制裁探偵事務所―零― 『紫色の戦争』7
「昔々、轟虎徹という若者がいました」
喋り始めたのは虎徹の声。
まるで昔話でも語るかのように。
「その若者には当時夢も希望も無い性格をしていました」
自虐的に笑う虎徹。
同席する紅音と千里は黙ってそれを聞いている。
「ところが、姉である轟菊華の仕事を見学したところ、刀という存在に惹かれてしまいました」
「へぇ。虎徹さんってお姉さんが居たんだ」
「なんでもマフィアとつるんでるっぽい」
「はぁ!?」
扉の向こう側に二人の男子。
木苺と群青が盗み聞きをしている。
「その後、二、三年の修行期間を下り、見事、自分の店を開くことができました」
「へぇ~」
「・・・・・・」
虎徹は優しい笑みを浮かべる。
「そこへよく来てくれたのが、黒崎艾。お前のお袋だな」
「・・・・・・」
虎徹は続ける。
「んで、他にもお得意様は何人か居た。商人、オタク、様々」
「いい話だな」
「そうだね」
こそこそとする男子二人組。
「んで、その中に、艾ほどではないがそれなりに来ていた男が、神無月億輔だ」
「・・・っ」
「嫌いか?」
「私は、あまり知らないけど・・・嫌なのは分かる」
「黒崎さん・・・」
「俺はお似合いだと思ったんだがねぇ、黒崎艾と神無月億輔。俺も含めて、あとオタクのお嬢ちゃんと一緒によく遊んだものだ」
「オタク?」
「神威さんだよ」
「えっ!? 私の?」
「そう。あんたのお母さんだ。なんでも切れ味に惚れたってわけで」
「・・・・・・」
「そんで、明るい話はここまでだ。これからは少しドロドロしてくるぜ?」
「・・・」
「ドロドロっつうか、ドクドク?」
「何でもいい――言ってくれ・・・」
「かっかすんなよ。ちゃんと言うから――億輔のお願いで、遊んだ帰りに、艾と億輔の二人にしようって事になったんだ。んで、億輔が告白、成功、交際っていう順調な流れになったんだがね・・・」
「・・・?」
「後日、億輔から連絡があって・・・『子供が、できたらしいんだ』ってな。俺は当然祝福したさ! おめでとう、お前はもう夫になり父になるんだなって・・・だけど、詳しく話を聞いてみれば、おかしかったんだ」
「おかしい?」
「『艾が、帰ってこなくなった』」
「・・・」
「後から聞いた話によると、誘拐されたんだってな。艾、かなりの美人だったし、その夜は、散髪に出かけるっていって、20時あたりから出かけたらしいし」
「そ、そんな――」
「俺や店のお得意様達はみんな彼女のことを慕っていたからな。全力で探したさ・・・警察も回って、動いてくれた。しかし、彼女の血が付着した空間を見つけたときには、もう彼女は居なくて、犯人グループは、全員首を斬られた状態で見つかった」
「・・・っ!?」
「急いで探した。そりゃもう何日も何週間も何ヶ月もな・・・だけど見つからなかった。彼女は血だけを残して消えてしまった」
「・・・」
黙々と話を聞く。
「みんなが探し回って1年。ほとんどの人が探すのを諦めかけていたそんな時、億輔のところに艾が突然帰ってきた。らしい」
「らしいって」
「同席していた人間に聞いた話だ」
虎徹は言葉を選んでいく。
「もう服や体はボロボロで、見るに耐えない体だったけど・・・その腕には、一人の赤子が居た・・・お前だ、黒崎紅音」
「私・・・」
「艾は、たったひとりでひとりの命をこの世に落とした。誰の助けも請わずにな・・・それだけでもぶっとんだ根性だったが――艾が、なぜ億輔のところへ急に帰ってきたのか・・・」
少しの間、静寂が包む。
ゆっくりとため息を吐いて、言った。
「『億輔を、殺すため』」
「な、なんで!?」
「汚れてしまった体を彼が愛してくれるはずがないと思い込んでしまったらしく、どうせ嫌われるならいっそ消してしまおうと」
「ぶ、ぶっとんだヤンデレだな」
「お、おう」
「人払いをした結果、億輔は艾に生き埋めにされてしまった――そんな感じだ」
「そんな感じだってそんな」
「結果論だ。構わねぇだろ? 黒崎紅音さんとやら」
「・・・・・・」
「ま、大方その後、今の夫さんと出会い、罪滅しとして手前勝手に自殺下って感じかねぇ・・・」
「・・・・・・」
「辛いか?」
「・・・いいえ」
紅音が立ち上がった。
「ありがとうございました。少し、ひとりにさせてもらってもいいですか?」
「ああ、構わんよ」
ぺこりと頭を下げて、出口に向かう。
「ちょ、ちょっとこっち来る!」
「うわわわ、やばい逃げないと―――って」
結論から言うと、見つかった。
「お前は・・・確か表群青・・・」
「え? ああ、はい」
不意に呼びかけられ、少し戸惑った群青。
「この前に静蒼無双と惹かれあった奴だな」
「・・・はい。そうですけど」
「――そうだな、あの刀。譲ってやってもいいぞ」
「へ!? 本当ですか!?」
「ただし、今日一日、彼女の傍に居てやれ」
「・・・? ああ、黒崎?」
「おう。ただ傍に居てやるだけでいいから」
「分かりました」
紅音の後を追うように走っていく群青。
「父さんたまにはいい事言うんだね」
「うるせぇバカ息子。ちったぁあの子達を見習ってだな」
「轟さん」
千里が言った。
「ん? どうした」
「あの話は、どこまで本当なんですか?」
「全部だよ。全部」
「・・・そうですか」
「千里ちゃん、でいいか?」
「え? はい」
「もっとこっちに来てくれ」
「へ!? な、なんでですか?」
「いいから、もっと」
「う、うう」
「父さん、セクハラはダメだよ」
「分かってる」
一歩一歩近づく千里。
虎徹が、千里の額に指を当てた。
「・・・?」
「お母さんには、あまり似てないな」
「よく、父親似と言われます」
「お母さん、好きか?」
「・・・はい」
「そうか。ならいい・・・」
「・・・?」
虎徹が指を離す。
「千里ちゃん。これからも関係を保っていくつもりかい?」
「・・・そうするつもりです」
「巻き込まれてもいいのか?」
「ええ」
「・・・絶対に、彼女を泣かせるようなことをしちゃあ駄目だぞ」
「・・・分かっています」
「よろしくな」
「はい」
千里は、いい笑顔でその場を後にした。
「何か、見えたの?」
「見えたけど、分からなかったな」
「絡み合ってた」
「そういうことだ・・・」
そして過去を知った黒崎紅音。
加速する――そのまま、ただ単に終わりに近づく。
「母さん」
スタイル名:『諸刃の剣』
『相手の力に屈したとき』
『自分の大切な何かを失うことで因縁を断ち切る事が出来る』
そうして彼女は、涙を流した。
最後のスタイルは紅音のものじゃありませんのであしからず




