制裁探偵事務所―零― 『紫色の戦争』9
「はぁ・・・はぁ・・・」
扉が乱暴に開かれる。
時刻は夕方――ほとんどの生徒が下校する時間。
そこには、血にまみれた木苺の姿があった。
力なく、玄関で倒れこむ。
「――き、木苺ッ!?」
音を聞き玄関へ来た虎徹が叫ぶ。
■ ■
「一命は取り留めました」
白衣を着た男が言った。
「ただ、脇腹に特に大きな傷がありまして――」
内容が入ってこない。
「あの傷は癒えても、後はくっきりと残るでしょう――」
呆然と、白に統一された部屋に存在している。
「木苺」
声がした。
誰の声・・・ああ、僕か。
白い・・・。
「木苺」
どうして、こんなことになったのだろう。
どこから――いつからか、歯車が噛み合わなくなってきていた。
「木苺」
返事をしてくれ。
いつものように、僕をぐんじょーと呼んでくれ。
――そして僕は、病室を後にした。
後ろから、紅音が付いて言った――「私の番」と。
「・・・・・・」
今までと逆。
紅音が話し、僕は何も言わなかった。
■ ■
その日の夜も、家には帰らなかった。
呆然としている虎徹さんの代わりに、家事の手伝い。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
今死んだわけじゃないのに、何なんだ。
この空気は・・・何なんだ。
「黒崎――いや、紅音」
「・・・・・・」
頷く。
「明日・・・何かが起こると、思う」
「ああ、僕もそんな気がしたんだ」
その日は、よく眠れなかった。
男の声で、『お前は普通だ』と繰り返し聞く夢をみた。
最悪の気分。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
そして、僕は、竹刀袋の中に静蒼無双を入れ、紅音は、ショルダーバッグを持った。
導かれる。
そんな感覚。
暑くも寒くもない。
ただただ、黒いアスファルトに、一歩一歩と足を進める。
8:45
時計はこの時間を指した。
普段ならば、チャイムが鳴るはず――。
昇降口の前に立つ。
鼓動が早まっていく。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
静まり返った学校に、僕は足を踏み入れた。
■ ■
「・・・はぁ?」
そんな声が出た。
『ただ四つの席を除いた』全ての席、机椅子が粉砕されていた。
全ての教室の、全ての物が――。
『表群青』『黒崎紅音』『轟木苺』そして、『神威千里』
この四人が存在していた痕跡だけが、くっきりと残っている。
そして、教室棟に敷き詰められた、血。
もともとが何だったのか――分からないほどの、血。
「うっ・・・」
思わず、吐きそうになってしまった・・・。
「彼女は・・・?」
紅音が言った。
「まだ私達が見ていない、生きている可能性がある人物は、神威千里だけ」
「・・・・・・」
「彼女を探さなきゃ――」
足音がした。
しと・・・しと・・・と、血の中をゆっくりと――
掃除道具入れの中に入り、身を潜める。
万が一、千里ちゃんじゃなかった場合のため――
「え・・・?」
一切の迷いも無く、一直線に掃除道具入れの扉を開け、僕達を見つけたのは――
「ごきげんよう」
聞き覚えのある声の、老人だった。




