第2話
鮮血のように赤い輝きが、夜の静寂の世界を一瞬にして破壊した。
今はその赤い輝きに導かれる亡者の如く、野次馬たちが衛の住むアパートの周りを取り囲むように群がっている。
散光式警光灯とサイレンの音。
多くの警察官が現場へと集まっていた。
警察官の一人が険しい表情で近づいてくる。
あの遺体を確認した後に違わないことは、表情から用意に察することができた。
警察官の青ざめた表情は、遺体の無惨さを物語っている。
そして、通報者である大学生の岡田衛の事情聴取は直ぐに終わった。
その後は、自室へ戻るように促され自分の部屋の窓から外の騒々しい状況をぼんやりと眺めていた。
今回の事件現場の隣の部屋の住人というだけである衛は、遺体となった男とは面識もなく顔すら知らないのだ。
遺体の顔を見てしまったが、あれが顔であったかどうかいまだに自分の中で理解できずにいる。
腹話術の人形の口が限界を越えて開いている。その顔から顎が外れて頬が両側に大きく裂けていた。それはまるで昭和の都市伝説の“口裂け女”のようであった。
頬の皮でかろうじて顎が顔の輪郭にぶら下がっていた。
ゆらゆら。
ゆらゆら。
ゆらゆら。
振り子のように――
顎が揺れていた。
まるで別の生き物がその場で醜悪に蠢いているようであった。
思い出すだけでもゾッとするほど背筋が凍る思いがする。
衛の部屋のドアを叩いていたあの女性も、今夜が初対面であった。
別の警察官があの女性に事情聴取していたのが聞こえてきたのだ。
どうやら、隣の部屋の男の姉であるようだった。
男はずっとこのアパートで引き篭もりの生活をしていたようだった。
月に一回、姉かまたはアパートの大家である母親が訪れていた。彼に一カ月分の食品や生活用品の補充をするためだけに。
「……あ、あれはどう見ても……自殺じゃないよな……」
衛はあんな死に方を考えられない。どう考えても自殺でするには無理があること考察した。
「自分の両目玉を抉り出して、顎が顔から引き千切ることが自分自身の力と意志ではたしてできるのだろうか?」
あの惨劇の跡を目の当たりにして、冷静にいられる自分に衛は驚いた。
心ここにあらずみたいにまだ現実味がない。実感する感覚はぼんやりしているままだ。だが、アドレナリンのせいか思考回路はいつも以上にはっきりしていた。
「……ま、まさか!?」
一瞬、あの名前を口に出してしまいそうになった。
慌ててその言葉を呑み込んだ。
「SNSの都市伝説は本当なのか!? 隣の男はあの名前を鏡の前で五回唱えたのか!?」
誰もが簡単に手に入るSNSの情報が、全国で虐殺を行っているということに混乱した。
考えがとっ散らかったまま、思考がまとまらないことに苛立ちさえした。
「そ、そんなことって……」
数時間後。
散光式警光灯の赤い輝きは現場から去る。
それを合図かとでもいうように――
集まった人たちも一斉にその場から姿を消した。
そして、いつもと変わらない静寂が再び辺り侵食するよう支配したのだった。
―(つづく)―




