制裁探偵事務所―終― 『歪曲舞踏』
「夢を追い続けることを幸福と言うなら―― 今私がやっていることは一体何なんだ!!?」
ある日、彼女は自分に問いかけた。
「自由になって、あいつらに復讐することが私の夢なんだ!」
そう―― いつまでも脳裏に浮かぶあの人間達を――
「殺す!!」
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す―――!!!!
それしか、胸に抱いていなかったんだ。
「自由って?」
自由の反対語である『不自由』の基準って?
『不自由無い生活』って、何なの?
その考えこそ、夢だった。
だけど、世界中どこを探したって―― ここまで地に落ちた夢はないだろう。
ちっぽけなんだ。発端から、何もかもが。
■ ■
あの時、事務所を爆撃したのは私だ。
そして、墓に埋められた・・・埋葬されたペタカトル=ホワイトアウトの心臓を喰らった。
土の味がして、苦かった。
シャルル卿の屋敷が炎上した後に、全身火傷を負った彼は、私を覚えていなかった。だから、私はキレてしまって、皮を剥いで海に沈めた。
しばらく待ってから、彼を引き上げると、悲痛の表情を浮かべながら死んでいた。
小気味が良かったので、そのまま心臓をソテーにした食べた。
『あの世代』の実行犯である神無月億輔は、あの学校の音楽室に居た。
私が初めて見た死体は、彼だった。
彼は私に見向きもしないで、ピアノにもたれかかっていた。
心臓が無かったので、肋骨を噛み砕いた。
そして今。
バラバラの肉片となった『天国』と屍薔薇ソプラの心臓を喰らい、上田政宗の胸部を貫き、姫劉院希望の舌から血を啜り、斎藤樹の心を喰らった。
条件は揃ったのだ。
「どうせなら、貴方達の様に名付けてしまおうかな。例えば、『歪曲舞踏』みたいな感じかな・・・? どう? 格好いいんじゃないかな?」
「・・・私って、あんなキャラだったか?」
「いいや? 君はもっと真っ直ぐで、取っ付きにくくて、寂しがり屋の可愛い子だった」
「ふん、その言葉の礼は帰ってからさせて貰うからな」
「望むところだ」
『あの世代』から生まれた歪み。
彼女のスタイルは、世界を歪ませる物だった。
「『歪曲舞踏』は、誰にも止められない」
自らの肉体を捨てる―― 標的を蒼に定める――。
『さぁ、悲劇の始まりだ』と、霊体の彼女は微笑んだ。
■ ■
初めは、明日来日凪沙だった。
ゆらりと体を揺らした蒼は、そのまま白黒暴徒に倒れ掛かるようにして、腹部を、手にしていた静蒼無双で貫いた。
「え・・・?」
「・・・・・・」
「ぶ、ぶる・・・蒼―― さん?」
何しろ、いきなり目の前の敵が倒れたのだ。混乱しないはずがない。
彼女は憑依したのだ。
「なかなか鍛えてるんだね。いい体してる」
「あ・・・紅音・・・・・・てめぇ――」
紅にとって、目の前で仲間を殺されるのは二度目。
いや、千里を合わせて三度目か?
そう、紅音は呟いた。
番が外れた。暴走するように。
しかし、それより早く動いたのは、英雄の拳だった。
ただ、『最終地点』で強化された拳で殴っただけ。
加減をした。
『天国』も使わなかったし、『熱願冷諦』も使わなかった。
否、使えなかった。
彼の顔面を殴るのに、そんな大きな一撃は与えられなかった。
「・・・ふふふ、ふはぁッ! はぁあああぁぁぁああッ!!!」
殴られ、吹っ飛ばされたその先で、地に足をついた紅音。
いや、最早『それ』を何と表現すればいいのかさえも分からない。
「手を抜いたな!? 斎藤命!! その甘さが命取りになるぞ!」
「いいや! もうお前の攻撃は、俺には届かねぇ!!」
確認していた。
『それ』の背後から迫る二つの影を―― だから、断言できた。
月が、新月と変わる。
そして、閃光を放つ眩い矢が、放たれた。
だが―― 『それ』は、甘くなかった。
その矢のスピードについて行けたのだ。つまり――。
ドス黒い覚悟を決めた『それ』のスタイルが先へ進む。
「―― し、しまったッ!!?」
「もう一発だ! ちゃんと英雄に当てるんだ!!」
「分かっている―― !!」
すぐ二発目が放たれ、英雄に着弾するが。
『それ』は先へ進んでしまった。
「砂城!! 『あれ』を!!」
「ええ―― って、え?」
「ここに、関係の無い人間が入ることは、許可しない」
新世界を築き上げるには、今の世界を消さなくちゃあならない。
それが、方法だ。
「『終劇』」
全てが、過去として消える。




