制裁探偵事務所―終― 『砂上の楼閣』
「・・・・・・」
平穏が空へと続く世界。そんな理想郷の中、『それ』は一人、佇んでいた。
この件に関わった人間以外の生物は、全員そのままで―― その闘いでの戦士達は、この世から消え失せた。
―― 上書き。
『新世界への準備が整ったとき』『世界を理想で上書きする』
『終劇』――
「さて・・・」
新世界が、いかに平和で、いかに無色であるか。
堪能しようじゃないか――。と思った。
だけど、黒崎紅音と言う存在が生きる過程には、『完全な成功』という概念は存在しない。戦ヶ丘紅ではなく、黒崎紅音。『それ』は、今でも、黒崎紅音のレールを歩いていた。
そう。まだ――
まだ終わってはいない。
「まだ、報酬も貰ってないんだからさ。このまま帰れるわけないよね」
「・・・・・・」
目の前に立ちはだかる女性―― 王子砂城。
「『砂上の楼閣』」
『それ』は取り乱すことなく、その体の主が扱うスタイル『静蒼無双』を発動させた。
「そんな虚仮威しは要らない・・・・・・。頼むから、もう私の邪魔をしないでくれ」
決定づけるように強く言う。そして、彼女を追放しようとした瞬間に、それは起こった。
「虚仮威し・・・かぁ。正直、ちょっと傷ついちゃうなぁ」
と、笑った。
王子砂城は、『追放を免れた』のだ。
「・・・・・・何をした?」
「私は、頼まれたのよ。あの狼さんからね」
「狼? あぁ、後から来た奴のことか」
「・・・・・・『砂上の楼閣』は、『頼まれたら』発動する。『想像した事象を実現させる』スタイルなのよ。私の言っていることが、あなたには分かるかしら?」
「・・・・・・」
「あら、分からないの? あなたの頭脳には、この先のハッピーエンドに期待していたのだけど・・・しょうがないわね。私が正解を教えてあげる」
あくまでも部外者で。凶器として。
クライアントは向こう側で待っている。そこへ、連れて行く。
一瞬の内で推理した『彼』が、彼女に依頼した。
『世界を巻き戻せ』
「はっ・・・!! お前―― まさかッ!!」
「気づくのが遅いわ。それじゃあ合格には出来ないわね?」
「ちぃッ!!」
―― 情景が巻き戻っていく。彼女の力によって・・・。
「もちろん、あなたのスタイルも無くなるわ。これで、私の仕事は終わりよ」
「・・・・・・ぅうう―― ぅああああぁぁぁぁああああああッッ!!!!」
悲しき断末魔が空を切る。
だが、歪む世界の中で、『それ』は吹っ切れたのだ。
「・・・えっ?」
鮮血が飛沫を上げる―― 貫かれた体は、ぐったりと倒れる。
「なら―― 私は、可能性を信じる。幸福への道を邪魔する人間は、皆殺すんだ」
「・・・あはッ・・・・・・」
余力を振り絞って、貫いた先の『それ』の首に腕を巻く。
乾いたままの声で、彼女は言う。
「そうね・・・あなただって、被害者だもの―― 先入観で決め付けるのは良くないわよね」
「・・・・・・」
「ふふっ・・・こうしてみれば、あなたも一人の人間なのね。あの時の『あの子』より幾分かマシだわ。でもね――」
優しい光が宿る目を開き、『それ』をじっと見つめる。
「『幸福を求めた故の犠牲はいつまでも貴方の道を阻害するわ』」
「・・・・・・」
「それじゃあ、『 』をよろしくって、彼らに言っておいてもらえるかしら?」
そして力尽きた。『それ』は、涙を流してなどはいないものの、どこか迷いが生まれた顔をしていた。
『幸福を求めたゆえの犠牲はいつまでも貴方の道を阻害するわ』
その言葉が、胸に深く突き刺さる。
ならば、今私がやっていることは何なのだろう。と、一瞬思った。
それでも、彼女は信じ続けた。
自らの幸福を。
■ ■
「本当に無くなってる。あ、いや、戻っているのか。『終劇』は、もう使えないのか」
冷静に分析する『それ』は、静かに彼らを見据えていた。
「あのお姉さんからの伝言で、『 』をよろしくだって」
「王子砂城・・・!?」
「あの人のせいで、また一歩後退しちゃった。でも、まだ私はやり直せる」
「二度と・・・だ」
英雄が口を開く。
「二度とやらせない。お前は、この世界に生まれてきちゃ駄目だったんだ」
「・・・・・・」
「間違えたんだよ、お前は。居るべき場所なんて、最初から無かった」
「はぁ?」
『それ』は、本気で訳がわからなかった。
「生まれてきちゃ駄目って、ははっ、そいつは一体どういうことなんだよ? 何だよそれ」
錯乱する―― 戦慄する。
「私は好きでこの世界に生まれたわけじゃないのに」
その言葉が全てだった。
「そう。悪いのは全て、お前が殺した奴らだ」
「・・・ああ」
「だけど、お前が殺して、お前が取り残されてしまった」
「そうだ」
「だったら、ケリをつけてやる」
「・・・・・・?」
「俺が『最後』になってやるって言っているんだ!! 戦ってやる! お前の世界をぶち壊してやるよ!!! だから、新世界がどーとかは、その後に考えろ!!!」
「・・・・・・」
一歩前へ出て、挑発の姿勢をとる。
「来い。全力で止めてやる」




