制裁探偵事務所―零― 『紫色の戦争』14
「お前は――一体なんだ・・・?」
「何か? そりゃ聞き方が悪い。おいらはおいらさ」
武道場―― 向かい合う二人。
「違う、木苺は確かに、飄々とした奴だったが―― お前のような目はしていない」
睨みつけるように見る―― 黒に染まった目。
「んん、なるほど。だからあの人は『サングラスでも掛けておけ』と言ったんだ。分かってしまうもんなんだな」
「な、何の話をしている――」
「こっちの話だ」
楽しそうに笑う―― その男。
「おいらの能力は、『意思憑時』という。おいらは、『意思を残せる』のさ」
「能力・・・?」
群青は問う。
「能力って、何の話をしているんだ」
「能力は能力―― お前だって持ってるんだぜ?」
――彼は、鋸はそう言った。
「・・・は?」
「理解できねぇだろう。おいらもそうだった―― だが、おいらは、信じたいという気持ちもあったんだ」
「な、何を言って――」
「ロマンさ――」
「・・・」
群青は、意味のわからない顔をする。
「ロマンはいい。ロマンこそ、男が信じるべき物だ」
「・・・・・・」
「さて、表群青。お前は、おいらの仕事の内に入っている―― つまり、殺さなきゃいけない」
「は、話変わりすぎだろ・・・」
「ここで黙って首をおいらに捧げれば、それで事は済むんだ」
「・・・つまり、お前は木苺じゃないってことだな?」
「ああ。おいらは鎌足 鋸だ」
「断る」
静蒼無双を構え、鋸を見据える。
「お前のような素性の知らない奴に渡せるほど、僕の命は安くないんだ」
「・・・そうかい」
鋸は立ち上がり、竹刀を構えた。
「ちなみに、おいらは能力を持っている者にしか意思を移せない――つまり」
「つまり、木苺もその能力とやらを持っているってわけだな?」
「そうだ。ちなみに能力はな、『敵であるとき』『身体能力が格段に上がる』って能力だな―― あの人が付けそうな名前は『最終地点』みたいな感じか・・・」
「あの人あの人って、いったい誰のことだよ」
「おいらが教えると思うか?」
「いいや!」
静蒼無双をしっかりと持ち、静かに、それでいて激しく――彼に突貫した。
それを彼は、竹刀で難なく薙いだ。
「甘い――たるい――弱い! どうした!」
「・・・ふっ」
小さく息を吐く―― 呼吸を止める。
足をねじり――方向を変える―― 眉間を狙う。
「おっと――」
彼は体を反り、そのまま蹴り上げた。
「がっ――」
「身体能力が上がるって――気持ちいいなぁ!!」
そのまま着地し、横向きに蹴った。
「うぐぅうッ――」
「うふふふふはははははは!!!」
大いに哄笑する―― 竹刀を捨てた。
「ここまで気持ちのいいものはないぞ! うふふふ! 表群青―― お前、いい友を持ったな」
その言葉に―― 反応する。
「てめぇみたいなクソカスが、木苺を語るんじゃねぇ」
静かに怒る。
「あー・・・? なんだって?」
「てめぇみてぇな! クソカスがァ! 木苺を! 語るんじゃねぇって言ったんだ!!!!!」
立ち上がる――
アバラが何本か、折れている―― 気にならない。
肺まで、どこか支障が生じているだろう―― 気にならない。
今はただ――
今はただ、友を侮辱された怒りに満ちている――!!!
その目は、蒼く、ひたすら静かに蒼く光った。
「お前――その目は――一体」
「未知を怖がるのか――お前は・・・」
彼の覚悟―― 怒り ―― ただ単に、友を悪夢から救う。
「ならば恐怖しろ。この『俺』に―― 俺はもう怖くない――お前を殺すことができる――!」
「な、何を言っている――う、うふ・・・お、おいらにはまだ、『最終地点』が――」
「第一、おかしいんだよなぁ。木苺がそんな能力を持っているわけがねぇもん」
「な、何・・・?」
「あいつは、いつも第三者に成りたがっていた―― それはいつも叶わなかったけどな。だがよぉ、あいつは誰の敵にもならなかった」
「あぁ・・・?」
「お前は間違っている。『木苺』。お前はそんな奴じゃないだろう」
普通に――友達に話しかける一学生のように、彼は言った。
「なぁ、木苺。そうだろう?」
歩く―― 近づく―― 一歩一歩。
「や、やめろ―― 来るなぁ・・・」
恐怖する。
「う、うぉおあああああああああ!!!!!!」
その拳は、へなと力なく、群青の体に触れた。
「おしまいだ。木苺―― いや、鎌足ナントカさん。これで、終わりだ」
目の光が、燃えるように揺らいだ。
静蒼無双を構えない。
「これでもう、あんたはこの世界には居ない」
それが、俺の能力――
「世界からの追放、『手前の時間の歪曲』。あんたはそこに、居続けなければならない」
その武道場には、既に木苺の肉体は無かった。
「俺は今、あんたが存在している時間を『ずらした』」
――というか、もう聞こえてないか。
そう言って、彼は武道場を出た。
■ ■
「俺の能力は、『諸刃の剣』と言ってな――『何かを犠牲にすることで』『因縁を断ち切ることができる』という」
「へ、へぇ・・・」
紅音と虎徹。
最早飽きたのか、それとも探し終えたのか、談笑している。
「因縁を断ち切られた者は、何があってもその時点で―― 『自分のいる空間で死ぬ』んだとよ。消滅だ。まぁ能力の持ち主である俺にも効果はあるっぽいし」
「・・・・・・」
「ん? どうした」
「いや、能力って、どういうことですか?」
「・・・そうか、知らないのか」
虎徹が言う。
「普通の人間に、稀に現れる能力のことだ―― 多分、お前さんも持ってるんじゃねぇのか?」
「え、私が?」
「こんなことに巻き込まれてんだ―― 何もないことはないだろ」
「そういうものなんですか?」
「そういうものだ」
「ところで、虎徹さん」
紅音が聞く。
「その――ハッピーインノーエンドでしたっけ? それって、自分じゃなくても使えるんですか?」
「ああ、多分な」
「対象は、固有名詞じゃなくてもいいんですか?」
「ああ、多分な」
「じゃあ――」
■ ■
「ど、どうなっている・・・?」
ずらされた世界の中―― 彼がいた。
「きゅ、急に消えやがった―― どうなって――」
ずらされた世界。彼以外の物は存在していない。
「・・・『世界』がッ! 消えた!」
呆然とする鋸。
何もない空間――音さえ、自分の声さえ、あるのか危うい。
「――ま、まだだ。たしか――黒崎紅音も能力を持っていたはず――」
そして彼は、自らの舌を噛みちぎった。
■ ■
「じゃあ、私は『異常さ』をあげるから、父さんを殺した人物との因縁を消して!」
「分かった」
■ ■
―― 彼は消滅した。
木苺のものだった肉体は、ずらされた世界で一つ、死に。
『意思憑時』にて映される意思は、『諸刃の剣』によって消滅した。




