第14話 なんだかとってもめでたい日
シエラたちを手伝って肉を並べていると、さっそくお客さんがやってきた……と思ったら、客は客でも肉屋じゃなくて、俺の客だった。
「さっきから見てたけど、凄いねえ。あっという間に肉屋ができちまったじゃないか。ねえ、ユウさん。あたしもこんな感じで売りたいんだけど、だめかねえ?」
ルツと名乗るおばちゃんが、めっちゃ元気よくババババーっと迫ってくる。
すっげえやる気を感じるし、その気持に応えたいのは山々なんだが、肉屋は当分の間はこの一軒で間に合っちまうからなあ……。
申し訳ないけど、ここはお断り――
「ほら、ユウさんが変わった野菜を売るヤオヤとか言うのをやってただろ? あたしはさあ、もう鍬は振れないけど、野菜に関わりたくてねえ……その、ヤオヤとかいうのをやりたいんだよ」
――って、八百屋かあ。だったら話が変わってくるわ。
もののついでみたいに肉屋を作ったし、八百屋もここで決めておけば今後楽になるよな。
「いいよ、八百屋作ろっか」
「ほんとかい、ありがとうね、ユウさん!」
「いいってことよ。それで店の場所なんだが――」
シエラみたいに家と一体化させようかと、最初は考えたんだけど、農家の人らって畑の側に家を建ててるわけでな。
その畑がまた、地味に村の中心から離れたところにあるわけなんだよ。
せっかく店を作るんなら、やっぱ中心に近い所が良いよなってことで、ルツおばちゃんと相談して、広場の近くにサクっと倉庫とくっついた店舗を作っちまいました。
おばちゃんもお友だちとやるようなことを言ってたので、シエラにしたのと同じような説明をしたよ。
野菜の金額はちょっと……だいぶ迷った。
なにせ、ウチほどじゃないけど、ここの畑もおかしい速度で作物が育つからな。
だから、需要と供給をざっくりと聞いて、それにあわせていい感じの値段を決めた……つもり。
といっても、この集落内での需要から出した金額よりも、だいぶ高めにしたんだ。
なんでって、当たり前に勘定しちゃうと、どうしても野菜の価格が安くなりすぎちゃって、農家の収入がちょっとやべえことになっちまうからだね。
当分の間は、収穫の半分を俺が買い取る形にして、村への供給を調整したんだよ。
こんなことをしてると『がっつり介入しとるやんけ!』って言われそうだけど、しゃあないねん。
いずれは、ちゃんと住人たちだけで価格維持ができるようにする予定だから、コレに関しては、スタートダッシュ無罪でセーフってことにしておくれ。
買い取った野菜も、ちゃーんと卸すところを考えてるし、無駄にはならねえからさ。
つーわけで、色々と無理やりやっちゃった感はあるけれど、これで肉屋と、おまけに八百屋までできたわけですよ。
これで経済の概念……とまでは言わないけど、まあ、それに繋がる種まきは出来たんじゃねえかな。
シエラやルツおばちゃんも、なんかもう理解力が良すぎるしよ、ほんとこの世界の住人たちは、バグが取れた瞬間に乾ききったスポンジみたいにグングン吸収してくよなあ。
こりゃ二ヶ月くらい離れてたら、ものすげえ進化してるかもしんねえぞお。
つうわけで。
今回、ここでやるべきことはあらかた終わり。
残すは、大本命のアレをやるだけだ!
スマホのホーム画面に浮かび上がる日付を見てくれ……そう、今日は十二月三十一日、大晦日だ。
早いもんで、もう年越しだよ。
パンさんに拐かされ、リプラシルに来たのが十一月の頭くらいだったはずだ。
あれからもう二ヶ月くらい経ってんだよなあ……。
明日はもう元日だぜ? はええよな。
でさ、元日ってことは、一月一日、つまり一年の始まりの日、明日から新しい一年が始まるってことじゃん。
なに当たり前のこと言ってんねんって話なんだけど、その当たり前がねえのがリプラシルなんだよ。
つまり、暦の概念を実装するいいチャンスじゃねえかって、気づいたんだ。
なにがいいって、俺のスマホの日付と完全に同期するのがいいよね。
ある程度、暦の概念が普及するまでは、それを一番理解しているのが俺やパンさんになっちゃうわけだろ?
俺らが『今日何日だっけ^q^』とか言い出したらおしまいじゃん。
だから、こうしてスマホで確認できるってのはものすげえ助かるわけよ……。
というわけで、今日は日本の大晦日であると同時に、こちらの世界における新暦元年イブってことになるわけで。
村民たちは、まだこのことを知らない。
だから、夕方から始める宴会に来ても、店やら弓やら村やらができたお祝いなんだなあ、くらいに、今日はなんだかとってもめでたい日なんだなあ……くらいに思ってはしゃぐことになるわけだが……。
色んな意味で、この世界の時が進み始める記念パーティなんだよなあ……。
あーエモい! 一人で勝手にエモくなっちまうぜ!
そんなエモがりマンな俺がなにをしてるかと言えば、勿論パーティの準備よ。
村人たちへの周知は、雑にキンタに頼んだけど『謝肉祭みたいのやるから、村民全員参加で頼む』って言ったら、めっちゃ張り切って飛んでったから、まあみんな来ると思う。
今や、この村の人口は二百人を超えているという。
予め作ってストックしておいた料理もあるけど、それだけじゃ余裕で足らんからな。
家族総出で……それだけじゃキツいから、リットちゃんとマーサの親子にも手伝ってもらって……ああ、もう忙しい、忙しい!
肉を焼いて、シチューを作って……あ、リットちゃんそっちの串にはお肉とギーネを交互に刺してね……そう、上手! ああ、マーサ、油に気をつけてね……うん? これ? カラアゲっていうんだよ……ああ、わかった、後で作り方教えるから! 油って危ないんだから、マジで気をつけてくれよな!
……ヒイヒイ、マジで忙しい……ああ、そうだ、お祝いなんだから、酒も用意しねえとな……酒……酒?
すげえ今更だけど、こっちの世界で酒を見たことがねえな?
「ねえねえパンさん。もしかしてこの世界って酒の概念がない健全な世界だったりする?」
「いいえ? きちんとお酒があるっていうか、別の地域には水の代わりに酒を飲むような連中もいるわよ?」
「じゃあなんでこの村で酒を見たことが……ああそうだった……アホな世界だから交易とかしてねえのか……」
「アホって言うな! まあ、その通りなんだけど……」
「じゃあ、ここの連中は酒をしらねえってわけか……」
謝肉祭の時って、酒もないのに遅くまでめっちゃ盛り上がってたよな……酒を飲ましたらいったいどうなっちまうんだろう。
……どちらかと言えば、陽キャ率がたけえ土地だからな……めっちゃ喜ばれるかもしれん。
今回は、あれやこれやと介入しすぎてる気もするが、こうなったら酒もやっちゃうか?
リプラシル産のミーンとマリハナを使用し(製作ツールで)作ったビールなら、まあギリセーフやろ。
ビールは人を選ぶから、全員がハマるとは思わんが、それでも何人かは確実に気に入ると思うんだよな。
そうすりゃ、この地にも酒造文化が生まれてよ、それが転じて味噌やら醤油やらの製造が始まるかもしれん。
ようし、今日はビールを大盤振る舞いしよう!
在庫は……大樽で五つか……念のためにあと二十樽くらい作っとくか……そんな飲まねえだろうけど。




