第10話 はじめてのはんてぃんぐ
というわけで、森にやってきましたよっと。
いやあ、森ですわ。木がいっぱいですわ。見通しが悪いですわ。獲物を探しにくいですわ!
こういう時は、異世界ならではのファンタジーな力に頼るしかねえな! ってことで、クロベエくんに無茶振りをしてみましょう。
「クロベエ、索敵して獲物を探してくれ」
「さくてき……? ねこのおれに なにをもとめてるの?」
「いやあさあ、魔獣化したんだろ? だから、なんかスキルとか生えてないのかなって」
「うーん たぶん そういうのはないとおもうけど」
「そう言わずに試してみ。やったらなんかできちゃった! ってのもテンプレやぞ」
「うーん……なんかあっちの方から イライラする感じがする……気がする……」
「おお、やれたじゃねえか! 善は急げだ、行くぜクロベエ!」
「ほーい」
クロベエの後をついていくと、間もなくして中型犬のような何かがノシノシと森の中を歩いているのが見えた。
ノリでやらせてみたけど、ガチでスキル的なの生えてんじゃね、こいつ……。
ぱっと見は普通の犬のような姿だが、三つ目で一本角が生えている。
四頭いるうちの一頭がこちらに気づいたのか、グルルと唸り声を上げているが、それが言葉となって俺に届くことはなかった。
言葉が通じねえなら……やるしかねえ!
スマホから取り出したナイフを構え、一歩前に出る。
犬VS俺……ふむ、俺がご飯になる未来しかみえねえな。
……ようし、ここはモンスターバトルと行こうじゃないか。
「いけ! クロベエ! 体当たりだ!」
ノリで言ってみたが、クロベエは体を伏せたまま動かない。
流石に唐突すぎたかとクロベエを見れば、泣きそうな顔をして固まっていた。
ああ……野良猫と遭遇したときの顔だわこれ……。
口元がフコフコと膨らんでいて、耳はぺたんと寝ている。
もともと太い尻尾は、タヌキのように大きく膨らみ、腰ががっつりと引いている。
うん、どっからどう見てもビビり散らかしてるわ!
「えぇ……今のお前がビビるような相手じゃねえだろ……」
「だ……だだ……だって犬だよ? こここ……怖いじゃん?」
猫には二種類居る。
犬を見るとビビって逃げるものと、小馬鹿にして近づいたり飛びかかったりするものだ。
クロベエは余裕で前者だった。
わかるぜ、犬って猫より体格がいいやつ多いもんな。わかるわかる。
けどさ……クロベエくん。君、ひとつ忘れてることはないかい。
「いいかい、クロベエくん。おまえは今、身体がとっても大きくなっているんだ」
「おおきく……」
「ああ、そうさ。ほれ、あいつらを見ろよ。子猫と大して変わらないじゃないか?」
「ほんとだ……よく見たら ちっこい……」
「ならやれるな? やれるさ! よし! やろう!」
クロベエの目に光が戻り、勇ましく立ち上がった。
「そうだ! 今のおれは強い! やれる! うおおおおおおお!」
クロベエの咆哮に、三つ目ドッグたちが「グガオン」と吼えながら飛び出してきた。
ヒェエ! 俺の方にくんじゃねえ!
「まかせて!」
ビビる俺をかばうように飛び出す黒い巨体、クロベエさんだ。
「もうお前らなんて こわくないぞー!」
猫じゃらしで鍛えた猫パンチは強かった。
三つ目ドッグたちをあっという間に殴り倒すと、ガブリガブリととどめをさしてあっさりと勝負がついてしまった。
「ガウゥウ! ガゥウウウニャオゴロオオン!」
やれといったくせに、目の前に広がるスプラッタな光景をみて若干引いているわたくしです。
クロベエさん、やべえっすわ。
狩りで興奮してんだろうな、ガブリムシャリとキモドッグを噛み遊ばせていて、現場は真っ赤なアレがドロドロのぐちょぐちょですわ。
クロベエさんの口元が真っ赤に染まってますわ……。
クロベエの母猫は、しばしば脱走してお土産を持ち帰ってたからさあ、それと同じものだと思えば……まあ、わりといけ……いや、無理だわ。
見た目がアレでも、ワンワンがこうなってんのはちょっと来るものあるわね……。
なんて、微妙に心を痛めていたところで……空気を読めない通知音がなった。
ポポコン!
『そいつら、お肉は臭くてまずいんで、魔石だけとるといいですよ』
『魔石を取ったら、そこらに置いといてください』
『他の子たちのご飯になったり、ユリカゴに還ったりしますので放置でOKです』
後片付けをしなくていいのは助かるが……そうかあ、解体があるんだなあ。
解体……いいよね……よくねえよ! 俺は普通の日本人だぞ! 狩猟免許を持っているわけじゃねえし、都合よくマタギのじいちゃんがいたりもしねえんだ!
ちくしょう! やってやらぁ!
……やって、やる、やって……うわーん!
パンちゃんから魔石の位置を聞き、そこだけ切り開いてなんとか回収した。
おなかにね、ナイフを入れるとね、ゾワッとしたのね。ああ、これが命を奪うってことなんだあって思ったの。まあ、すでにお亡くなりになってたけど。
でも凄いよね。一匹頑張って解体したら不思議と慣れちゃったんだよ。魔石がね、魔石が悪いの。頑張って取り出した魔石をね、じっと見つめているとね……。
(こいつが俺の生命線……スマホを充電できる魔石……これが無ければあのノベルやあの漫画の最新話を読むことができなくなる……)
なんて、気持ちがムクムク湧いてきたんだよ。
そうやって、半ば自己暗示に近い感じで割り切ったらさ、結構大丈夫になっちゃってね……これはこれでどうなんだって思うけど、生き抜くためやししゃあないねん……。
三つ目ドッグたちよ! 俺たちのために犠牲になってくれてありがとう、森に還ってゆっくりお眠りよ!
亡骸たちにそっと手を合わせ、再び狩りに向かうのでありました。
◇◆
そして――
昼過ぎまで頑張った結果、狩った魔獣の数は、俺が三体、クロベエが十二体と結構な数になった。
そうだよ、俺も頑張ったんだぜ。
解体で慣れたつもりだったが、やっぱきつかったんだけどさ……。
『ここは異世界異世界……魔獣魔獣…ファンタジーファンタジー……超リアルRPGだと思えー』
と、自己暗示をかけまくって、なんとか狩りにも慣れることができたんだ。
我ながら単純だなって思うけど、それでなんとかなってんだから、それでええねん!
てことで、狩りはもうおしまいだ。
拠点に戻った我々は、さっそく充電を試すことにした。
「無線充電っつうと……こんな感じかな?」
左手で魔石を持ち、そっとスマホの背中を近づけると『フォン』と、音が鳴って、一瞬でバッテリー残量が二十パーセント増えた。
あれれ……ログボ石さん? もらう前にオワコンになりましたよ?
『二十パーセントですか、まあ雑魚の魔石なのでそんなもんですね(小馬鹿にした顔の絵文字)』
女神様からなめくさった御神託が届いたが、お前が明日くれる魔石はそれ以下だからな?
十五体狩ったから、満充電三回分か。思った以上に稼げたな。
ただ、クラフト中のアレでバカスカ消耗する未来がめちゃくちゃ見えるからな。狩れる時はなるべく狩っておいたほうがいいよな。
「あ、ちなみになんですけど、今日のペースで狩って大丈夫なんです? 資源保護的なお話で」
ポコン!
『魔獣を含めて、魔物という存在は毎日減った分だけリポップするので大丈夫ですよ』
毎日減った分だけリポップ……それはありがたいが、なんかアレだな……。
いちいち突っ込んでたら疲れっから、今日はゆるしてやるけどよ。
うーん、そうだな。狩りができない日のことも考えて、日に十体をノルマにするか?
当分はそれでやってみて、もっと効率がいい魔石を調達できるようになったら、そんときまた考えると。
今回の狩りで残念だったのが、三つ目ドッグが食肉に向かないってとこだなあ。
流石のクロベエくんすら、野生化が解けた後に『まっず、これすっげまっず!』って、すげー嫌そうにしてたもの。
あれで食える感じだったら、魔石のついでにお肉もとれて一石二鳥だったのだが。
ポコン!
『ウルッグは浅場にいっぱいいるからねー。もう少し奥に行けば、美味しい魔物が居るわよ』
どうやら三つ目ドッグはウルッグという名前らしい……っていうか、美味い魔物はもっと奥にいるのか。
……狩っちゃうか? 心が狩りに慣れてるうちにやっちゃうか?
これまで生きてきて、狩りで食料を得るなんて想像すらしなかったが、今の俺にはそれすらも容易いこと……!
ようし、クロベエ! 午後からは肉狩りだぞお!




