋』『読書部屋』『創作部屋』『ゲーム部屋』『寝室』って書いてあるな……。
パンさんお前……なんだよこの、小学生が憧れる建造物はよ……とっても素敵だが、マジかお前……。
「パンさん……やってしまいましたねえ……」
「ち、ちがうのよ……ユウ……ゴッデスジョークですやん!」
「ジョーク……ね。実際に建っちまってるんですが、それは?」
「ほ、ほら……! そう! ユウが言ってた計画がうまくいけばさ、ここにも多くの人が来るようになるでしょ? そしたら……ほら? ね? アレがこれでソレなんですわ!」
「なるほど? つまり、宿として使うためにこんな立派なのを建てた、そういうことですね!」
「ああ、もうそれでいいわよちくしょう!」
こいつ開き直りやがった……!
まあ……女神のくせに、ウサ族を私的利用したのはアレだが、結果オーライだから今回は見逃してやるよ……。
次やらかしたら……お友だちへの報告リスト行きだからな!




