第3話 ユウさんってすごいんですのよ
集落の人たちが集まり、ザワついている。
なんだか、軽く既視感を覚えるが……それはきっとダンジョンの妖怪どものせいだろう。
ここんとこ、こうやってダンジョンの住人を集めて演説しまくってたからなあ……ああ、なんかタルットの幻覚が見えてきたわ……。
あかんあかん! ここはダンジョンじゃない、集落だ!
……ようし、落ち着いたぞ。
まずは……俺のことを知らん連中に自己紹介と行こうか。
広場においた演説台に上り、声を張り上げる。
「えー、お集まりいただきありがとうございます! わたくし、ユウと申しまして、魔獣の森の近くに家を構えているものです!」
「おい……魔獣の森って……」
「誰だ? 見たことねえヤツだな」
「あいつ魔獣と一緒に居るぞ……」
「ほんとだ……じゃあさ、あいつも魔獣なんじゃねえか……?」
「あいつ、うまいのかな?」
俺のことを知らない連中がめっちゃ訝しんだ顔で俺を見ている……つうか、一人やべえやついねえか!?
「こいつが気になってるようですので、紹介しますね……クロベエ、挨拶しな」
「はじめまして、俺はクロベエ。ユウの息子だ。よろしく頼む!」
「喋ったあああああ」
「でけえな、おい」
「噛まないかな……」
「こいつは産まれたときから俺が育てたので、人を襲うどころか、魔獣を狩る良い子に育ってます! だから全然ダイジョーブ!」
マジかよ、ほんとかよ、嘘じゃねと、ざわめく人々。
そらそうだ。
未だ大型魔獣を狩れずに居る人らにとって、クソでかキャッツのクロベエくんは恐怖の対象でしか無い。
いくら俺が大丈夫だと言っても、いくら、言葉を喋れるとしても(本当に大丈夫かな)と、不安に思うのは仕方がないことだ。
だったら……マジ大丈夫だから! ってところを見せてやりゃあ良いのよ。
チラリと横を見る。
そこにいるのはルーちゃんとリットちゃんだ。
手招きをすると、二人仲良くタタタっと、駆け寄ってきた。
「二人とも、ちょっとクロベエくんと遊んでくれる?」
「え、いいの!? クロベエのもふもふ、ひさしぶりだあ!」
「あ、リットちゃん待ってー!」
わっとクロベエに飛びつくリットちゃん。その後を追うように、腹毛に埋もれていくルーちゃん。
「子供が魔獣に!」
「危ないぞー!」
なんて大人たちから警告が飛ぶけれど、二人の幼女は嬉しそうにクロベエの腹をモフりまくっている。
それを見た大人たちから悲鳴が上がりまくっているけれど、二人はまったく気にせず、頭によじ登ったり、腹に埋もれて毛をワシワシとして居る。
「あんなことしても怒らないのか……」
「あんな優しい魔獣がいるんだなあ」
「俺もワシワシしてえ」
「あの腹毛に包まれて寝たら絶対気持ちいだろうなあ」
場がすっかり癒され、動物ふれあいコーナーの空気になってしまった。
まいったな……クロベエのせいですっかり段取りが狂ってしまったぞ。
ええと、どこまで話したっけな……なんにも話してねえわ!
しょうがねえ、また最初からやり直すか……と、思ったところで肩を叩かれた。
キンタだ。
なになに? 俺に任せてくれないかって?
ふむ……ずいぶんと自信に満ち溢れた目をしているな……よかろう、ここは君に任せよう。
なんだかウザそうな顔で俺を見るキンタを演説台に乗せ、俺は一時撤退。
なんなんだろうな俺……ただ、デカいネコチャンの自慢をして終わった感じになっちまったよ。
「狩人のキンタだ。自慢じゃねえが、毎日肉が食えるのは、ウチだけだと思う!」
「ほんとそう。前居たところなんて、肉なんて滅多に食えなかったわ」
「ここの狩人は腕が良いから助かるぜ!」
「キンタ達のおかげで俺も肉を沢山狩れるようになったぞ!」
「やっぱ肉だよな!」
わあわあと盛り上がる会場。小さく肉コールをしている奴らも居るな……。
「今でこそ、肉を沢山食えるようになったが、それもこれも……この男、ユウのおかげなんだよ。ユウに色々と教えてもらってから、毎日肉が食えるようになったんだ! な!」
ぐいっと俺の首に腕を回し、グイグイと締めながらキンタが語る。
おいクソ、地味に痛えからやめろ! やめろつってんだろ! おい、くそ、なんだこれ解けねえ!
「まじかよ、あんな弱そうなのに……?」
「アイツ弓引けんのかよ」
「でもキンタは偉大な狩人だからな……あいつが言うなら……でもなあ」
うるせーな、聞こえてんぞ? ばかにしないでくれる? 弓くらい引けるんだから!
……キンタさんはいい加減腕を離してもろて。
「ユウのなにがすげえって、真っ直ぐ飛ぶ矢を教えてくれたことだな。あの矢の凄さは、お前らも知ってるだろ?」
俺を馬鹿にしたように見ていた連中が、キンタの語りにウンウンと頷き、なるほどあの矢はこいつがと俺を見る。
弓は引けなさそうだし、肉も狩れそうには見れないが、矢を作れるならキンタがここまで持ち上げるのも納得だ、てな感じの話しているようだ……。
……まーだ、おれを小馬鹿にしてやがるな? やっちゃうか? ちょっと”チカラ”を見せちゃうか? おおん?
「ああ、見かけで判断しねえほうがいいぞ? このユウはな、女神の森に現れたラウベーラを狩ったんだぞ。お前らにできるか?」
「ええ……ラウベーラを?」
「ラウベーラってなんだ……?」
「ああ、わりい。クソでかくて、こーんな魔獣だよ。他にもよ、リブッカっつう、でっけえ魔獣をぶん殴って狩ったんだぞ。ほら、あそこに角が飾ってあるだろ? あれ、リブッカの角なんだぜ」
キンタが指さした先、広場に立てられていた柱に、リブッカの角が括り付けられていた。
……なんか書いてあるな。
『謝肉祭記念』
……しょうもねえことしてやがる。つうか、記念の概念はあるんだな……。
「あれを……ぶん殴って狩ったとかマジかよ……」
「やべえ、俺も狩られちまうかもしれん……」
「へへ、俺はうまくねえんで、ゆるしてくだせえ……」
狩らねえし、食わねえよ! 俺をなんだと思ってんだ! たく、クルクルクルクル手のひら返しやがって!
「な? ユウはクソ強えし、とにかくすげえんだよ。だからさ、こいつの話を聞いてやって欲しい。きっと俺たちにもっといい暮らしをさせてくれるからさ」
キンタの言葉で俺を見る目があっという間に変わった。
なんかもう、少年漫画の主人公を見るかのように、キラキラした目で俺を見てやがる……。
肉が好きなだけあって、やっぱ力こそパワーな脳筋の里な感じなんだろうか……。
武を示したから、やっべ、ユウさん憧れちゃうなーってなったんだろうか……。
それはそれで気持ちがいいけど、このままじゃマジで脳筋の里になっちまいそうだ。
それを阻止するためにも、ここから先は真面目にテコ入れを……っつうか、予定していた演説を始めよう。




