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バグった世界にテコ入れを  ~スマホ片手に停滞世界を再開発~   作者: 未白ひつじ
1章 拠点を作るぞ

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第12話 おにくさん

 こいつさ……攻撃パターンにぜってー【頭突き】があるよなあ。


 だってさあ……頭を低く下げて威嚇態勢に入ってんだもん。あの、額を覆ってる外骨格みたいので、俺をドスンと吹っ飛ばす気なんだろう?


 どう考えても勝てる相手じゃねえ。ここは絶対に逃げるのが得策だ……けど、野生動物と遭遇したときってさ、相手に背を向けた瞬間ゴングが鳴るって言われてんじゃん。


 逃げようとした瞬間、背中にミニバンタックルを喰らって、背骨バッキバキになる未来が見えたわ。


 こうして睨み合ってる間はある程度時間が稼げるはずだ。相手からしても、俺……いや、クロベエは未知の脅威に見えるだろうからな。迂闊なことはせず、じっと様子をうかがってくれている。


 けど……それもそろそろ終わりそうだ。


 苛立たしげにさ、後ろ足でザッザカ、ザッザカと、土を蹴ってるんだよ……その間隔が徐々に短くなってきてるんだよ。


 ……これ、もう完全に『あとちょっとでチャージアタックしまーす』って合図じゃん。


 どうにかできないか……スマホでAIに……いやだめだな、スマホ触った瞬間すっ飛んできそうだ。


 うーんうーん……なにかないか、漫画、アニメ、ゲーム……その辺からこう、いい感じのネタを……うーん、うーん……


 ……あ、これだ! 古典的だが……いける!


「クロベエ……俺が背中に乗って合図をしたら……あのでけえ木に向かって走るんだ」

「まかせて!」

「木についたら、そのままジャンプして登る。いいな?」

「わかった!」


 あいつは、俺らが動き出した瞬間、地を蹴って弾丸のように向かってくるだろう。

 向かう先は、樹齢何百年って感じのめちゃくちゃ立派な巨木。


 そこまで、クロベエくんに必死に逃げ切ってもらう。


 そして、ギリギリのところで木に登ると……イノシシは頭から突っ込むと。


 どこかで見たような、散々語られているような古典的な方法だけど、意外と行けると思うんだよな。 


 日本なら観光名所になりそうな立派な木だぜ? そんなのに頭から突き刺さったらさ、さすがのアイツだって目を回すはず。


 そこに俺とクロベエが降り立ってフルボッコ。あとは美味しくいただきますと。


 完璧な作戦じゃね?


「よし、時は来た! いくぞクロベエ、ダッシュだ!」

「うん! うおおおおおおお!」

 

「ブフォオオオオオオオ!!!」


 俺を乗せたクロベエが駆け出した瞬間、イノシシが雄叫びを上げた。


 思わず後ろを振り返ると、ドギュンと擬音がつきそうな勢いで、泥を撒き散らかしながらイノシシが飛び出したのが見えた。


 うっひゃあ! 予想以上のロケットダッシュかましやがった! 逃げずに立ち向かっていたら、今頃地面のシミになってたわ!


 開幕ダッシュの効果もあり、ジワジワと距離が縮まってきている……けど、これでいいんだ。


 このまま真っ直ぐ、巨木に向かって誘導して……ここだ!


「今だ、クロの字!」

「おうともさ! ユウのじ!」


 軽やかな跳躍でとん、ととんと、クロベエが樹上に登っていく。

 太めの枝の上に降り立った瞬間、下の方から鈍い音が鳴り響いた。


 ズズーーーーン


「やったぜ!」


 俺たちが飛び乗ったのは、樹齢何百年だよってレベルの立派な大木だ。


 そう、エルフさんたちが家を建てちゃうような、それはそれは太くて頑丈そうな木なんだよ。


 そんな大木にミニバンが……いや、もうちょい盛って4tダンプがぶつかったらどうなると思う? 鼻っ面をぶっ潰して、衝撃でひっくり返ったりするはずだよなあ?


 おかしいな……そんな様子がないどころか、なんか嫌な音がするんだが。嫌な振動を感じるのだが。


 木が、ユサ……ユッサユサ……と揺れ、メキ……メキピキメキ……と、音が聞こえるんよ……。


 クロベエと一緒にそっと下を覗いてみる……あっ……。


「ユウ あいつ ぴんぴんしてない?」

「お前もそう思うか……なんか元気そうだよな、あいつ」 


 はじめは、イノシシくんが木に突き刺さっているように見えた。ああ、そういうパターンかとほっとしたのもつかの間のこと。


 よく見るとイノシシくんは六肢を踏ん張っていて、どうやら力任せに顔を振っているようだった。


 それに合わせて幹が揺れ、頭上からハラハラと木の葉が舞い落ち、足元からメキメキピキバキと嫌な音が響いてくる。


 どしたん? 顔かゆいん? って違うよねえ! 


 こいつ、木をへし折ろうとしてやがる!


 どうする、どうする? でもな、こんなに立派な大木だぞ? 折れるわけが――


 ミシミシミシミシ……ミキミキミキミキ……。


 折れるなこりゃ!


「やべえぞクロベエ! 木が折れそうだ!」

「うううう とぶぞ ユウ!」

「それしかねえか……よし、飛んでくれクロベエ!」

「にゃう!」


 クロベエにまたがり、ぐっと首輪を掴む。それを確認したようにクロベエは短く鳴き、幹を蹴って隣の木に、また飛んで隣の木にと、木々を乗り移りながら地上へと向かって降りていく。


 そして、ちょうど地上にたどり着いたところで「ズズーン」と木が倒れる音が背後に聞こえた。


 おそるおそる音の方を振り返ると、倒れた巨木と、それの下敷きになっているイノシシさんの姿が見えた。


 おっと……まさかの自爆か? 


 さては、俺が密かに得ていたスキル【ご都合主義】が発動して、いい具合にことが済んだのかもしれねえな。


 なんて、思えたのは数秒だけだった。


「おいおいマジかよ……なんてもんに俺たちは手を出しちまったんだ……」


 倒れた大木の下敷きになっていたイノシシが、メキメキと木を破壊しながら起き上がり、まるで何事もなかったかのように顔をブルブルと震わせている。


 あいつ頑丈すぎねえ?


 作戦は見事に失敗……か。


 こうなったら、ここで迎え撃つしかねえか。


 クロベエはやれるだろうか? ウルッグ相手にあれだけやれたんだ、魔獣化した今なら、結構いい勝負ができるかも……いや、待て。イノシシの防御力は無視できねえ。


 巨木に勝るあの装甲を、クロベエの爪や牙が抜けるとは到底思えない。


 そうだ……このナイフなら行けるんじゃないか? パンちゃんから賜ったこのナイフ、謎に良く切れるじゃねえか。

 

 そうだな、これならワンチャン行けっかもしんねえ。


 ……ここまでクロベエに頑張ってもらったんだ、こっから先は俺がやる!


 あいつが来たら、ナイフをこう。そうすると、頭突きがこうきて、俺の腕がアカン方向に曲がって……お腹にドンだ!


「よし詰んだ! これ無理だわ! クロベエ、全力で逃げよう!」


「それがいいよ! あんなのぜったい勝てない!」


 今のうちにと、一目散に逃げ出したのだが、まあ……そうなるよな……。


 後ろからさ、ズッドゴドドドドって、ものすげえ音が聞こえんの。


 それがね、だんだん近づいてきているの。


「がんばれ! 超がんばれ!」


「がんばってる けど きっついなあ!」


 相手のほうがスペックたけえのに、アイツには地の利もあるわけじゃん?


 すると、あっという間に距離が縮まるってわけ!


 このままじゃ俺のケツがあぶねえっていうか、さっきから牙がかすってる気がする!


「くろべえ、ほんとがんばれ!」


「わ! しっぽ! しっぽになんかあたった!」


 どうにか距離を離せねえかと、キュッと握って軽く潰したラッツを顔めがけて投げつける。ひとつ、ふたつ、みっつ……と投げたところで『プギィ』と鳴き声が聞こえた。


「うっしゃ! 顔面に当ててやったぜ!」


「ユウ よくやった!」


 後ろを見ると、片目をつぶったイノシシが、わずかにふらつきながら走っていた。

 

 流石のイノシシも走る速度を落としたようで、徐々に俺たちとの距離が開いていく。


 ようし、いいぞいいぞ! このままいけばなんとか逃げ切れそうだ! いけ! クロベエ! 俺たちは風にな――


「あっ」


 ――クロベエが小さくうめいた瞬間、ふわりと身体が浮いて俺の身体が投げ出された。


「ぐふ! ああ、くそいってえ……どうしたクロベエ……つまづいたんか? なあおい……あっ……」


 軽く痛む腕を擦りながら起き上がると、クロベエがぐるぐると目を回しながら、凄い体勢でひっくり返っていた。


 ああ……見事なスリップ痕があるわ……なるほど、あそこの泥を踏んで顔からいったと……この森、謎に泥スポットが多いよな……。


「……あーびっくりしたあ」


「おおクロベエ良かった……わっぷ、泥飛ばすなって」


 クロベエがむくりと起き上がり、ぶるぶると顔を振って泥を飛ばす。


「たくよお……ますます泥まみれになっちまったじゃねえか……痛いところはねえか?」

「へっちゃらだよお……顔はちょっとだけいたいけどなー」


 のんきな声を上げやがって。


 けど良かった。ケガもなければ体力もまだ残ってそうだ。 


 今のうちにまたクロベエに乗って逃げ……


 フシュー…… フシュ……


 この音……まさか……。


 ゆっくりと振り返って……後悔したわ。


 完全にブチギレたイノシシさんが、俺に向かって頭を下げ、猛烈な勢いで跳んだのが見えた。


 あっ……これ完全におわったわ……。


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