第27話 欠落した時間の中で
今日は時間が経つのがとても早い一日だった。
朝7時前に目が覚めた。寒くて布団から出られなかった。
出なければならない理由もなかったから、毛布に包まれたまましばらくいた。
それから——起きてはいたと思うのだが、
11時過ぎまでの記憶がすっぽり抜け落ちている。
何を考え、どんな姿勢でいたのか、まるで映像の欠けた映画のように思い出せない。
ただ、「起きていた痕跡」だけは残っている。
自分が行動していたであろう“影”だけがあって、その中身がない。
11時頃にベッドから出たのか、それ以前に出ていたのかもわからない。
ただ12時前にはパソコンの前にいて、断片的な記憶がある。
昨日走り書きしたメモを見ながら、今後の研究計画を練っていたようだ。
昨日思いついたアイデアを、現実的な研究にまで削って検討していた痕跡が残っている。
今日は個別演習の日だった。
「12:30に慌てて参加した」という事実だけが残っている。
終わったのが15:00だったことも、パソコンの記録に書かれていることで知った。
そのあと部屋の片付けをしたらしい。
16時前には晩ご飯を作っていたようだ。
しかし食欲がなかったため「あとで食べる」と親に連絡している。
それからまた記憶が抜けている。
17時過ぎに薬の仕分けをして親に服薬報告をしたメッセージが残っているだけだ。
18時頃に食べ始め、19時か20時頃に食べ終えたはずだ。
だが、どこからどこまでが“自分の記憶”なのかが曖昧だ。
備忘録を書き始めたのは20:30頃だろう。
今は20:50。
今日という日のほとんどが思い出せない。
断片だけがあって、つながらない。
そこに恐怖を覚える。
感情も薄い。
何を感じていたのかわからない。
昨日のこともぼんやりしている。
その前のことなどさらに霧の中だ。
今、アロマキャンドルに火を灯している。
これは昨日届いたものだということだけは、確かに覚えている。
だが、昨日の夜の記憶はほとんど残っていない。
まるで “自分がその時間に存在していなかった” ような感覚だ。
備忘録を読み返し、「確かに書かれている」という“事実”と、
“思い出せない自分”との距離に、強い恐怖を覚える。
どうでもよかっただけなのか、
それとも認知のどこかが抜け落ちているのか。
頭の中に靄がかかっているようで、虫食いになったような状態。
俺と僕の境界がない。
ある意味では統合できたのかもしれないが、
記憶がないせいで感情の有無すらわからない。
何を考えていたのかがわからない。
それがとても怖い。
不安と言えば不安だが、苦しいわけでもない。
ただ、何もわからない。
“わからない”という状態のなかに、自分がぽつんと取り残されている。
孤独感というより、
「自分という構造の空白さ」
そのものに触れてしまったような、得体の知れない恐怖がある。
何もわからない。
それだけが、今日の確かな実感だった。




