第6話 建国への第一歩
通貨も大切だけど、もう一つ大切なことが有る……っていうか、むしろ今日の本題はこっちなんだよな。
「周りを見てくれよ、広場が人でいっぱいだろ? この土地がこんなにも賑やかになったのは、ここに住む人が増えたおかげだよな」
互いに顔を見合わせてそうだな、そうだなと頷き合う人々。
なにせ、今や人口二百人超えですよ。
ここまで増えたらさ、もう次の段階に進むべきだと思うんだ。
「みんなに聞くけどさ、何か困ったことが起きた時、誰に相談してる? ちょっとした悩みは家族や友人にするんだろうけど、土地全体に関わるような悩みはさ、長生きしてる老人なんかに話を聞きに行ったりしてるって聞いたんだが、どうだ?」
「そうだな。ウチだとマモ爺に聞きに行ってるわ」
「俺んとこはグズリのお婆だな」
「あたしんとこはミツヨの婆さん」
「おいどんはケンタロウお爺さん!」
「うんうん、大体どこもおんなじもんだよな。けどよ、今こうして一つの場所にまとまって暮らすようになったらどうだ? 例えば、ここに大きな魔獣が来たとしよう。土地を守るためになんとかしなけりゃならない、そういう時、誰のところに行ったら良い?」
少し意地悪な質問をしてやると『そりゃミツヨ……いや、マモ爺なのか?』みたいな感じで、元の集落の長老を頼るべきなのか、マモ爺を頼るべきなのかで迷う声がチラホラと聞こえてくる。
ここって、元の集落に近場の細々とした集落が統合された感じになってるわけじゃん。
だからこの場合は、ベースとなっている集落の相談役である、マモ爺に頼るのが丸いんだよな。
爺さん婆さんが揃っておんなじ意見を出すわけじゃない。意見が食い違えば、どれを採用するかでギスるわけじゃん。
だから、ベースとなっている元の集落の長老、マモ爺の意見を聞くべき……なんだが、それはそれでモヤるやつは出てくると思うんだ。
じゃあ、長老たちから代表を決めれば良いってなるんだが、それはそれで確実に荒れると思うんだよ。
やっぱさ、みんな推しの長老が代表になったら嬉しいわけじゃん?
頼るんなら、知ってる人のが良いし、自分らの長老がみんなをまとめてるって思えば、誇らしく思う……かもしんねえしな。
だから、長老たちには今まで通り知恵袋として過ごしてもらう。
代表は代表で別の者、もっと若くて住民と一緒になって動けるような、フットワークが軽い奴が良い。
「つうわけで、なにかあった時にみんなをまとめる人を決めようと思うんだが、爺さん婆さんじゃなくて、もっと若くてみんなを引っ張っていけるようなやつにしたいんだ」
……と、密かに決めていた代表者を発表する流れに持っていこうとしたら、大問題が発生した。
「そんなん、やっぱユウさんしかいねえんじゃね?」
「だよな、俺もそう思った」
「ユウさんは意外と頼りになるっぽいもんねえ」
「弱そうって思ったけど、魔獣ぶん殴るすげーやつだったしな」
「じゃあ、これからはユウさんに頼るってことで!」
「「「わああああ!!!」」」
おいおい、待て待て、違うだろ!
俺じゃだめだっつーの! おいくそパンさん、ゲラゲラ笑ってんじゃねえぞバカがよぉ!
そもそもの話、俺がやっていいのはテコ入れだけなんだ。
みんなの背中を押すことがあっても、前に立って手を引っ張るのは俺の役目じゃねえし、やって良いことじゃないんだよ。
「悪いがその代表は俺じゃあダメなんだ。確かに俺はここの皆の暮らしを良くしたいし、これからも助けになって共にここの発展を見守っていきたいと思う。でも、ここのことはここに住む人が決めた方がもっと良くなると思うんだよな。それにほら……俺は別の土地を開拓してるから、ここにはずっと居れねえんだよ」
「そういやそうだった……」
「ユウさんがダメってなるとマモ爺か?」
「それはダメってユウさんが言ってただろ」
「じゃあ、誰がやるんだよ?」
誰がやるって、ここはあいつしか居ねえだろ。
脳みそまで肉でできてるような、アホではあるけれど、良い兄貴分として若手を引張り、みんなから慕われている憎い陽の者……。
あいつなら……安心してここを任せられる、そう思うんだ!
だから、俺はこいつを指名する!
「おう、キンタ! ちょっとこっちにきてくれ!」
「へぁ?」
急に呼ばれ、変な声を上げたキンタが、周りにジロジロ見られながらバツが悪そうな顔で俺の横にやってきた。
「俺はキンタがいいと思う。こいつなら信頼できるし、お前らを守れるほど狩りの腕前があるからな」
「はあ? 何言ってんだお前! 俺にマモ爺の代わりをやれっていうのか? おいおい勘弁してくれよ! なあ、お前らもおかしいと思うだろ?」
必死な顔で周りに同意を求めるキンタだったが、愉快なことに周りの連中の反応は、キンタの代表就任に肯定的な意見ばかりだった。
そりゃそうだろ、肉目当てで集まってきた連中がよ、肉をいっぱい狩ってくるキンタさんを認めないわけがないだろ?
狩人の代表として指導してたらしいじゃねえか。そりゃ支持率天元突破間違いなしですわ。
ニヤニヤしながら無言でキンタを見つめる俺。
そうだな、キンタさんならと。
ユウさんが認めるなら、と。
肉の人が認めた肉の担い手ならと……おい、最後のおかしいだろ!
やんややんやと周りから声を上げられ、照れながらもまんざらではない男、キンタ。
ほんと、ちょれえやつだな。あとちょっとで完落ちじゃねえかよ。
「そ、そんなことを言われてもな……狩りは自信があるし、男共をまとめるのもできなくはねえけどよ、俺にはユウのようにあれやこれやをうまくできる自信なんてねえよ……」
「ああ、その辺りは心配いらねえぞ、キンタ。誰だって何でも全部一人でできるわけじゃねえんだ、当然キンタの手伝いをする奴も決めてあっからよ、シゲミチ、ちょっとこっち来い」
「ふぁ?」
突然呼ばれて変な声を上げる男、シゲミチ。
彼は賢いからな。この後の展開を当然読めてるんだろうな、めっちゃ嫌そうな顔をしてこちらに向かっているが、反応しちまった以上、もう逃げらんねえし、逃さねえぞ!
「彼はシゲミチ。仕事をしていないように見えて、実はここの将来に繋がる大切な作業を一人コツコツ、誰からも褒められないのに……陰口を叩かれながら、ずっとやっていた影の功労者なんだ」
「いや、でもそれって元々俺の趣味みたいな……いでえっ!」
要らんことを言いそうなシゲミチの足を踏んで黙らせる。
あちらこちらから、そういえばとか、そうだったのかとか。肉の分配で世話になったとか……知らなかった、謝らなくちゃなどなど、シゲミチくんの活躍がわかる声がザワザワと聞こえてくる。
俺が居ない間も随分と頑張ってたんだなあ……偉いぜ、シゲミチくん!
「こいつがお前らから名前や出来る事を聞いて、何かに書き込んでたのを見たことが有るだろ? あれもこれから皆に必要となる大事な仕事なんだが……それをキンタにやらせるのは……まあ、無理だわな。
だから、その手の仕事はシゲミチが請け負う。肉体労働のキンタと、頭脳労働のシゲミチ。彼ら二人と皆が力を合わせればこの場所はより良い場所に生まれ変わっていくだろうよ! なあ、お前らもそう思うだろ?」
そうだそうだ、そうにちげえねえ、こいつらなら間違いねえと、盛大な拍手で承認される二人。
二人から『後で覚えてろよ』と無言で睨まれているけれど、そりゃこっちのセリフだね。後でみっちりと今後の為に仕込んでやるから覚悟しておくように!
「代表が決まったところで最後の発表だ。この土地のように、多くの住人が集まり、それをまとめる代表者が居る場所……それを、俺が住んでいたとこでは『村』と呼ぶんだ」
「むら?」
「そう、村だ。そして村の代表者を村長と呼ぶ。つまりキンタ、今日からお前は村長だ!」
「キンタソンチョウー!」
「いいぞソンチョウー!」
「そ・ん・ちょ・おおおおおお!!!」
「へへ……ソンチョウか。全く実感がねえが、そう言われると偉くなった気がしていいな!」
「「「「うおおおお! キンタソンチョオオオオ!」」」
たぶん、ソンチョウの意味もわかってないだろうに、妙な盛り上がりを見せている……ほんとこいつらノリだけで生きてるとこあるよな。
「んでよ、村には名前をつけないとならないわけよ。今後、俺はあちこち回って他にも村を作るつもりなんだが、そうなると、ただ村と呼んでちゃ他と区別がつかなくなっちまうだろ?」
「たしかにそうだな……」
「どんな名前がいいんだろ?」
「ヨシオ村とか?」
「バカヤロ、そりゃお前の名前じゃねえかよ!」
「ひらめいた! ユウ村だ!」
「いや、キンタソンチョウだからキンタ村じゃね?」
キンタ村……それはウケるし、個人的には推したいけど、代替わりした時それじゃ困るから却下だわ。
つか、こいつらのネーミングセンス終わりすぎだろ。
なんでコイツラ人の名前縛りしてんだ。
まあ仕方ねえのか? 今までなかった概念だろうからな。うーん、今までなかった初めての物か。
だったら、ここは一つ俺がテンプレ的な名前を授けてやるとするか!
「今後、あちこちにどんどん村というものが産まれていくことになるだろうが、その始まりとなったのがこの村だ。だから、俺はここを『始まりの村』と名付けたいと思うんだけど、どうかな?」
「ここが最初の村、ここから新しい何かが始まっていく、だから始まりの村か……」
「ここから、この始まりの村からみんなの暮らしが変わっていくのか」
「いいな! 始まりの村!」
「俺達の村! 始まりの村!」
「始まりの村!」
「始まりの村!」
響きが気に入ったのか、楽しげに始まりの村コールをする村人たち……なんか賢くなる前のウサギ共を彷彿とさせるテンションだが、悪くないな。
きっと……いつか。
この、愉快な連中が住む村に旅人が来たときに……。
村人はこういうんだぜ。
「ようこそ! よくきたな、ここは始まりの村だ!」
ってね。




