第11話 試射会にゆくぞ
今日は試射会ということで、早朝から皆でぞろぞろと女神の森に来ています。
森といえば、塩のダンジョン二階層。
新たな住人を増やせないかと、ルーちゃんが軽くチェックをしたんだけど、キンタたちが狩場にしている浅場には、残念ながら適した魔獣や魔族は居ないようだった。
大きめの魔獣だからってことで、もしかしたらとリブッカも調べたが、そいつもハズレ。
ヒッグホッグと同じく『ウオオオ! オマエマルカジリィ!』みたいなノリで、食うか食われるかの野性的な思考をされていたため、残念ながらお友達候補とはならなかった。
まあ……リブッカもヒッグホッグ同様に食肉として狩って食ってたからな。今さらお友だちになりましょうねっていうのは、気まずいっていうか、倫理的にアレなので、これはこれで良かったんだと思う……。
ただ、もっと奥、森を東に進んでいけば、未知の魔獣や魔族がいるかもしれないと、ルーちゃんはパンさんとクロベエを引き連れ、別行動をすることに。
ちょっぴり寂しいけども、今回ばかりはしょうがない。
なにせ、ザックやダンという森歩きに不慣れな奴らが同行しているからな。
キンタたちだって、まだそこまで強くなってねえし、無茶はしないでいつも通りの場所で用を済ませることにしたよ。
そんな、我々おっさんグループの先頭を歩くのがキンタだ。
ニヤニヤと、だらしのない顔で先頭を歩くヤツの手には、ザックとダンが作ったコンポジットボウが握られている。
……出発前に『あ、貸しといた弓は返してもらうから』って言ったらさ、捨てられた子犬見てえな顔されちゃってさあ……。
『そ、そうだよな……次来るときまで、貸しておくとか、い、いってたもんなあああ』
って、声を震わせて言うんだもん、マジかこいつってなったわ。
めっちゃ嫌そうに渡されたコンポジットボウを受け取り……なかなか離さなかったから、最後は無理やり奪い取って――
『これからはこれを使うんだぞ』
――と、代わりにザックとダンが作ったのを渡した瞬間、表情が一転よ。
昔、なんかの動画でみたことがある『クリスマスプレゼントを受け取ったアメリカの子供』まんまのリアクションされたわ。
『これって、ダンとザックが作ってたやつだよな、何度か試し撃ちさせてもらったが、そうかあ、とうとう完成したんだなあ!』
なんて、はしゃいじゃってはしゃいじゃって。
あれからずぅっと、この顔ですよ。ウザいったらもう。
そんなおっさんの姿を羨ましげに見つめているのが、他の狩人たちだ。
これまでも、キンタのやつは俺が作ったのを使ってたわけじゃん。
だから、改めて『キンタ専用だぞ』と、正式に渡されたのを見て『いつかは俺達も!』と、キラキラ……いや、ギラギラした目で見ているわけですよ。
そう、残りの二張、狩人の共有財産として用意した弓たちはまだ彼らに見せていないんだ。
……と、目的地に到着だ。
「お前ら止まれー、打ち合わせ通り、まずはここに拠点を作るぞー!」
「「「おー!」」」
今日の試射会には、ザックとダンという、製作者が同行している。
そんな二人に『自分たちが作った弓がどれだけ凄いのか』を見せるため、そして、狩人たちに自信をつけさせるため、今日の獲物はいつもとは違う大物……リブッカにしたんだ。
だから、狩りの前後に休憩ができるように、上手く狩れたら解体ができるようにと、しっかりとした拠点を作ってもらった。
……よしよし、いい感じに拠点ができたな。
がんばった狩人たちにはご褒美をやらないとな。
「よーし、お前ら注目だー! 今日の朝、キンタに新たな弓を渡したのを見たよな」
「見た見た! キンタさんだけずりいわ」
「キンタさんならしゃあねえけど、ずりいわ」
「ゆるさねえぞキンタ!」
ボロッかすに言われまくってんのに、キンタのやつ、ニヤケ顔を止めようとしねえ。
多分、素でやってんだろうけど、めっちゃ煽ってるみたいで草はえるわ。
「キンタだけずりいよなあ!」
「「「ずるい、ずるい!!」」」
「そんなお前らに朗報だ! 実は、このダンとザックが作った弓――コンポジットボウはまだ二張ある!」
「「「な、なんだってー!」」」
「これは、狩人全員の共有財産……ええと、みんなで使う弓として用意した!」
「みんなで……ってこた、なんだ」
「あれじゃね? 順番で使えってことじゃね?」
「ああ……炊事場みたいな……」
「そういうことだな。こいつを手に入れようと思えば、お金――リパンをたくさん用意しなきゃねえ。だから、まずはみんなで試せるようにと、二張だけだが用意したんだ」
ここまで言ったところで、大騒ぎよ。
もう、みんな最初に使いたいわけじゃん? 俺だ、ボクだ、あっしだと、やいのやいのと大騒ぎよ。
見ろよ、ダンとザックの顔。
喜んで良いのか、ドン引きしたら良いのか、めっちゃ複雑な表情だよ……。
いやあ、ここは喜んどきなって。お前たちの頑張りは、しっかりと狩人たちに届いてるよ。
って、そろそろ止めるか。
おい、おまえら……ちょ、やめろ! 俺を掴むな! 変なところに手を突っ込むんじゃねえ! なに? 追加を出せ? ねえよ、んなもん!
……埒が明かねえから、ジャンケンを教えるハメになっちまったよ……。
「なんだよ、そんな目で見ても、マジでもうないからな? 早く使いたかったら、金――リパンを貯めて自分用のを買うこったな」
「そうか……その手が! なあ、ユウさん! これを買うにはどれくらいリパンが必要なんだ?」
「弓だけで800リパン……普通サイズのリブッカを一頭買えるくらいだな」
「げえ……そんなにすんのかよ!?」
「そうだぞ? なあ、ダン。なんでそんなにするのか教えてやってくれよ」
「あん? 俺か? そうだなあ、材料に鉄を使ってるってのもあるんだが、一番の理由は、まだこれを作れるのが俺んとこだけだからだな」
「なんでそれで高くなるんだ?」
「ええとあれだ、これ一つ作るのに、まだ慣れてねえから結構時間がかかるんだよ……だからええと、あれだ……ユウさん頼む!」
全部ダンの口から言わせたかったが、昨日ちょこっと教えたくらいじゃだめだったか。
しょうがねえ、俺がわかりやすく教えてやろう。
「狩人はさ、狩った獲物を肉屋に売って、貰ったリパンを山分けするようになるわけじゃん」
「ニクヤ……ああ、なんか俺等の代わりに肉を交換……じゃねえな、売ってくれるようなあれか」
「うむ。お前らなら、直ぐに一回の狩りで一人当たり100リパンくらいは軽く稼げるようになると思うんだ」
「そんなにかよ!」
「ああ、そんなにだ。弓を作るには鉄や木を買わなきゃないだろ、その分がザックリ200リパン。残りは600リパンがダンとザックの取り分になるわけだ」
「600つーと……狩り六回分ってことか」
「そうだな。けど、二人だからそれを半分こするわけじゃん。一人300リパン、まだ作り慣れてねえから、一張作るのに、狩り七回分くらいはかかるわけじゃん」
「おおお……つまりなんだ、狩りに七回行って、三回分の分前しか貰えねえようなもんじゃねえか! なあ、ユウさん。もっとリパンを出してやってもいいんじゃねえのかこれ……」
「そう思うだろ? まあ、慣れりゃもっと早く作れるようになるし、ザックの手伝いも要らなくなるだろうからな」
「なるほどな……そのうちちょうど良くなるってわけか……うーし、ダン、ザック。俺、がんばって800リパン稼ぐわ! そんときゃ良い弓を頼むぜ!」
「おいらもがんばるから、頼むぜ、二人とも!」
「おらも、おらも!」
「お、おう……無理しねえようにな」
「ゆっくり稼いでくださいっす」
さて……いい感じに狩人たちのやる気が漲ったところで、試射会といきますか!
まずは、リブッカを見つける必要があるのだが、いつも魔獣をみっけてくれる、頼れる相棒はルーちゃんグループに入れられたので今日は不在。
キンタたちはリブッカ狩りをしていたわけじゃねえので、頼ることはできないと。
そうなると、ここはやっぱり俺の出番となるわけだが、きちんと予習をしてきたので、そこはバッチリだぜ!
リブッカの縄張りを見つける方法は簡単だ。
鑑定先生が後からしれっと追加しやがったテキストによると……あの立派な角は、攻撃手段としては勿論、メスを取り合うオス同士の決闘に使われているらしい。
そして、その角を使った面白い習性があってさ、あのクソデカイ角を、ぐりぐりと木に擦り付け、傷とともに匂いをつけてマーキングをするんだってさ。
縄張りアピールにもなるし、角が伸びすぎないように削ることもできるしで、なかなか理に適った習性だよな。
つまり、リブッカを探すなら、木の幹をみりゃあいいってわけ。
その情報をキンタたち狩人に共有したところ、ああ、あれってそういうことだったのかと、納得した顔で言う。
「どういうことだってばよ?」
「いやな、昔から言われてたんだよ。木の幹に傷を見つけたら逃げ帰れって。リブッカの縄張りの目印だってのを、大昔の猟師は知ってたんだろうなあ」
なるほどなあ。
細かい情報までは受け継がれなかったけれど、危険回避の情報として、ちゃんと残ってたってのは素晴らしいわ。
こういう感じで、ちょいちょいと、まともな所もあるから、この世界も馬鹿にできねえよな。
……なんて、エモがってたらでっけえ傷をみっけたぞ。
「リブッカの縄張りに入ったぞ。さあ、逃げるのは今日でおしまいだ! 今日は沢山狩って帰るぞォ!」
「「「おー!!!」」」




