制裁探偵事務所―零― 『紫色の戦争』8
「・・・・・・」
追いついた。
紅音の隣――いつもの無言。
「・・・いや」
いつものじゃないな。
「・・・・・・」
震えていた。
目は虚ろ、一歩一歩が少々重く感じられる。
「紅音」
「・・・っ!?」
どうやら群青のことには気づいていなかったらしい。
「あ、あらわ――」
「何も言うな。僕がここにいる」
「・・・っ」
「か、勘違いするなよ! これはあくまで虎徹さんの――」
抱きつかれた。
「・・・えっ?」
「・・・・・・」
時間が停止したかのように、群青の思考は動くのをやめた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
えー・・・と、どうすりゃいいんだ。
「――私は羨ましい」
紅音が口を開いた。
「私は、あなたの『普通』さが本当に羨ましい」
「・・・・・・」
「私はいつになったら――」
群青はふぅーと息を流し、紅音を抱きしめた。
「と、とりあえず・・・ここじゃ目立つから、目立たないところまで行こう」
「・・・・・・」
首を傾げた紅音だったが、すぐに意味を理解し、「それじゃあ私の家に」と言った。
――ていうか、こういう状況だと照れないんだな。
――紅音の家。
伊集家宣がいるはずの家。
「・・・父さん?」
部屋に溜まった血。
壁に埋まったような、そんな痕跡。
伊集家宣が死んでいた。
「・・・・・・」
紅音は混乱する。
「うおっ・・・って、え? あ、紅音の父さん?」
「・・・・・・」
生まれたての小鹿のような、震える足で、一歩、一歩と家宣に近づく紅音。
「ちょ――おい!」
群青が紅音の腕を持ったとき――彼女が言った。
「――離せ」
紅に淡く光る目で群青を睨んだ。
群青は思わず怯んだが、部屋を出て、そのまま警察に電話した。
紅音は、家宣に触れることなく、ただ傍にいた。
悲しむ様子も見せなかった――強がりだったのかもしれないが。
紅音の提案で、虎徹のところへ戻ることにした。
「・・・そうか」
虎徹はそういった。
紅音の件も心配だったので、次の日の学校は休むことにした。
いや、虎徹さんが一緒にいてやれっていったからだよ?
用意された布団は二つ。
しかし、紅音は無言で僕の布団へと入ってきた。
「あ、あの・・・紅音、さん?」
「・・・・・・」
何も言わないまま、彼女は頭を僕の胸に押し付け、涙を流した。
「・・・言いそびれたな」
さっき言えなかったこと。
「十分、普通だっての」
■ ■
「・・・・・・」
「・・・おはよう」
起きると、枕に横で紅音が正座をしていた。
「昨日は・・・ごめん」
「昨日・・・? ああ」
あの手を振り払った時か・・・
「怖かったけど、仕方がないよね」
「・・・ごめん」
「いいって」
バタンッ
障子が開いた。
虎徹さんがいた。
「一晩泊まらせてやったんだから、手伝いの一つでもしていけ」
だそうだ。
適当に朝食の(出してもらった)皿洗いや、布団をしまっていると、また虎徹が呼びかけた。
「まず、表群青――約束の静蒼無双だ」
差し出されたのはひと振りの日本刀。
「そいつぁな、絶対に折れず、錆びず、ただただそこに存在する業物だ」
と言う。
「折れず錆びず?」
「そう。なんせこの俺が丹精込めてうった刀だからな! だっはっはっは!」
説明になってない。
「黒崎紅音・・・だったか?」
虎徹が言う。
「んー、なんでか知らんが、姉から荷物が届いてた」
「荷物・・・?」
大きな箱。
「付属の手紙には、『嫌な予感がするから。P.S これだけしか準備できなくてごめん』としか書いていない」
「・・・・・・」
「んー、確か姉の夫って占い師だったっけ? でもたかが占いで――」
ガサゴソと差し出された箱から出てきたのは
「そんな物騒なものをなぁ・・・」
「ぴ、ぴすとる?」
「そうだな・・・『ブラック・ホーク』それとスナイパーライフルも入ってるはずだ」
「ほ、ホントだ・・・」
「何か起こるんかねぇ・・・さっぱりわからん」
「・・・・・・」
嫌な予感がする。
三人、三人とも、そう思った。
コンパクトに収納できるショルダーバックに二つの重機を入れる紅音。
その姿は、やけに様になっていた。
「なぁ紅音」
「・・・?」
「ちょっと、それ持って、バーンってやってみて」
「・・・? ば、ばーん?」
「・・・・・・」
不覚。
「紅音、ぶふぉっ・・・くくっ・・・」
「な、なに? どうしたの?」
「に、似合いすぎ・・・可愛――」
紅音は顔を紅潮させた。
・・・わかりやすい。
「ふっ、不正なアクセスぅ―――!」
一室に閉じこもってしまった。
可愛い。と思ってしまいました。




