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記憶の欠片
――夢を見た。
白でも黒でもない、曖昧な空間。
そこに、確かに“欠けたもの”があった。
半分だけ、戻ってきた感覚。
名前でも、姿でもない。
ただ――「確かにあった」という確信だけが、胸の奥に残っている。
(……もう半分は?)
問いかけても、答えは返らない。
けれど、不思議と焦りはなかった。
まるで、
取りに行く必要がない場所にあると知っているみたいに。
遠くで、何かが“静かに眠っている”気配がする。
時間の流れから切り離された、
誰にも触れられない場所。
扉は閉じているのに、
鍵は――こちらにある。
「……今じゃない、か」
そう呟いた瞬間、夢は途切れた。
目を開けると、いつもの天井。
宿屋の部屋。朝の光。
胸に手を当てる。
欠けている。
でも、失われてはいない。
もう半分は、
“思い出すもの”じゃなく、“重なるもの”。
――そんな気がした。
私はベッドから起き上がり、
今日の予定を考え始める。
記憶の行方より、
目の前の一日を、大切にするために。




