最初の拠点
朝。
柔らかな陽射しが草原を照らしていた。
ミリアは丘の上に座りながら、遠くを眺めていた。
風が吹く。
桜色の長い髪が揺れる。
猫耳も小さく動いた。
その隣ではアリシアが地面に腰を下ろしている。
二人の前には、城の予定地。
そして大量の石材。
神皇国の未来のために集めた建材だった。
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「なあ。」
アリシアが口を開く。
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「ん?」
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「今さらやけど。」
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「なんや?」
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「今日どこで寝るん?」
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ミリアは固まった。
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数秒。
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十秒。
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そして。
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「考えてへんかった。」
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アリシアは盛大にため息を吐いた。
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「建国する前に考えといて。」
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「大丈夫や。」
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「何が?」
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「何とかなる。」
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「それ昨日も聞いた。」
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実際。
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問題だった。
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今までは木の下で寝ていた。
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しかし最近は雲が増えている。
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雨が降るかもしれない。
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荷物もある。
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食料もある。
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このままでは良くない。
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ミリアもさすがに理解していた。
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「ほな。」
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立ち上がる。
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「作るか。」
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「何を?」
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「家。」
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アリシアは頷いた。
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ようやく話が現実的になった。
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二人は建設予定地を見渡す。
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城はまだ早い。
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城壁もまだ早い。
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まず必要なのは拠点だ。
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雨風を防げる場所。
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荷物を置ける場所。
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安心して眠れる場所。
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それだけでいい。
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ミリアは設計図を描き始める。
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枝を使って地面へ線を引く。
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縦。
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横。
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入口。
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窓。
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屋根。
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数分後。
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簡単な建物の図面が完成した。
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「小さいな。」
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アリシアが言う。
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「二人やし。」
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「確かに。」
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豪華さはいらない。
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今は生きるための拠点だ。
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ミリアは森へ視線を向ける。
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「木取ってくる。」
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「魔法?」
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「魔法。」
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「便利やな。」
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「便利やで。」
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しばらくして。
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大量の木材が空中を飛んでいた。
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森から建設予定地へ。
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次々と運ばれてくる。
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アリシアはもう驚かない。
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慣れた。
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完全に慣れた。
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「ほんま便利やな。」
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「せやろ。」
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少し得意そうだった。
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木材が並ぶ。
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柱になる。
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梁になる。
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壁材になる。
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屋根材になる。
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ミリアは魔法で加工していく。
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ただし。
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建物そのものを一瞬で作ることはしない。
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一つずつ。
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順番に。
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丁寧に。
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組み立てていく。
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アリシアはその様子を見ていた。
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「一気に作らへんの?」
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ミリアは首を傾げる。
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「作れるけど。」
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「作れるんや。」
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「でも。」
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ミリアは建設中の小屋を見る。
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「こっちの方が楽しいやん。」
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アリシアは少し笑った。
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なるほど。
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それがミリアらしい。
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昼頃。
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骨組みが完成する。
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午後には壁。
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夕方には屋根。
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少しずつ形になっていく。
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そして。
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最後の板が固定された。
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ミリアは一歩下がる。
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完成した建物を見る。
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小さい。
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本当に小さい。
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だが。
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立派な建物だった。
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「完成や。」
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ミリアが言う。
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アリシアも頷く。
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「完成やな。」
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中へ入る。
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木の香り。
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柔らかな日陰。
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風も防げる。
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雨も防げる。
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床はまだ簡素だ。
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家具もない。
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だが十分だった。
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夕方。
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空から雨粒が落ち始める。
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ぽつり。
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ぽつり。
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やがて本降りになった。
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しかし。
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二人は慌てない。
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小屋がある。
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雨は入ってこない。
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風も防げる。
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ミリアは壁にもたれながら微笑んだ。
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「間に合ったな。」
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「せやな。」
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アリシアも笑う。
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何もなかった草原。
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そこに初めて建った建物。
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神皇国最初の拠点。
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未来の女皇と、その友人が作った最初の家。
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後に巨大な神皇国が築かれることになるが、
その始まりは――
雨風をしのげるだけの、小さな木造の建物だった。




