判断されたもの
◆ 帝国アルス/大神殿・上層
(帝国教会視点)
王国アステルからの報告は、静かすぎるほどやった。
境界の揺らぎ。
実害なし。
精霊反応は弱く、残留痕跡もほぼ無し。
「……記録上は、問題なし、か」
帝国教会の高位司祭は、資料を閉じた。
王国教会の判断は、いつも通り慎重で、消極的や。
「同一人物が関与している点は?」
「猫耳族の冒険者。名はミリア」
経歴に空白がある。
だが、権能反応は観測されていない。
「神力反応も無し。精霊契約の兆候も不明」
「ならば――」
結論は、静かに下された。
「境界に“触れただけ”の存在だ」
帝国教会は、この件を
低危険度・経過観測
として処理した。
それ以上でも、それ以下でもない。
⸻
◆ 魔界/反逆神の領域
(反逆神視点)
境界が、揺れた。
だが――
残らなかった。
「……抑えた、か」
反逆神は、その一点だけを見た。
本来、境界に触れれば歪みは残る。
だが今回は、痕跡すら薄い。
「力はある。だが、使わなかった」
それは、躊躇。
あるいは、恐れ。
そう判断するのは、自然やった。
「なるほど……」
反逆神は、笑う。
「未熟な器、か」
神が動いた形跡はない。
精霊界も沈黙している。
ならば、脅威ではない。
少なくとも、今は。
⸻
◆ 魔界深層
(反逆神)
「世界は、何も変わっていない」
秩序は保たれている。
神々は動かず、精霊も沈黙。
それが答えや。
「……弱さ、だな」
反逆神は、そう結論づけた。
力を持ちながら、踏み込まない存在。
世界に従う存在。
利用もできるし、
放置もできる。
今は、まだ。
⸻
◆ 帝国アルス/非公開記録
対象名:ミリア
分類:観測対象
評価:不確定
備考:王国アステル領内でのみ活動確認
それだけが、淡々と記された。
⸻
◆ 人界/王国アステル
(同時刻・ミリア)
「……なんやろな」
理由は分からへん。
せやけど、背中に視線を感じた。
「ま、気のせいやろ」
ミリアは、それ以上考えへん。
この日は、何も起きなかった。
世界は、静かなままやった。
ただ――
誰かが、判断を下した。
それだけの日。




