制裁探偵事務所―終― 『断罪される反逆の炎』
「な・・・なんですか、これは!」
「ヒナちゃん―― いや、遊炎魔の仕業か・・・派手にやったなぁおい・・・」
遊炎魔の能力によって、『天国』を炙り出すために焼かれた病院の中には、まだ、樹と紅音と紅の姿があった。
「ここは・・・一時退却です―― 引きますよ紅音」
「・・・・・・」
こくりと頷き、紅との戦闘を放棄して樹の後を追う紅音。
「あっ! ちょ、待て!!」
少し遅れて、その部屋を出る紅―― 扉を開けたその先に、『天国』の姿があった。
「な・・・て、てめぇは――!!」
「黒崎紅音―― !! ふっ、ふはははは!!!」
そのまま走ってくる『天国』に対し、紅は銃口を向けたが、彼は何ら変わることなく突進し、肩からぶつかり、紅を再び部屋へ押し込んだ。
「くそッ! 何なんだ畜生ッ!!」
不意の攻撃に、判断ができていない―― 一瞬空を舞う紅に、『天国』は追撃を仕掛けた。同じ高さまで飛び跳ね、右腕を紅の首に引っ掛け後ろに回る。二人で尻餅をつくことになったが、絨毯が敷いてある(ほぼ焼けているが)のでダメージは無い。
「何たる偶然―― 何という強運だ! この俺はァ!! 今一番欲している人間に―― 『罪』に、あの二人から逃れている途中で出会えるなんて!!」
「罪・・・だとぉ?」
「俺の能力を使うには、『罪』が必要だ―― 『天国へ行くには罪を浄化しなくてはならない』!! それがこの俺の能力の由来だ!!」
「てめぇが『天国』か! くそッ―― 離しやがれ!!」
「暴れるな―― こっちだって一杯一杯なんだ・・・あの二人が助けに来るまでは・・・何もしねぇからよ」
「ちぃッ!」
―― その時、扉が乱暴に開かれた。
「るっ、紅!!」
「遊炎魔! 白黒暴徒!」
「人質のつもりかテメェ!! 紅を開放しやがれ!!」
「開放しろと言われて、分かりましたっていうと思うかよ?」
「力づくで行く!!」
「遊炎魔!! 落ち着いて――」
遊炎魔が、紅と『天国』までの距離を、全速力で縮めようとした瞬間に―― 『天国』が、ふ、と笑った。
その小さな声に、紅はぞっとした。
「くっ、来るな!! 遊炎魔! 来ちゃ駄目だ!!」
「な――」
―― 遅かった。
『距離』は、長くはない。
紅の、必死の叫びが届いた時には、遊炎魔はもう、目の前に居た。
「来るなって・・・え?」
あろう事か、その必死の叫びのせいで、遊炎魔の動きを止めてしまった。一瞬―― 硬直した。
「ありがとう、紅音・・・いや、今は、戦ヶ丘紅だったっけかな?」
『天国』は、紅の胸の隙間に、自分の手を押し込んだ。
「なっ―― !?」
「『罪は浄化しなければならない』!! 彼女の『罪』は、お前が被るのだ!!!」
紅の体から、抜き出される様に出現したそれは、『剣』だった。
光り輝き、実体を持っていない―― 剣の形をした、何か。
「・・・え?」
「時間が必要だった。ほんの一瞬でも良かった―― それを、まさか敵方が作ってくれるなんてな。やはり俺は、強運を持っている」
光り輝くそれから手を離した『天国』は、紅を蹴飛ばし距離を取った。
「これで、一人だ・・・。しかも、とんでもない能力を持った奴を殺すことができた―― これで、『新世界』への道は、大きく進んだ」
「な・・・なんだよ、これ」
遊炎魔は、自らの胸に突き刺さる『それ』に、目を疑った。
痛くない。だけど、気が遠のいていく――・・・。
「ふ、遊炎魔・・・?」
「凪沙ぁ・・・悪い―― お前の忠告・・・ちゃんと聞くべきだった」
「ひ、ひな・・・と?」
「紅・・・見ての通りだ。あんたの罪は私が被った。この世界を諦めないで」
―― そして、眠るように。
眠りにつく、猛獣のように。
儚く。
美しく。
―――――。
「・・・お前に会うのは・・・久しぶり・・・・・・だな」
―――――。
愛した人を思いながら。
その情景を思い出しながら。
仲間の為に・・・。
「・・・・・・愛しているよ」
彼女は―― 一人の少女として。
「火奈兔おおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉおおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおぉ!!!!!!!!!!!!!!! うああああああああああああぁぁぁぁあああああああああぁぁああああぁああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
「火奈兔様ァ!!! 火奈兔様!!!!?」
仲間の声も、涙も、彼女には届かない――。
「―― 俺の能力、『天国』は、『罪と共に肉体と精神を浄化する』スタイル。そのためには、俺が知っている範囲の『罪』が必要だった。お前の『協力』無くして、この結果は生まれなかったんだよ―― 『ありがとう、紅』」
「ッッッッッ!!!!!!!」
瞳は輝かない。
ただただ、怒りと憎しみが湧いてくる――。
ありがとうだと!? ふざけるな・・・。
「それは私に―― 『手前の仲間を殺してくれてありがとうございました』とでも言っているのか・・・?」
「ああ。そうだが?」
ぷつん。と。
切れた―― ブチ切れた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
喉が壊れる程の咆哮―― 涙と共に。
しかし―― 物語のその場面には、もう一人、登場人物が居た。
「なっ・・・てめぇは!? 一体どこからッ!!!」
「紅・・・落ち着いて。『罪』はまだ拭えていないはずだ」
「ひ・・・英雄・・・・・・」
そう。英雄。
斎藤命である。
『天国』の首を、片手で締め上げている。
「こいつにとって、俺の存在は初見だ。だから、俺が殺すのが、手っ取り早い」
「ぐ・・・ぐぐうう」
「大切な仲間を殺されて・・・ブチ切れてんのは、紅、あんただけじゃない」
「英雄・・・」
英雄の登場の前に、少しだけイベントがあった。
それは、狂兵器が、屍薔薇ソプラを蹴り飛ばし、殺した時まで遡る。
というより、蒼の、『前の世代の紫色の戦争』の話を聞いた時から、違和感を感じていた。―― 轟木苺のスタイルだった『最終地点』。『敵と認識されたとき』『身体能力が格段に上がる』能力は、狂兵器と戦った時や、灰薔薇と戦った時に見せた攻撃の条件と一致している。
そして、彼が死んだとき、英雄は、近くで生まれたばかりの景色に包まれていた。
それらを合わせ、とある予測を立てた。
不確定な予測だ。信じるには到底値しない。
その予測、仮説を、監視長に話したところ、答えは無かった。
私が言えることではありません。と一蹴。
だけど、時間を今に戻し―― そう、今。
英雄の体には、遊炎魔のスタイルである『熱願冷諦』が宿っていた。
今まで、英雄として扱っていたスタイルも健在である。
守人に、出会った時、どういう風に俺達を見ていたかを聞けば、恐らく、『二人共敵として見ていました』と返ってくるだろう。
「俺のスタイル・・・俺の『固有のスタイル』は、『英雄』じゃなかった。今まで使っていたのは、轟木苺さんのスタイルの『最終地点』・・・。そして今、俺のスタイルに関する謎が―― 全て解けた!!」
首を締め上げていた手を放し、人間業とは思えないスピードで、回し蹴りを放った。
「――ぐふぉうぅッ!?」
叩きつけられた『天国』の体を中心に、壁が凍りついた。
「『熱願冷諦』!!!!!!」
両手に冷気を集め、一歩で壁へ移動する。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
『天国』の全身を殴る、殴る、殴り続ける――!!
その拳からは冷気が発せられている―― 辺りの炎が徐々に凍り始めていく―― 同時に、『天国』の体が、ぼろぼろと崩れていく。
オーバーキル。
それが、『天国』に与えられた刑。
裁くのは英雄。
「これはッ!! 火奈兔の分だァあああああぁぁぁああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
右手を大きく振りかぶり、顔面へ振り下ろす――。
『天国』に意識は無く、瀕死の状態だったのだが、その決定打が決まり、顔面が吹っ飛んだ。
いや、壁ごと、『天国』の首と体が分離しつつ吹っ飛んだ。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」
「英雄! 大丈夫か?」
「紅こそ・・・あんた、スタイル使えないんだから・・・」
「悪かった・・・でも、良くやったよ」
「ああ・・・・・・」
その場の三人は、死した彼女に対し涙を流す。
肉体も浄化されたため、遺体すらない。
「俺のスタイルは、『反逆英雄』と名付けよう。綺麗な名前は要らない。『自らの近くでスタイルを持つ人間が死んだ時』『その人間が持つスタイルを受け継ぐ』・・・。残酷なスタイルだ。だけど、これが無くては、樹は倒せない・・・」
「私は、英雄に付いて行きます」
「私の知らない間にかっこよくなっちまいやがって・・・今更なことを聞き出そうとするなよ」
「・・・二人共、ありがとう」
「二人じゃねぇ。三人だ」
「・・・・・・そう、でしたね。火奈兔・・・」
彼女の、不器用な性格は、好きだった。
彼女自身、人生は、幸せだったのだろうか・・・?
『幸せだったさ。この私が、こんなことを思うなんてね』
「え・・・?」
『お前のスタイルの影響じゃないのか? まだ声が届いている・・・お前にだけ・・・なんだけどな』
「火奈兔・・・?」
『悲しい声を出すなよ・・・。私は、上で彼と見守っているからさ』
「・・・・・・」
『時間だ。そろそろ行くよ』
「・・・ありがとう」
『いいって。こっちに、一人も送ってくんじゃねぇぞ?』
「ああ。肝に銘じておく」
『・・・じゃあな。楽しかった――― 大好きだった。皆も、お前もな・・・命』
「・・・火奈兔・・・・・・ひなとぉっ」
頬にキスをされた、そんな気がした。
「くっ・・・ふぅっ、う、ううぅ」
涙が止まらない―― 彼女の残り香は、無駄じゃなかった。
泣ける―― 精神を落ち着かせるんだ。
「火奈兔の声が、聞こえたようだな」
「・・・ええ・・・・・・」
「なんて言っていた?」
「・・・『大好きだった』『幸せだった』」
「あいつ・・・ほんと、何泣かせに来てんだよ」
そう言って、紅は天井に顔を向けた。
白黒暴徒も、肩を震わせている。
「――・・・前へ、進もう」
「・・・そうだな」
「ええ・・・」
決意する―― 彼女の分まで。
「終わらせよう―― 一刻も早く!!」




