制裁探偵事務所―零― 『紫色の戦争』15
「はっ・・・こ、ここは・・・?」
「気がつきましたか。轟木苺さん」
とある産婦人科のある病院の目の前――
「ここは病院の前ですよ。私が貴方を生き返らせてあげました」
「なに・・・? ということは」
「はい。貴方は死んでいました」
「・・・・・・」
木苺は驚く―― が、落ち着いた目で、目の前の人間を見据えた。
「あんた、誰だ?」
「私ですか? 貴方は、私がどう見えますか?」
「・・・表群青」
「へぇ・・・貴方にとっての彼は、それほどまでに重要な存在だったんですね」
「ああ? あんた、本当に何者なんだ」
「私、斎藤樹と言います」
「斎藤・・・? 知らないな」
「まぁ。初対面ですし」
「・・・」
嫌な感じがする―― そう思った。
本能が、そう言っているような――
「緊張しないでください―― どうやっても、結果は同じですから」
「はぁ?」
「何でもありません―― 少し中に入りましょう」
「・・・」
言われるまま、樹に連れられ、病院内に入る木苺。
―― 入ったのは、病棟。
『斎藤』と書かれたプレートがある―― 病室に入った。
「あ、お父さん・・・と、どちら様ですか?」
「私の知り合いだよ。どうやら彼は赤子を見たことがないらしくてな―― 見せてあげたかったんだ」
「そう・・・でも生憎、お昼寝中です」
「いや、いいんだ」
そんな短い会話の後、自然に病室を出た。
「・・・なぁ樹さん。俺に何をして欲しいんだ?」
「・・・残して欲しいんですよ」
「残す・・・? 何を」
「あの子に―― 『命』に ―― 貴方の優しい力を」
「・・・命ってのは、名前か」
「ええ」
「いい名前だなぁ」
「・・・・・・」
■ ■
「―― 本日午後2時頃、○○地区の病院近くで、高校生と思われる男性の死体が発見されました――」
「ポケットに入っていた学生証から、○○高校の男子生徒と予想されます」
虎徹の家―― 三人がそこにいた。
「・・・そんなことが」
「すまない―― 虎徹さん・・・僕」
「気に病むな―― 悪いのは全部、その鋸って奴だ」
「・・・・・・」
「あと、このニュース・・・気になるな」
「え? じゃあ、後で行ってみますか」
「いや、警備とかしっかりしてると思うが」
「僕の力を使えば、現場に行くことは可能です」
「私はさぁ―― こう推理するよ」
紅音が言った。
「虎徹さんが取引をしたっていう男が言った『件』っていうのが、この一連の全てなんじゃないかなぁって。その証拠に虎徹さんが作ったっていう車も出てきたし。それで、その斎藤樹とかいう人間が今回の黒幕で、病院に居る子供―― いや、孫かな? どっちでもいいや。その子供はスタイルを持っていなくて、樹が持っているスタイルによって生き返らせた木苺くんのスタイルを、樹のもう一つのスタイルによってその子供に移した。私と群青を狙ったのは、元から私は樹がいたグループに目をつけられていて、まぁ、それは多分私にスタイルの覚醒の兆候が見れたからなんだろうけど―― それで、私は狙われていて、そこに絡んできた群青にもスタイルの反応か何かがあって狙われた。そう考えれば、大体片付くんじゃない?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「紅音、お前、こんなキャラだったか?」
「私は『異常さ』を捨てたからな。普通になったんだよ」
「普通になりすぎて異常になっている気がする」
「細かいことはいいんだよ! ほら、さっさと病院いくよ!」
「お、おう」
■ ■
「おいおい。死んだ男子高校生って、木苺じゃないか」
「・・・・・・」
「このまま行ったら紅音の予想通りになっちまうな」
「今上田の奴に連絡してみたら、あんたの言った通りだった」
「うっしゃー!」
ガッツポーズする紅音。
「・・・・・・」
「じゃあさ、私達、名前とか変えたほうが良くない?」
「名前? ああ、狙われてるからか」
「気休め程度にしかならんと思うが?」
「どちらにしろ私、黒崎紅音って名前、好きじゃないし」
「おいおい」
「いいじゃん! ほら、改名しにいくよ!」
「待てよ! そんな急に――」
「いいって! 私、もう群青と私の名前考えてあるし」
「な――」
「それじゃ、ありがとね。虎徹さん」
「いいってことよ―― また因縁断ち切りたい時があったら、戻ってこい。・・・どうせなら、今ここで、向こう側の全員と因縁断ち切らせてもいいんだぞ」
「いや、そこまで捨てるものないし」
「そうか。じゃ、またな―― どうせどこかへ行くんだろ?」
「・・・まぁね」
「お、おい。僕はまだ行くとは――」
「その『僕』っていう一人称もなんか合わないなぁ―― 『俺』にしてよ!」
「う、うう―― いくらなんでも変わりすぎだろおおおおおお!!!」
――改名後
「うんうん! 『戦ヶ丘紅』と『争谷蒼』! 気に入ってくれた?」
「まぁまぁ気に入ってる自分に驚いてるよ・・・」
「それじゃあ、拠点を作ろう!」
「拠点?」
「そのうち、またあいつらが攻めて来ると思うんだ。だからそのために、戦力を付けておきたい」
「戦力って―― ぼ――俺達と同じような力を持つ人を集めるってことか?」
「そういうこと」
「でも、俺達にはそれを調べる機関も無いし」
「潜り込むんだよ」
「潜り込む? どこに―― まさか」
「そのまさか! 樹の所にな!」
「い、いやいや―― いやいやいやいやいや、いくらなんでも」
「そっちのほうが確実だ―― 『この力を貴方の新世界のために役立てたいです。新人のスカウトと教育をさせてください』って頭下げてな」
「・・・ありかもしれなくなってきたな」
「だろう? よし! もっかい虎徹さんとこに行って、そっから辿って樹んとこに行こう!」
「・・・どれだけかかるかな」
「時間なんて気にしなくていいんだよ! ほら! 私達はまだ若いしな!」
「・・・それもそうだね」
「じゃあさ、拠点の名前は何にする?」
「拠点の名前? それは俺が決めてもいいのか?」
「うん」
「じゃあ、強きものに制裁を与える―― 『制裁探偵事務所』なんてのは?」
「探偵事務所? なんで?」
「この拠点は、あくまでも樹たちへの報復、新世界への妨害が目的なんだろう? だったら、表と裏をつけなくちゃいけない」
「表向きは『探偵事務所』。裏向きは―― ってことか。いいね!」
「・・・それじゃあ、さっそく戻ろうか」
「ああ!」
■ ■
「ええ。惜しい人を亡くしました。彼はよく尽くしてくれたのに―― この件は、『紫色の戦争』と名付けましょう。名付け、記録しましょう」
レビリオン精神病院―― とは言っても、患者は一人も居ない、廃病院である。
そこに、何人かの仮面を被った人間が席に座っていた。
「この私の人生の汚点となった件です。間違えのないようにお願いします」
「分かった」
男性が言った。
「この先、また彼彼女らに手を出すつもりは?」
「・・・あまり気が乗りませんね」
「そうか」
「・・・私達には、まだやるべきことはあります。それに、彼が残してくれた物を、彼のためにも使い切らなくてはいけません」
「それは?」
「黒崎紅音と表群青の『髪の毛』です」
「・・・なるほどな」
「手を出す必要は、『もう無い』という訳か」
「シャルル卿。あの機械、使えますね?」
「ええ。大丈夫です。万全です」
「では、早速シャルル卿の家へ向かいましょうか。今日は解散でいいです」
「樹さん」
「どうしました? 上田政宗さん」
「あんたの予定を崩すようで恐縮なんだけど、この子達が、仲間に入りたいって――」
「・・・黒崎紅音、表群青」
目線の先にいる彼と彼女は、頭を下げ、言った。
「「この力を貴方の新世界のために役立てたいです。新人のスカウトと教育をさせてください」」
その言葉に、その場にいた全員が驚いたようだった。
「・・・いいでしょう」
樹が言った。
「では貴方達も、今この瞬間から我らが同胞だ。よろしくお願いしますね」
「「はい主」」
「ではどうしましょうか――」
「事務所を設置し、そこから秘密裏に戦力を育てる。というのはどうでしょうか」
「では、そうしてください」
そうして、彼と彼女は、未来へと繋がる。




