表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/33

第26話 長い夜止まらない朝

今日もまた眠れなかった。

薬を飲んでいるのに、検査をして身体は疲れているはずなのに、眠りは一向に訪れなかった。

座ってみたり、ホットミルクを飲んだり、ハンモックに揺られてみたり、できる限りのことは試した。

それでも眠れない。


時間が進まない。

夜がこんなにも長く、重く、不安に満ちているものだとは思わなかった。

鳥の鳴き声がした時、はじめて朝が来たと知った。

それでも眠気は来ない。


今日は10時から17時までバイトだ。

少しでいい、眠らせてほしい。

眠いわけではない。

ただ、意識を休ませたい。


横になって目を閉じていれば眠気が来るのではないかと信じていたが、

むしろ「バイトに寝坊できない」という焦りが強くなり、かえって眠れなくなった。


なんとか時間を潰し、9時過ぎに家を出た。

いつもなら車で出勤するのだが、今日は乗る気になれなかった。

危険だという判断が先に立った。

10時少し前にバイト先へ着き、一息つく。

今日は体調も悪く、機嫌も良くない。

理由のない苛立ちが体の内側に住み着いていた。


今日の仕事は60ページほどの校閲、正誤確認。

高度な集中力が必要で、職員からは「今日いっぱいかかるかもね」と言われた。


仕事をしている時だけは、心が落ち着く。

エネルギーはないが、手だけは動く。

午前中ではさすがに終わらなかったが、昼休憩を挟んで13時半には全て完了していた。

念のため二重三重のチェックも行った。

報告すると驚かれ、「もう仕事がないから早く上がっていい」と言われた。


帰り道、歩くスピードがいつもより遅い。

体は疲れているはずなのに、頭だけが冴えている。

これは良い冴え方ではない。

よく知っている——躁の気配だ。


家に着くなり、発想が止まらなくなった。

典型的な躁状態だ。

研究のアイデアが次々と生まれ、脳が追いつかない。

とにかく書き残した。

大学院試験の出願期間に入っていることを思い出し、

研究計画書もこのアイデアで作り直そうと作業を始めた。


気づけば16時過ぎ、2時間ほど没頭していた。

脳が疲れ切ったのか、突然何の思考もできなくなった。

シャワーを浴び、ご飯の準備をした。

早すぎる夕食だったが、食べ終えると虚無が訪れた。

寝ていないせいで、まともな思考はできていない。


寒気が強くなった。

不眠のせいか、異様に寒い。

ぼーっとしていたところへ荷物が届いた。

アロマキャンドルだ。

これも浪費であり、躁の典型なのだろう。


すぐに開封し、火をつけた。

揺れる火と柔らかい香りを眺めていると、少し落ち着く気がした。


だが、思考はまた妄想へ向かう。

明日の勉強会にあの人は参加するだろうか。

終わったあと連絡をくれるだろうか。

会えるのだろうか。

もし会えるなら、来週の授業も出よう。

何もないのなら、このまま会うこともなく、今年を終えよう。


そんな願望とも妄想ともつかない思考を続けていると、1時間以上が過ぎていた。


夜の薬を飲む。

今日はさすがに眠りたい。


今日という括りなのか、昨日の延長なのかはもうわからない。

ただ、総じて“僕の日”だったと思う。

仕事をしていたのは俺だが——

この長い長い一日は、確かに、僕の夜に染まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ