制裁探偵事務所―零― 『紫色の戦争』12
「・・・あれ?」
校舎の中を彷徨ううちに、あの車のエンジン音が聞こえなくなった。
「・・・・・・」
紅音は警戒する。
エンジンが切れたと言うことは、車が止まったと言うこと――すなわちそれは、運転していた人物が車を乗り捨てたと言うことになる。
「・・・足音は聞こえない」
自分の足が、敷き詰められた水を踏む音しか聞こえない。
「・・・・・・」
とりあえず、体育館に行って、群青と合流しよう――と思った矢先
「・・・っ!」
体育館の近くから、エンジン音が鳴り響いた。
――どうやって移動したんだ!?
「急がなくちゃッ!」
そこで、紅音がふと立ち止まり、体育館に最も近い教室の存在を知った。
「・・・・・・」
ちらり、とショルダーバッグを見る。
「これは・・・」
まるでこうなることを分かっていたようなシチュエーション
「・・・・・・」
その教室へ、足を早めた。
■ ■
「あぁ? もう一回言ってくれ」
「ですから、レビリオン精神病院の院長兼取締の斎藤樹です。同じ事を言うのは嫌なのでもう言いませんよ」
「ああ。十分だ」
静かな和室の中、居るようで居ないような目の前の存在に驚きながら、轟虎徹は、その人間に問いかけた。
「黒崎艾。じゃないのか?」
「黒崎・・・? ああ、あの子の母親ですか」
樹は了解したような声で、――違います。と言った。
「私の体は特別でして――あなたにとって印象深い人物の姿を借りることが出来るんですよ」
樹は、艾の顔で笑った。
「私は、これを『スタイル』と言っています」
「スタイル・・・?」
虎徹が聞く。
「そんな訳もわからない人間が、ここに何をしに来た」
「あなたを導きにですよ――轟菊華の弟さん」
「――ッ!?」
急に身内の名前が出てきたことに驚く虎徹。
「お前、姉さんを――」
「あなたと同じように接触しただけですよ。そう怒らないでください」
「くっ・・・」
淡々と続ける樹。
「私にはあの子達が必要なんです。ぶっちゃけた話、誰でも良かったんですけどね・・・」
立ち上がり、まっすぐ木苺の部屋に向かった。
「この子は、途中離脱ですか・・・でもまぁ、あまり気配を感じませんし、元々光ることのない石だったってことですかね・・・」
「あぁ? 何言ってんだお前ぇ――」
「あなたで言う、『因縁を断ち切る力』の事ですよ」
「なッ――!?」
「その反応は、気づいてらしたんですね。こちらも調査済みなので、説明は省かせていただきます」
「て、てめぇ」
「まぁ、『因縁を断ち切る力』では長ったらしいので、この場合は『諸刃の剣』とでも言い換えましょうか」
「・・・っ!?」
「あなたでも良かったんですよ。轟虎徹さん――というか、あなたを捕まえるために、轟菊華さんと接触したと言っても過言じゃありませんし」
「だから・・・何の話をしているんだ」
その時、樹がこちらを向いた。
カーテンから差す陽の光が、樹を眩しくする。
「――新世界ですよ」
――樹は言った。
「新世界。私の目的はそれだけです――この世界から力を集め、新たな世界へと屈服させる」
「そんなこと・・・本気で・・・?」
「本気ですよ。ですから、ここまで来たんじゃないですか」
「・・・・・・」
唖然とする虎徹。
「さて、ではあと一つの用事を済ませましょうか」
「ま、まだ有るのか?」
「えぇ! では、『スタイル』を持つ唯一の無機物――あなたが打った日本刀『静蒼無双』を頂戴したい」
「ああ、あれはもう無い」
■ ■
「無い・・・んですか? 誰かに買われたんですか?」
「いや、譲ったんだ。刀がそれを望んでいたからな」
「・・・表群青、ですか」
はぁ、とため息をつく樹。
「彼は普通ですよね、普通だから、普通すぎるから異常なんです・・・」
「何言ってんだお前」
「もうあなたには関係のないことですよ」
そのまままっすぐ出口に向かう樹。
「はぁ、命令内容を変えなくてはいけません。では、勝手にお邪魔して申し訳ありませんでした。縁があれば、また会いましょう」
そのまま出て行った。
「・・・あいつ、なんだったんだ」
姿は艾なのに、少しは懐かしさが出てもいいはずなのに、ちっとも出てこない。
「とりあえず、表群青たちが心配になってきた・・・命令を変えるってことは、あいつらに何かがあるってことだしな・・・」
と推測し――
「あいつが言う、『諸刃の剣』があれば、なんとか力になれるかも知れないしな」
と、家を出た。




