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制裁探偵事務所―終― 『不幸の対義語』


「えぇと・・・浮雲証くん。ちょっと頼みたいことがあるんだけど」

 英雄(ヒーロー)が『天国(ヘヴン)』の元へ行った直後、(フォックス)が、監視長の胸に抱かれているその子供に話しかけた。

 浮雲証。

 スタイルを無効化するスタイル。

 「狂兵器(レクイエム)のスタイルで富士山まで行ってさ、『彼女』を呼んできて欲しいな」

 「・・・・・・」

 彼女。

 代名詞で語られた彼女だったが、この場合、証には『それ』が一体誰を指すのか―― その程度のことは分かっていた。

 「この闘いは・・・この『制裁』には、今の僕の能力じゃあ足を引っ張るだけ。だから、僕も強くなりたくってね」

 「・・・・・・」

 監視長と狂兵器(レクイエム)は何も言わない。

 証と(フォックス)のみの空間。


 ―― 空中から、戦闘用ヘリが追突してきたと同時に、彼は首を縦に振った。

 一瞬の爆発。判断が追いつかない―― そして証の目の前に居た健気な勇気は、ヘリのプロペラの破片に貫かれて絶命した。

 「・・・・・・?」

 証の目に、笑顔のまま、決意を固めた表情のまま、鮮血を胸から吹き上げている(フォックス)の姿が映った。

 頬に、自分を抱いている監視長の汗が滴り落ちた―― 抱きしめている力も一層強くなった。

 叫び声―― 横から押される衝撃―― 全てがスローに見えた。

 「――――――」

 「――――――――」

 声が聞こえない―― 鼓膜が破れたのだろうか。

 倒れていく彼を受け止める狂兵器(レクイエム)の姿を見た。

 「――――!!」

 「―――――!!」

 彼女の腕を払う―― あの小さな勇気の事は、彼の仲間に任せよう。

 僕は、僕のやるべきことを――。

 燃え盛る炎をくぐり抜ける―― 声も何も―― 聞こえない。


 ―― 静かになった。森林を抜けた。

 彼女に聞こえるか―― どっちでもいい。聞こえなければ、どんな手を使ってでも『そっち』に行ってやる。

 自分の頭の上。見上げると、押しつぶされそうになる月。


 「かぐやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 子供の声だった。

 迷子の後に母親を見つけた子供のようだった。

 『三日月かぐや』―― スタイルを進化させるスタイルを持つ。

 「呼んだか? 証」

 新たな希望の声は、彼を背後から聞こえた。




 ■       ■




 「やぁ・・・守人(ディア)

 「(ブルー)・・・」

 目の前に広がる惨劇。

 「・・・ご察しの通り、静蒼無双が突き刺さっている彼は、君のお兄さんだ」

 刀を引き抜き、ポケットから紙のような物を取り出し、刀身を撫でる。

 月明かりが、眩しく刃を照らす。

 「・・・構わないでください。それに、僕は勝手に来た身ですから」

 「え? 英雄(ヒーロー)に何も呼ばれてないのかい?」

 「え?」

 「え・・・?」

 噛み合っていない。そのおかしさに、無理矢理出したような笑いが出る。

 「ふふふっ・・・まぁ、敵を一人倒したんですから、そんな顔をしないでください」

 「・・・はぁ」

 (ブルー)は、倒れ込む目の前の敵を仰向けに寝かせ、瞼を閉じさせた。

 「それはこっちの台詞だよ守人(ディア)

 刀を鞘に収めながら、守人(ディア)を指差す。

 「その涙は一体なんなんだ」

 「・・・え?」

 涙。

 彼の頬には、大粒の涙が伝っていた。

 「え? ちょ、えぇ?」

 「・・・・・・」

 (ブルー)は、一度ため息をつき、彼に寄った。

 「未完成の覚悟は要らない。今ここで、完成させるんだ。幸」

 「あ・・・」

 優しく、引き寄せられた。


 「『不幸の対義語(トゥルーデッドエンド)』だ」


 「・・・?」

 「君のお兄さん・・・希望さんは、最後の最期で、そのスタイルを発現させたんだ。彼の口から、直接聞いた」

 「―― ああ」

 「君の中途半端な『それ』は、そのスタイルによる物だろう」

 (ブルー)は、目を瞑り、引き寄せる腕に力を入れた。

 

 「『自分の命が途絶えた時』『対象に意思を送る』スタイル。君は、自分のお兄さんの、意思を聞いたんじゃないのか?」

 「で、でも・・・はっきりとは」

 「それは、君が拒絶しているからだよ」

 少し、体と体を離し、顔を見る。

 「受け入れるんだ。家族なんだろう?」

 「・・・・・・」


 そのメッセージは、実は(ブルー)にも聞こえていて。

 それどころか、事務所の人間全員に聞こえていた。

 内容は、どれも同じだったけど―― 唯一人、自分が愛する弟には。

 兄としての、愛が綴られていた。





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