第4話 対価
「さて、俺の事を分かってもらったところで相談だ。ここに越してきた人らは、ここの生活に戸惑うことが多いと思う」
うんうんと頷いているのが、集落ごとやってきた人らだな。
どうして、あの人らがここの仕組みを受け入れてくれないのか。
それは、なぜそれが成り立つのかを、きちんと理解できていないからだろう。
だから、面倒でもここは一度再放送だ。
「肉を手に入れるためにはどうすればよいか、そりゃ簡単だよな。狩人が欲しがるものを渡せばいいんだ。野菜だったり、狩りの道具だったりを渡せば狩人は喜んで肉と変えてくれる。当たり前のことだよな」
うんうんと頷く移住組の人たち。
あれは、体格からして狩人や農家の連中だろうな。それに対して、不安げな顔でこちらを見ているのが俺みたいな体格をした連中……うるせーな、俺は肉が付きにくいんだよ!
……多分、こいつらはシゲミチタイプの連中なんだろうな。
「俺たちは飯を食わなきゃ生きていけない。だから肉は大事だし、野菜だってそうだ。けどさ、それ以外にも大切な物はいくらでもあるんだ。病気を治す方法を考えたり、もっと強い狩り道具を考えたり、みんながもっと楽しく暮らせるように考えたり……新しく何かを産み出すために考えるってのも大切なんだ。ここにはそういった事をして肉や野菜を手に入れている者達が居るんだ」
ああ、その話かよと、ざわりざわり。
「まあ聞けよ。その手の連中を大事にすりゃあ、今より多く肉を食えるようになるし、肉をもっと旨く食えるようになるんだぜ?」
まあ、納得いかねえよな。
だったら、彼らがもたらす未来を見せてやったら良い。
後ろを向き、さもカバンから出しましたよという顔でコンポジットボウをストレージから取り出した。
「これは、リブッカ……あの角を持つ大きな魔獣を狩れる新たな弓だ」
どよどよと、ざわめく人々。キラキラとした目で見ているのは、狩人たちだろう。
ドヤ顔をしているのは……キンタだ。
お前……。
「今、ここの若い奴らが鍛冶師と協力してこれを作ってんだよ。そう、お前らが小馬鹿にしてた、対価を出さずに肉を食ってた連中がどうすればこれを作れるか考えてくれてんだよ。なあ、言ってる意味がわかるか?」
ざわめく人々。
ドヤ顔をするキンタ……だから、なんでお前が得意そうな顔すんだよ……。
「大きな魔獣を狩る弓を考える、病気を治す薬を考える……こうして考えてくれるやつが要るから、鍛冶師は新しい弓を作れるし、薬師は薬を調合できるわけ」
「……ここでやってることって、そういうことだったのか……」
「それなら……俺だって胸を張って肉をもらえるかも……」
「なんてこった……俺なんかよりよっぽど立派じゃねえかよ……」
わかってくれたか……良かったわ、こじれる前になんとかなりそうだ。
こうなったのも『頭脳労働』という対価が目に見えないのが原因なんだよな。
だから、今回のテコ入れでそれを見えるようにする。
「まあでも……何も貰ってないのに肉や野菜を渡すってのは、なんだか損してるなって思うのは仕方がない事だと思うよ」
あれえ? って顔してるな。
そりゃそうだ、納得してくれーって話した内容を、ひっくり返すようなことをいってるわけだからな。
でも、矛盾してる話をしてるわけじゃないんだよ。
対価となるようなものが、わかりやすく存在していればいい、今からするのはそういう話だから。
みんなついてきてるかな? ちゃんと話についてこれてるかな?
大丈夫か? 大丈夫そうだな?
ようし……じゃあ、満を持して……お披露目だ!
「そこで……目に見える対価として『コイン』を使ってみたらどうかと考えたんだ」
「こいん……ってなんだ?」
「君は……えっと、キンタくんといったかね! いい質問だ、ここに実物があるので、まずは見てくれ!」
棒読みのキンタとの白々しいやり取りを、変な目で見られてるが気にしない。
広場に置いたテーブルに、ジャラジャラとコインを出していく。
「この銅でできている『銅貨』が1リパン、銀の『銀貨』が10リパン、そして金の『金貨』が100リパン……この3種類だ」
頭脳労働者が提供する『対価としてわかりにくい』ものに肉や野菜を差し出すのが嫌ならば、わかりやすい物を用意すれば良い。
そうなりゃ、当然お金の出番だよなあ。
この世界には足りないものだらけだが、お金の概念がないのは大問題だ。
今でこそ、まだ物々交換で取引が成り立っているけど、今後、もっと人口が増えたら『野菜は要らないから別のものをくれ』と断られてしまう、そんなケースが増えていくだろう。
だから、さっさと通貨を実装しねえとなあって思ってたんだけど……ほんとちょうどよいタイミングだったわ。
「ユウさーん。それ、キラキラしてきれいだけど、どうやって使うのー?」
「リットちゃん、良い質問だね。それじゃあ、コインとはなんなのか、どう使うのかを実際に見せてあげよう……アシスタントのパンくん、こちらへ」
「……誰がアシスタントよ」
打ち合わせ通りにパンさんを呼び、用意しておいた肉を取り出し、机に置いた。
肉をみた連中からざわめきが起きたが、もう慣れているのでリアクションはしてやらない。
これからパンさんと小芝居……もとい、シミュレーションをして、コインをどう使うのかを説明しようと思うのだが……あらためて、現状がどうなのかを共有してからのほうが伝わりやすいよな……ええと、あいつでいいか。
「そこの君、肉が欲しいときはどうしてる?」
「え? 俺? んと、俺は野菜を作ってっからな、ジャモか何かを持って行って変えて貰うわ」
「なるほどな。でもさ、ジャモって持ち運びめんどうじゃね?」
「そうなんだよ。ザルに入れてもってくんだけどよ、たまに落っことしたりして大変なんだよな」
いいね、いいアンサーだ!
物々交換の面倒なところがコレだよな。
ジャモだからまだいいけどさ、これで対価が大量の薪だったらどうだ。
持ってくのも大変だし、渡された方も持って買えるのに苦労するだろ。
「そこで、このコインの出番というわけだ! よし、パンさんはじめるぞ!」
「はいはい」
パンに声をかけシミュレーション開始だ!
「あらあ、良いお肉ね、レッグコッカかしら? おいくら?」
「奥さんいい目してるねえ! 10リパンでいいよ!」
「うーん、もう一声!」
「かなわねえなあ……奥さん可愛いからおまけしちゃう! 8リパンだ!」
「あ、あら! うれしい! じゃあこれね」
と、パンさんから10リパン銀貨を一枚受け取り、おつりに1リパン銅貨を二枚返した。
「とまあ、こんな感じでよ、パンさんはコインと交換で肉を手に入れたわけだ。そんでこれを手に入れた俺は……」
ここから先はルーちゃんの出番だ。
手招きをしてルーちゃんを呼び、簡単なお願いをする……もちろん、これも事前に打ち合わせ済みのシミュレーションだ。
「ルーちゃん、この草が薬になるか調べてくれない?」
「そうねえ……はじめて見る草だから……2リパンでどう?」
「助かるぜ、じゃあそれで頼む。何か分かったら教えてくれ」
「おっけー!」
「……とまあ、こんな具合に使うことも出来るわけだ。つまり、交換をする物の代わりをコインがやってくれるわけだ。重たい思いをしないで済むし、人に頼み事をするのも、お礼にコインを渡すようにすりゃあ、今よりずっとやりやすくなるだろ?」
「なるほど……正直、野菜ばっか貰ってもなあって思うことはあったんだよな」
「そうそう、ジャモがよ、すっげえ溜まってて……でも、こいんなら、好きなものと変えられるってわけだ」
「なにより、重たい思いをしなくて良いのは最高だよ」
思った以上に利点が伝わってくれたようで、賛同する声があちらこちらから上がっている。
最初は受け入れてくれる人が少なそうだよなあ……って思ってたから、これは嬉しい誤算だわ。
この様子なら、次の話も好意的に受け入れてくれそうだな。




