第16話 新年
「あけましておめでとう! 今年もよろしくな!」
村人たちがザワついている……まあ、そりゃそうだよな。パーティの意味も、カウントダウンの意味だって何一つ説明してねえんだから。
……いい加減辛くなってきたし、サクッと説明をしちまおう。
「さっき数字を皆で読み上げていっただろ? 実はな、全部終わったあの瞬間、昨日が終わって今日になったんだ」
「え、一日って朝が来たら始まるんじゃねえの?」
「俺もそう思ってたんだが……ユウさん、どういうことなんだ?」
おっと、思いがけずいい質問が飛んできたな。
「実はな、一日っていうのは、夜遅くに切り替わるんだよ」
「なんだかよくわからねえが……もう明日になったってことか」
「いや、今日になったんだから、今日なんだろ」
「今日だの、明日だの……余計にわかんなくなっちまったわ!」
「「「わはははは」」」
それなりに酒が回ってんのか、しょうもないことで爆笑しておる……。
だが、悪い流れじゃねえ。
このノリをそのまま利用してやろう。
「確かに、今日だの明日だのって言ってるとわかんなくなるよな。だから、今日からこれを使う」
シゲミチに合図を送り、ホワイトボードくらいの板にかけておいた幕を剥がさせた。
「……何だあれは? 数字がかいてあるぞ」
「でっかく1なんとかってかいてて、ちっちゃな数字がいっぱい書いてるな?」
「あれは、1ガツって書いてるな……ガツってなんだ?」
村人が言う通り、幕の中から現れた板の左上には「1月」と書かれた木札がぶら下がっている。
そして、その下には六行七列の表が。
表の、一番上の行には『日、月、火、水、木、金、土』と、文字が書かれていて、次の行から「1」から「31」までの数字が入った木札が順番にぶら下がっている。
そう――
「これは暦と言って、今日やら明日やらをわかりやすくするものだ」
「数字と……なんか字が書いてるが、どう使うんだこれ」
「左上の『1月』というのが大きなくくりで、「月」という。下のマスに書かれている文字、日から土が『曜日』と呼ばれるもの。そして、その下に書いてある数字達が『日』と言うものだ」
「ふむふむ……なんだかちょっと複雑じゃねえか、これ?」
「そこまで難しいもんじゃねえぞ。左上のでっかい数字をまず見るんだ。ここを見ると、今日が1月だってのがわかる」
「1月……」
「下の表は左上から始まっていくんだが、先に見るのは数字の方だ「1」ってかいてるだろ? 上のデカイ数字と、これを併せれば、今日が一月一日ってのがわかるわけだ」
「ははあ……じゃあ、明日は一月二日で、その次は一月三日ってことになるのか」
「その通り! で、上に書いてる字を見ると……「木」って書いてるだろ? そこまで併せて読むと、今日は一月一日木曜日ということになるわけだ」
「数字はわかったが、木ってのはどういうこった? 木を切る日なのか?」
「数字だけだとやりにくいから、火やら水やらを入れてんだよ。そうだな、例えば「土」の日と「日」の日は仕事を休む、みたいに休みの日を決めやすくなるだろ」
「そうか、今まで適当に休んでたが、こうすりゃ用があってわざわざいったら休みだったってことがなくなるのか」
「お、いいこというね。そうだな、もう一つ例をみせてやろう……パンさんとルーちゃん、ちょっとこっちに……って、ルーちゃんはもう寝ちゃったか。じゃあクロベエ、代わりにお願いね」
そういやもう深夜だもんな、子供はおねむの時間だわ。
というわけで、パンさんとクロベエに寸劇をしてもらいました。
「クロベエくん、リブッカの肉が欲しいんだけど売ってるかな?」
「リブッカかい? わるいけど、今日はもう無いね」
「いつ頃なら買えるかな?」
「そうだね、今日は一日だから……えっと……ねえ、ユウ。これなんて書いてあるの?」
(よやく、だよ)
「今日は一日だから、七日……の水曜は休みだから八日、来週の木曜日には売れるよ。よやくするかい?」
「そうね、お願いするわ」
……
…
「つまりさ、暦があれば先の予定や約束事を決めやすくなるんだよ。仕事はやりやすくなるし、誰かと遊びに行く約束だってしやすくなるだろ? 例えば……なあ、パンさん。一月三日にさ、一緒に初売りデートでもしようぜ」
「え、ちょ、デ、デデデデートっていきなりそんな……あ! そんなこと言って上手く私を騙してあっちに帰ろうとしてるのね! 騙されないんだから!」
「おいおい……パンさん、例だから例……って、うっわすっげえ酒くせえ! ちょっとお前あっちいって座ってろ!」
「「「わはははは」」」
「……ま、まあなんだ。とにかく、今日からこの暦を使うようにするからよ、ゆっくりでいいから皆も慣れてくれ。そこに小さな今年の暦と説明書を置いておいたからよ、持って帰って勉強してくれ。一家族ひとつだからな、いっぱい持ってくんじゃねえぞー」
「はーい、家庭用の暦はここで配るよー。一家族一つだよー!」
シゲミチくんが暦を掲げて呼び込みを始めた瞬間、秒で人混みに飲まれていった。
「押さないで! ああ! 押さないで! 並んで! 並んでよお!!!」
「うおおおお! 暦! 暦! 暦をよこせえ!」
「よくわかんねえけど、いいもんなんだろ! よこせえ!」
「おれんだ! おれのこよみだ!」
「こよみってうまいのかな?」
この村の人たちはノリが良いからな。新しい物に直ぐ飛びつくのは予想してたが、これはひでえ。
ああ、今日は酒も飲んでるから、いつもにましてアレなんだな。
「あああああああ! ユウさん! 助けてええええ!!!!」
シゲミチ、いい男だったよ……いや、ちょっと可愛そうだから助けてやろう……よっこいせっと。
「うう……助かった……ありがとう、ユウさん……」
「いいってことよ。なんたってお前には村人たちに暦の使い方を教えるという重要な仕事があるんだ、ここで失うわけにはいかねえのよ」
「うう……やらなきゃだめかい、ユウさん……今日のあいつら、獲物を狩るような目で見てきて怖いんだよお……」
泣きそうな顔で俺を見てもだめだぞ。
これはシゲミチくんにしか頼めない仕事なんだからな。秒で暦の概念を理解した自分を恨むんだな……。
お礼は弾むからさ……。
なんてやってるうちに、一通り暦が行き渡ったようで会場がまた穏やかになった。
やること全部やったし、いい頃合いだ、ここで〆の挨拶といこう。
「俺がいった『あけましておめでとう』は一年の始まりにする挨拶だ。詳しくは説明書にもかいてあるが、今日がこの村から始まる新たな歴史の一年目。『リプラ歴一年一月一日 木曜日』今日から新たな時代の幕開けだ!」
「りぷられき……」
「今日は一日、明日が二日……そうか、俺達の新しい暮らしが今日から始まるのか」
「なんかまだよく分かんねえけど、なんか知らねえけど……わくわくしてくるな!」
村人たちが、小さな暦セットを片手に目をキラキラとさせている。
ちょっぴり不安だったが、大丈夫そうだな。
「よし、みんな飲み物を持ってくれ!」
それでは……。
「始まりの村の新たな幕開けに!」
「「「「始まりの村に!!」」」
隣に居たパンさんやシゲミチとジョッキをぶつけ合うと、あちらこちらでカコン、カコンといい音を立てて乾杯の波が広まっていった。
よーし、もうやること全部やったぞお! あとはもう、自由解散だ!
飲みたいヤツはまだ居ればいいし、眠いヤツは帰ればええ。
好きな様にやってくれやと、雑に声をかけ、ここから先は俺も好きなようにやらしてもらうぜ!
さて、時刻はすでに一時近いわけだが……どれだけの人が残ってるかな、とフラフラ飲み歩きながら広場をうろついてみたけれど、帰ったのは子持ちの女性くらいで、半分以上の村人たちが帰らず飲み続けていやがった。
よっぽど酒が気に入ったんだろうなあ、みんな美味そうにグイグイ、カパカパと飲んでるわ。
在庫は……まあ、大丈夫そうだが、この様子だと、きっと酒屋を作ってくれって騒ぐやつが多そうだな。
早いうちに酒の造り方を伝授しないと、ちょっと面倒なことになるかもしれんなあ。
ビールくらいなら、俺が教えてやれなくもないけど、パンさんが言っていた「酒が造れる集落」が気になるんだよな。
そんな連中が居るんならさ、どうにかして始まりの村と交易できるようにすりゃあ、リプラシルはまたひとつ成長すると思うんだよな。
酒を買ったり、技術者を派遣してもらって、酒の作り方を学んだり。
どう考えても、面白い予感しかしねえ……。
なにより、また新たな土地に行くってのは、やっぱわくわくする。
まいったなあ、後から後からやることが増えてくるじゃんか。
取り敢えず……次にやるのは、村人たちの招待だな。
キンタ一家とザック、狩人の何人かをうちに招待するんだ。
リットちゃんやマーサ、ザックには俺の家を見て貰って、キンタ軍団はダンジョンにぶちこんで。
それぞれ、色んな意味で刺激を受けてもらおうって考えてるんだ。
そうなるとさ、ゲストを泊める必要があるわけじゃん。
流石に俺たちの家にみんな泊めるのは無理なので、ゲストハウスを建てないとなって思ったんだが、年越しイベントに間に合わせようと、予定を前倒ししまくったせいでバタバタしちまってなあ……とてもそんな余裕はなかったんだ。
なので……少々不安もあったけど、こっちに来る前に、ダンジョンに寄ってウサ族にお願いしてきたんだ。
進化したあいつらの建築技術は村人たちより数段上のレベル。
つうか、建築デザインのセンスなんかさ、悔しいことに俺よりずっと良いんだよ……。
アドバイザー兼、現場監督をするよう、モル助に頼んできたし、ウサ族は作業の手が早からな……俺が帰る頃にはきっとできあがっていると思う。
……となれば……あ、いたいた。
「おーい、キンター」
酔っ払って忘れんうちに、ご招待の話をしておくとしますかねえ。




