制裁探偵事務所―終― 『少年少女の齟齬』
「先導者というのは・・・っ、そういう事かッ!」
「気づくのが遅かったね。狼男くん―― 自分のスタイルを過信しているんじゃないのかな? それが君の『敗因』だ」
■ ■
―― 時は、1時間程前に遡る。
紅、火奈兔の救出へと細菌が出発し、レビリオン精神病院の門をぶち抜いた―― 瞬間に、先導者こと姫劉院希望の奇襲を受けた。
一撃では沈まなかったが、細菌は、『目的を求めすぎていた』のだ。
これは、元科学者である彼にとってはとてつもない失敗だったと言える。
―― 皆に正体を現してから、何かと調子が悪い。と彼は思った。
そして今、細菌は、希望の前にひれ伏している。
「『止め』という言葉は、あまり好きじゃないな・・・。やはり、自分には人殺しなんて向いてない」
「・・・はっ、こんな未成年の男子をここまでボロボロにさせておいて何が好きじゃないだ向いてないだ―― 大体――」
「傷害と殺害では天と地ほどの差があるって言ってるんだ」
「・・・・・・」
「生き残りたいかい?」
「はっ。別に――」
「――そうか」
希望は、持っていた手榴弾のピンを抜き、細菌の真上へと投げた。
「やはり、この胸に残る―― ドロドロとした罪悪感がなぁ・・・・・・」
数秒後―― 地面にひれ伏す細菌に触れるか触れないかの場所で――
『爆発した』
「―― あぁ、たまらない」
希望は、狂気に満ちた満面の笑みで―― 性に合わない『殺人』を行った。
■ ■
―― ドクン
「・・・う」
嫌な感覚がした。
命は、師匠である彼の帰りを待っていたが―― それから2日経った。
「遅い」
帰っていない―― かえれない ―― 戻って来ていない。
嫌な可能性が、頭の中をぐるぐると回る。
「命様―― 今、わたくし達に出来ることは、ここであの人の帰りを待つことだけです―― あの人は、命様のお師匠様なのでしょう? 二日程度なら、生き残っているはずです」
「敵の本拠地だとしても?」
「はい。本拠地だとしても、敵に囲まれていようとも―― です」
「・・・ああ、紅茶ありがとう」
「いえいえ」
―― そのカップに、罅が入る。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
沈黙する―― 途端に、携帯電話が鳴った。
「・・・誰だ」
『あっ! やっと繋がった! 命さん!? もしもし!?』
「KOI・・・?」
いつものような、ふざけている声色ではない。
『オートさん、私をキーロックして、場所だけ暗記して・・・』
「じゃあお前には、オートさんの様子は」
『分かりません、ですが―― 機械の私ですら、嫌な予感がします』
「・・・・・・」
『お願いです、一刻も早く、オートさんに加勢してください!』
――その声は、最早機械とは思えない―― 大切な人の危機に、仲間へと助けを求めている、ひとりの少女にしか、聞こえなかった。
「・・・凪沙、蒼さんとこ行ってくる」
「わたくしもお供いたします」
「・・・わかった」
■ ■
「・・・兄さん――」
幸は、自分の部屋で一人、泣いていた。
「・・・・・・」
いくら気丈に振舞っているとは言え、まだ成年もしていない。ショックが大きかった。
だが、ここからが、事務所の一人となった人間の、真骨頂である。
「・・・・・・」
立ち上がる。スーツに着替える。
―― 身内の不始末は、身内である僕が片付ける。
それが、彼の出した結論だった。
「―― そのためには」
まず、全員の目を盗み、事務所から出なくてはいけない。
誰にも知られたくはない。知られれば、止められるか、付いてくるだろう。
「・・・僕がやるんだ」
決意の眼差しで、守人が言う。
「制裁を開始する――っ」
■ ■
「なら、俺も行こう」
「蒼さん――」
「今回には、俺の責任もある。そこは、取らせてもらう」
「・・・分かりました」
―― 三人。
白黒暴徒と英雄と蒼。
彼らは、守人より先に、『黒鳥の砦』を出た。
■ ■
「お久しぶりですね、紅」
「久しぶりって程でもねぇよ、主」
「二度とその名で呼ばないでいただけますか? 裏切りを働いた罪は重いですよ」
「新世界なんかいらねぇって思ったんだ。このままの世界でいいじゃねぇか」
「新世界など、結果でしかありません。重要なのは通過点。ルートですよ」
「はっ、つくづく下らねぇ。だから私はお前のところから逃げたんだよ」
「ですが戻ってきましたね」
「・・・」
「まぁ今回は、味方ではなく、敵としてですが」
レビリオン精神病院、地下室。
鉄の檻の内側と外側で会話をする。
「そちらの少女は、新しい仲間ですか」
「そうだ。なんか文句あるかよ」
「精々裏切られないようにすることですね」
「はっはっは、お前じゃねぇんだから」
そんな二人を見て、火奈兔は、「似ている」と思った。
「では、また次の食事の時間に来ます」
「あー、私ハンバーグがいいなぁ」
「・・・・・・考えておきます」
「考えるのかよッ!」
今まで黙っていた火奈兔だったが、耐え切れずツッコミをしてしまった。
「なんだ、ヒナちゃん起きてたのか」
「ここの独房、設備良すぎだろ、ふざけんな」
「それはあの人に言ってくれ」
「むー・・・」
火奈兔が、気になっていたことを話す。
「あんたには、斎藤樹はどう見えるんだ?」
「私か? 私にはもう、『本物の斎藤樹』が見える」
「仲間だったからか?」
「そう。ヒナちゃんはどう見えるんだよ」
「白髪のおじいさん」
「あ、それ本物だ。あいつ、スタイル使ってないのか」
「『使えない』んだよ、私も、あんたも、斎藤樹も」
「となると・・・」
「スタイルを無効化するスタイル。証のようなスタイルを持つ人間がいる可能性が高い」
「・・・まぁ、今は助けを待つか」
「それに越したことは無いな」
「太刀風火奈兔はまだいいとしても、戦ヶ丘紅、お前にそんな時間があるとは思えんがね」
「・・・あんたは、見たことないな」
「当たり前だ。何せ『隠密機動』だからな、簡単に姿を見せることはない」
「どうりで今も見えないわけだ」
「俺のコードネームは天国。今からここで見張りをさせてもらう」
「天国・・・」
「見張りを掻い潜る者に見張りをやらせるなんて、人使いが荒いんだな」
「その通りだ・・・あぁ、あと俺には、戦ヶ丘紅を拷問する義務がある」
「そ、そんな義務捨てちまえよ」
「悪いがそういう訳にはいかない。さて、覚悟してもらおうか」
その時、地上で何が起こっているのか、彼女たちには知る余地もない。
物語は、激動する。




