制裁探偵事務所―終― 『悲しみに生まれた一握の歪み』
狂兵器―― いや、闘々龍萌九頭は泣いていた。
女々しく、地面にねじ伏せられたまま、すすり泣いている。
「・・・・・・」
その目に光は無く、重力に従って、涙が落ちる。
空っぽになってしまった。心も、ましてや覚悟さえも。
体を動かす気力も、無くなってしまった。液体になるような脱力をしている。
「・・・!」
気づく。その人影に―― 見覚えのある香りと、そして声。
「・・・立つのだ、戦士よ。私が、お前の物語を救ってやる」
無意識のまま、寝返りをうつように振り返ると―― 彼女が居た。
「三日月・・・かぐや・・・・・・」
「よくぞ私の名を呼んだ。覚悟を決めろ―― 部外者の存在が敵方に知られれば、私を殺しに来るだろう。今死ぬわけにはいかない―― お前が行くんだ」
指を指された萌九頭は、力無く立ち上がる。
「・・・俺のスタイルでも進化させてくれるのかよ? なぁ」
「・・・・・・私が使う神業は、『一人につき一つ』が対象なんだ」
意味を含んだ沈黙の後に言った言葉。
一人につき一つ・・・?
「―― なるほどな」
「お前が持つ1000000の神業・・・いや、ここではスタイルと呼ぼう。その膨大な数のスタイルを犠牲にする覚悟はあるか?」
「・・・・・・」
「お前がここで、志半ばで倒れたと聞けば、お前の仲間はどう思うだろうな」
「・・・・・・」
彼の瞳が、疼き始めた。
「そりゃあさ」
「・・・・・・」
かぐやは、それを見て不敵に笑う。
「カッコ悪いと思うだろうなぁ・・・。力を求めながら死ぬっていうのは、響きは良いが、所詮失敗だ」
「・・・・・・」
「ふん」
足を開き、手を広げる。受け止める姿勢に入った。
「撃てよ。今、死ぬ気がしねぇんだ」
「良い覚悟だ」
1000000のスタイルが行き着く先のスタイル―― 言われてみりゃぁ、どんな物か気になってしょうがねぇ。
「・・・この悲劇を終わらせるためなら、どんな賭けにだって命を捧げよう」
「行くぞ」
眩い閃光―― ただ、暖かかった。
彼女の笑顔と、どこか似ていた。
■ ■
彼女は、聞いたことがあった。
造られた場所で―― 部屋の窓越しに、自分を育てている大人達の声を。
その場所が、『スタイルを作る場所』という事を知った。
彼女は利巧であり、スタイルが如何なるかをすぐに理解した。だから、彼女は彼らが嫌いだった。
―― いつか、殺してやろう。とさえ、思った。
ある日、気づいた。気づかなくてもいい事―― それは、設備が整っていることだった。
「自分でスタイルを作って、殺してやればいいんじゃないか?」
そう思った。
実行の日。彼女は、その部屋の大人達を眠らせ、自ら実験室内に入り込んだ。
殺意と希望を胸に、その小さな体で、とてつもないスタイルを作った。
『自分を霊体にして問答無用に憑依する』スタイル。
完璧だ。と思った。
誰にもバレることなく、同士打ちという形で殺すことができる。
何より、私自身が死ぬことがない。
―― その時から・・・いや、もっと前から、彼女は感情を持っていた。
ずっと押し殺しながら生きよう。という覚悟も持っていた。
ふと思ったのだ。彼女の類稀なる知識によって導き出された仮定。
彼らは、私を強くするんじゃないのか?
そう思うと、条件をどうしようか考え物だ。
ある程度、信用と実力を手にするまで、この性格を演じ続けよう。
そして、彼らの力が、何らかの形で弱った時期、それが決行の時だ。
どうせなら、主要の奴らを条件に入れてやろう。
ペタカトル=ホワイトアウト
シャルル卿
屍薔薇ソプラ
神無月億輔
上田政宗
天国
姫劉院希望
そして、斎藤樹。
この『8人の肉体を摂取すること』を条件とした。
そして、長く、長く待ったのだ。
彼女のみ、立っているステージが違った。
復讐。
私を造ったことへの復讐。
それだけを一心に、新世界など、真っ平で。
ただ、許せなくて許せなくて許せなくて許せなくて許せなくて。
「なんで、こんなことになったんだろ」
幼い少女のような口調は、あの時から何ら変わらず。
「ねぇ、『正解の私』。どうして?」
「紅音・・・」
体のほとんどが返り血を浴びている。
「なんで貴方は、そんなに幸せなの?」
それは彼女にとって、永遠に分かることのない問題だった。
「・・・生まれてくる所を、間違えたな」
「―― 私も、そう思ってた。だから――」
口を開け、両手を広げ、血をアピールした。
「―― こんなことをした」
「・・・・・・」
「でもね、何も起きなかったよ。変わらなかったよ。幽霊になりたかったのに、まるで私が、とりつかれているようで」
つう、と涙が頬を伝わる。
「この闘いは、早く終わらせる。そして、私は生き残る」
「―― っ」
「私は生き残って―― あなたよりも大きな幸せを手にしてみせる!!!!」
■ ■
富士市。
その診療所に、一人の男が到着した。
「あら、どうしたの? どこか怪我でもした?」
「おれは・・・制裁探偵事務所の者だ・・・・・・」
「・・・・・・」
女医らしき女性は、優しく微笑み――
「出張依頼ね。久しぶりだわ。どこへ向かえばいいのかしら」
「とりあえず、あんたの能力で、今日を新月にしてくれ」
「分かったわ」
何分ない会話。
彼女、王子砂城の能力は、『想像を植え付ける能力』。
ただ、『頼まれたとき』にしか発動しない――。
そして、依頼した彼、一昨年日露璃は、戦線復帰を約束したのである。




