制裁探偵事務所―終― 『惨劇』
「ふむ・・・いい覚悟だ」
彼女は言う。傍観者のように―― だが、その腕には『草薙』が携えてあった。
「行くぞ」
貫かれ―― そして光り輝く。
英雄は、文字通りヒーローになった気分を味わった。いや、何度か経験しているはずなのだが、今回は特別だった。
「この闘いに、終止符を打つ―― その役目は、俺が果たす」
その使命感は、どこか自惚れていて。
だから、付け入られた。
「あ、一応言っておくけど、『歪曲舞踏』はまだ残ってるからね」
そう、失敗したのだ。王子砂城の『巻き戻す』想像は途中で途絶え、本当の理想の地点であったはずの、『紅音がスタイルを持たない世界』にすることができなかった。
そして、蒼の体を歪んだ世界に置き去りにしたまま、戻ってきた。
「さて――」
その時点で死亡をしていた数名が、生き返ることはなかった。
「そ、そんな―― 凪沙・・・」
紅と幸の意気が沈む。無理もない。希望を捨てられたのだ。
だが、最悪はまだ始まったばかりである。彼女のスタイルの対象は無制限、つまり、だ。
「次の標的はお前だ。英雄」
短く吐き捨てて、自惚れを持ってしまった彼に向かって行く。
『草薙』が発動しているわずかな時間。その本当にわずかな時の狭間の中で、彼女は彼の体を乗っ取った。
―― スタイルは、先へ進まなかった。
「英雄―― 命!!!」
「命、さん・・・?」
「そして、私は『死なない』」
英雄の声でそう言うのだ。そして、崩れていく英雄の体から『矢』を引き抜いて、自らの体へと投げた。
「これで―― もう『やり直し』は出来ない!!」
「―― そう簡単にいってたまるか、ボケ」
その『矢』を蹴り飛ばしたのは、狂兵器。構えたすぐ隣に、細菌が着く。
「蒼さんの体は、どこかへと消えた。つまり、英雄の体も、お前に乗っ取られた時点で、精神はそこには無くなってしまったんだろう?」
「・・・・・・ああ、まぁ、その通りだよ」
やっと自らの体に戻った紅音。だるそうに首を鳴らしている。
「面倒くさい二人が残ったなぁ・・・。本当に、本当に少ない可能性の話だけど、私のスタイルが跳ね返されそうな空気・・・。ここは、使わない方が良さそうだ」
「知らねぇよ。いいからかかってこいよ」
挑発する狂兵器。相当怒っている。
「怖い顔するなよ・・・今の私には、何もすることはできないって」
「そうかよ――」
先に動いたのは狂兵器ではなく、細菌だった。王子砂城が残した『新月』。『全ての生物の能力を手にする』というスタイルは、正直なところ、敵なしだった。
「だから、的にはならない。私は、何としてでも生き残るから!!」
そう言って、彼女は幸の体へと侵入した。してしまった。
英雄は体が崩れ、頼みの綱はいつ切れるかどうかわからないという状況の中―― またも、仲間の体を盗られた。
「さぁ、どうする? 殺すか? 私を殺すと、この体の主を殺すことになるよ・・・。あ、でも精神は、既に私が殺したから。別に悲鳴の一つでも上げやしないって」
そう言ってへらへら笑う紅音。
―― だが、誰も予想出来なかった自体が起こる。
パァン―― と。
迷いの時間など無く、彼女は―― 紅は、仲間に向かって引き金を引いた。しかし、彼女は人間である。顔は、様々な感情に振り回され、ぐちゃぐちゃになっていた。
「べ、紅―― さん?」
「仕方ねぇだろ!」
泣き叫んだ。右鎖骨の下辺りを打ち抜いたので、肩のあたりが抉れている『それ』を見もしないで。
だから、彼女の行動は、賢明とはいえ、正解とは言えなかった。
「本当に甘いよね。甘甘だよ。『自分なら大丈夫』だなんて思っているのかな? 甘いね」
そう言って、発動させた。
―― 『銃器式紅一点』。
戦ヶ丘紅の、スタイル。実際、相当な射撃精度を誇る。
「さて、どうする? 少年」
残るは、二人。だが、狂兵器は既に、策を練っていた。
―― 奇跡を起こせる策。
確率なんて物はない。全ては、運命に任せる。
この状況を打開するのには、この方法しかないのだ。
「・・・日露璃。この状況を、お前、突破してハッピーエンドに出来るか?」
「・・・・・・いや、すまねぇが、皆目検討もつかねぇな」
「だろうな。だから、今回は、いや、そうだな。今は、精一杯お願いしよう」
そう言って、一歩下がる。
「俺に『奇跡』を起こさせてくれ」
その願いは、彼にすぐ届いた。
オーケー、と軽く承諾した細菌は、新月の下で、自らの上司を殺した。頭部を殴り、内側から。だが、紅音も負けてはいなかった。『銃器式紅一点』は、こんな状況の中でも、位置を正確に捉え、発砲することができる。
だから、相討ち。
お互いの頭部が、崩れていく。
しばらくして。
混乱しているのか、中々自分の体に戻らない紅音だったが、目の前の敵が急にムカついてきたので、体に戻ることにした。
「さて、黒崎紅音。この一対の状態で、お前はどう語る?」
「語ることなんてない。あんたら、何がしたいんだ?」
「それは、お前の歩むべき道を記しているだけだよ。命懸けでな」
「・・・馬鹿じゃあないのか?」
彼女は心底訳がわからなくなった。だが、同時に警戒した。
何か、一発逆転の策でもあるんじゃあないか。と。
スタイルというのは、言うなれば『何でもアリ』な物だから、『有り得ない』ことは無い。しかもそれは、―― 目の前の化物。1000000のスタイルを持つ彼の前では、とても調度がいい言葉なのだった。
もっとも、今の彼に、その様な数のスタイルは存在しないが。
「さて、じゃあ、私が動こう。『新世界』へと進むには、このスタイルでは頼り無さ過ぎる。だから、『進ませる』。もう一度ッ!!」
「やれよ。そうでもしねぇと、盛り上がらねぇからな」
「そんな余裕も今のうちだ! こんな面倒な世界、今に滅ぼしてやる!!」
そして彼女は―― 『全てを知っている』三日月かぐやの元へと憑依した。
そう、全てを知っているのだ。だから、避けなかった。
「信じているぞ。闘々龍萌九頭」
「ああ。任せておけ」
「・・・?」
短い会話に、紅音は一瞬不信に思ったが、それも刹那である―― すぐに草薙を発動し、自分の体へと打ち込んだ。そして打ち込むと同時に自分の体に戻り、かぐやはがくんと倒れた。
「・・・今度は、もっと確実に、もっと幸せな『新世界』へと――」
「・・・・・・やっと準備が整った」
ふぅ。と一息する。
そして、彼女に聞こえない声で、言った。
「―― 『終了宣告』だ」




