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制裁探偵事務所―零― 『紫色の戦争』10


「お前、一体何者だ・・・!?」

 群青が問う。

 老人は言う。

「何者でもありません・・・しかし、名前を聞かれたとするなら


    藤堂(とうどう)(かなめ)


 ――と答えるしか無いでしょう」


「藤堂、要・・・?」

「私は嘘が嫌いでして」

 和やかな雰囲気の老人。

 斎藤樹と名乗った。


「じゃあ、藤堂さん、ここで何やってんだ?」

「要でいいですよ――そうですね、強いて言うなら、『人助け』でしょうか」

「ひ、人――」

「探偵なんですよ。私」



 ■      ■



「その探偵が、具体的に何をやっているのかを聞きたいの」

 校内を歩いている内に、紅音が口を開いた。

「話すと長くなります・・・どこか落ち着いて話すことができる場所が良いですね」

 キョロキョロと周りを見て


「私は、血が嫌いですから」


 と言った。

「・・・・・・」

 ここまで来た人の言うセリフじゃねぇな。と群青は思った。



 ――校門を出る。



 坂を下って、左へ曲がる。

 要は、もう少し学校を周ってから行くと言う。



 「ぐっ、群青くん――!?」


 彼女の声。

 後ろから、神威千里の声が聞こえた。


「千里ちゃ――?」

 振り返ると、そこには体の半分が赤く染まっている千里がいた。

 一つ道路をはさんだ向こう側――電柱にもたれていた。

「ち、千里ちゃん!!!」

 駆け出す――。



 「来ちゃダメだよ!!」


 

 彼女が言う。

 今にも死んでしまいそうなのに――必死に。

「え――?」

「私は餌だから! あなたは――あなた達はこっちに来ちゃダメ!!」

 泣きじゃくるように――

 他の生命が存在しないような感じがした。


「え、餌って・・・」


 力なく立ち上がる千里。

 笑っていた。



「君のせいだ。紅音ちゃん――君さえ来なければ、日常は崩れなかった」



 優しい声で言う。

 雑音は無い――彼女の声だけが、響く。


「私は恨むよ。君のことを――でも、大好きだった」

 大好きだった、と繰り返す。

 紅音は、やめて、と言った。


「大好きな友達が、これ以上、目の前で死ぬなんて――嫌だから」


 一歩、一歩と先に進む。

「これで、精算するね」

 笑う。

 涙を流しながら、笑う。


(わだし)のッ――最後をッ!! 『最期(さいご)』をッ!!!!」


 怒りなんて物じゃない。

 悲しみですらない。

 ――けれど、虚無では決してない。


見届けて(み゛どどげで)ッッ!!!!!」


 友人に対する、仲直りの仕方。

 最悪の仲直りの仕方。


 ふらついた足で、地面を蹴った。


 ――どこからともなく、エンジン音が聞こえてきた。




          「あなたは、それで、許してあげる」



 黒い塊が、彼女を引き裂いた。

 どこからともなく現れた物が、彼女を引き裂いた。


 赤い、赤い血が噴く。



 「えっ・・・?」



 目の前が真っ赤に染まる。

 彼女は、『死んだ』



「うっ、うあああああああああああああぁぁぁああああッ!!!」

「―――――――――――――――――――――――ッッッ!!!」


 彼女の想いを寄せていた人は叫び

 彼女に許された人は叫んだ。



 ――関係するはずの無かった彼女の、最期の仲直り。

 それは、こんな形で、成される事となった。


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