第4話
ターミナル前の十字路。
衛はスクランブル交差点の前で信号が青になるのを待っていた。
すると突然スマホから着信音がけたたましく鳴り響いた。
信号待ちしている大勢の人たち全員が、無機質な表情でじっと衛を見詰めている。
衛は慌ててポケットからスマホを取り出してみる。すると、そこには登録もしていないアドレス帳の名前の表示。マサミからの着信がスマホの液晶画面に表示されていたのである。
その電話番号の表示は不規則に変化し続けている。表示されている電話番号は判別不能である。
衛は電話帳にマサミなんて登録した覚えもない。何故マサミから電話がかかってきているのかも分からない。
大勢の人たちの無機質で冷たい視線は、いまだに衛に注がれている。
信号機が一斉に赤から青へと変わった。
交差点を行き交う人の波の全ての視線が、衛に集中している。早く電話に出ろという無言の圧力を突きつけてきた。
「この電話には出たくない!」
そう大声で叫んだ。だが、その言葉が音として発せられてなかった。
「嗚呼!」
できる限りの力を込めて大声で叫んだが、やはり言葉が発せられてなかった。
異質な存在のような違和感。依然として周囲の人たちは無機質な表情でじっと衛を凝視する。
自分が変なのか周りが変なのか、そんな疑問を抱く余裕すらない。無様にあたふたするばかりである。
スマホの着信音だけは鮮明に聞こえる。しかし、街の雑多な音が一切聞こえてこない。
その時――
「おい……俺は死んだのか?」
やっと聞こえてきた声は男の声。そして、その声には確かに聞き覚えがある声。衛は声の方へ咄嗟に視線を向けた。
男は衛の目の前に立っていた。その男の右手には死んだ烏の足を握り、逆さ吊り状態で掴んでいた。
烏の片方の足は引きちぎられおり、胴体から欠損している。
生々しい傷口。
そこから濡れた黒っぽい肉と、葡萄酒のような赤い血が見えている。
衛は烏から目を逸らし、男の顔を見てから身動きできなくなった。
「な、何で!? ……何でここにいるんだよ!」
そう叫んだが、全く声が出てなかった。
目の前にいる男は、七年前に死んでいるはずなのだ。
実家で――
孤独死。
警察官によって遺体袋に詰められて、運び出されるところも見た。
それなのに、その男は目の前に立っている。死んだ烏を衛に見せつけるように掴んで立っている。
「おい……俺は死んだのか?」
その男は、再び衛に問いかけている。
「もう、何処かへ消えてくれ! 父さん! 俺には関係ない! 関係ないんだ!」
衛は心の底から懇願するように叫んだが、やはり言葉は一言も発せられてなかった。
男は顔の一部であった顎を頬の皮でかろうじてぶら下げている。両方の眼孔から引きずり出されている。眼球をけん玉のようにぶら下げて、顔は血塗れであった。
「おい……俺は死んだのか?」
今にも朽ち落ちそうな顎を揺らしている。
耐え難い光景。この世の者とは到底思えない。悪夢とはまさにこのことである。
全身から血の気が失せる。衛は膝から地面に崩れ落ちた。
衛の手に握られているスマホは、マサミからの着信音は絶え間なく鳴り響いている。
―(つづく)―




