制裁探偵事務所―零― 『紫色の戦争』6
ピーンポーン
「ん? 誰だ、まだ昼頃だというのに――」
黒崎と書かれた表札の家。
二階建て、目立ったところは見当たらない。
紅い屋根の家。
「はいはーい。今行くよ」
ガチャ、と開けた。
が、誰もいなかった。
「ああ? いたずらか? 気色悪い」
「――うふふ」
「―――ッ!?」
振り返ればそこに、居た。
自分のためにと用意していた紅茶を啜る、男がいた。
「か――神無月・・・億輔・・・!?」
「久しぶりだ。確か彼は、こんな口調だったじゃないかな?」
神無月億輔。
「どうして――お前が――」
「ああ違う違う。おいらァ神無月億輔であり神無月億輔ではない」
「・・・?」
「おいらの名は『鎌足鋸』――とある事情で、あんた達を殺しにやってきた」
「か、鎌・・・?」
「脳に刻んで記憶しろよ――な?」
スタイル名:『意思憑時』
『自らの肉体が滅んだとき』
『半径50m以内の死体に意思を映す』
鎌足鋸の仕事は、『標的に関わる全ての人物の抹殺』
「あんたが、その一人目だ」
「くっ・・・」
「さぁ、あんたはどう足掻く?」
「とりあえず――逃げる!!」
階段を全速力で駆け上がる家宣。
鋸は、あえてそれを見逃した。
「いいねぇ~、その根性。ほんとにいいよぉ」
うふふふふ、と笑いながら、1段ずつ階段を上る。
「くうぅッ!!」
手にしたのは、拳銃。
二丁、両手に――弾は、合わせて24発。
トン、トンとゆっくり上る音がする。
――うちの階段は13段だから・・・今は5段目――まだ余裕がある・・・
「まだ――俺は死ねないんだ・・・あの子に、心を教えていない」
「うふふふふ」
オートマチックだから、弾丸を出すには引き金を引くだけでいい。
扉はスライド式だ・・・なら――
「・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「うふふふ」
がららら、とゆっくり不気味に開くドア。
「伊集家宣・・・さぁん」
「・・・・・・」
息を殺す。
「・・・めんどくせぇな」
自分が殺される可能性を知らない鋸は、部屋の中の一つ一つを探ることにした。
「・・・・・・」
心臓が飛び出そうだ。
「ひとぉつ・・・」
机に手をかける。
すると、その机と、机に上に乗っている物が一瞬で消えた。
「・・・っ!?」
ガタンッ
――音が出てしまった!!
「・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「うふふ」
トン、トンと一歩ずつ近づいてくる音がする・・・。
「みィつけた」
ベッドの下――!!
―――計画通りッ!!!
「不正解だッ!!!」
「んんッ!?」
クローゼットの中から飛び出る――
「ちィっ!!」
「うおおおおおおおぉぉぉぉッ!!!」
バン バン バン
右 左 右
銃弾が空気を貫く――
「―――ッ」
銃弾が鋸の目の前まで迫ったとき――
鋸が姿を消した。
「――なんだとッ!?」
唐突に――一瞬で
「気、抜くなよ? 久々に面白い仕事が出来そうだ」
鋸の声。
どこからしている?
全体から――まるで、世界全体から
「くっ・・・」
落ち着け・・・奴がどんな手を使ったか知らないが、出てこない限り、奴は俺を殺せない・・・出てきたところを狙う――まだ弾は残っている――!!
「行くぞ? 構えろ」
ぶぅん、と空間が歪み、ついさっき消えた机が宙を舞った。
「な――」
なぜ、机が?
「終わりだ」
遅れて、鋸が姿を現す。
机の足を持ち
ぶん回した。
「ぐおおおぉぉおお―――ッ!?」
防御にしようした腕から、嫌な音が鳴る。
拳銃もどこかへ飛んでいった。
「万事休す―――かッ!」
「なんだ、諦めんのか――つまらん」
机を回したまま、家宣の方へ投げた。
直撃する。
「あ――あがッ! ぐ、ぐううぅうう―――」
悶絶。
気絶出来ない鈍痛。胸辺りで嫌な音が鳴った。
「・・・・・・」
静寂。
落ちた拳銃を拾う鋸。
「おいらァ、銃よりも刃の方が好きなんだけどな」
バン バン
右足、と、左足。
太ももを撃ち抜いた。
「ひぐううぅうああぁぁぁああああ―――ッああああああッ」
「喚くなよ・・・この仕事はここが辛い」
いつまでたっても慣れれない――
バン バン
右腕、と、左腕。
二の腕を撃ち抜いた。
「あああがああががああがっがああああああああ」
「・・・・・・」
動かせない四肢でもがく。
「ふぅ、まず、一人目だ」
標準を眉間に合わせる。
「っ・・・おい・・・たしか、鎌足とか・・・言ったな・・・」
家宣が口を開いた。
「うちの娘を・・・殺しに・・・行くんだろ?」
「・・・ああ」
短く答える。
「遺言か? 聞いてやる」
「そんなんじゃねぇよ・・・そんなもん・・・いらねぇ・・・ぐっ」
吐血しながらも、必死で喋る。
「これは・・・忠告だ。娘を嘗めるな――これでも、華の女子高生だからなぁ・・・強いぞ・・・」
「・・・その忠告は、有り難く無視させていただく」
バン
「・・・・・・」
二度と口を開かない彼の次の言葉を待つように、彼はそこに居た。
「なるほどな・・・」
『意思憑時』には、記憶を見る力もある――。
「艾の奴が、惚れるわけだ」
だが、これは鋸の面影を感じさせない言葉だった。
■ ■
「お前が?」
「・・・・・・」
工房にて
「お前さん、名前は?」
「・・・・・・」
「ほら、紅音ちゃん、言って」
「・・・黒崎、紅音」
「そうか、じゃあ黒崎。お前の望む世界は何だ?」
「・・・私は、まだ世界を見ていないから、望んでない」
「上出来だ・・・はぁ」
「どうです?」
「俺にゃ、とびっきりの異常に見えるね」
「っ・・・」
「・・・そうですか」
「だけど、俺はもっと異常な奴、知ってるぜ」
「へ?」
「おそらく、お前の母である、黒崎艾だ」
「・・・!」
「え? お母さん?」
「し、知り合いなの!?」
「旧友だ。うちのお得意様だった」
「・・・」
虎徹は誇らしそうに話を始めた。
「――おい、なんか不安になってきたぞ」
「はぁ? 今になってか?」
「違うんだよ・・・父さん盗み聞きとか見つけると誰彼構わず斬りつけようとするから」
「なんだよその吹っ切れっぷりは」
「さぁ、元々そういう人なのかもしれないね」
「しれないねって・・・そんな適当な・・・」
「それよりちょっと黙って、不安だけど、興味深い話だよ」
「ん? なんだよ。聞いてなかった」
「悲しい悲しい恋の物語、なのかな?」




