制裁探偵事務所―零― 『紫色の戦争』5
「あれ、黒崎か?」
帰り際、群青は黒崎紅音を見つけた。
「・・・・・・」
紅音の方に、反応は無かった。
「お前んち、こっち側なのな」
「・・・・・・」
「あ、そうそう! この間あそこにうまいコロッケ屋さんができてさ――」
群青が言う。
紅音はただただ聞いてるだけだった。
「なぁ、黒崎・・・」
「・・・・・・」
「言っておくけど、僕はお前を特別扱いするつもりはないからな」
「・・・・・?」
「また会ったら気軽に声を掛けるからな。学校でもわかんないところがあったら聞くからな。消しゴム落としたらひろってやるからな」
「・・・・・・」
「お前はお前で、お前らしくいてほしいと思う」
「・・・・・・」
「僕はこれを言ってやろうと思ってたんだ」
「あなたは、私に何を教えてくれるの?」
「何って――」
急に話した紅音に戸惑うことなく、群青は答えた。
「――心だよ」
とんとん、と自分の胸に親指を突き立てた。
「・・・・・・」
「お前が何かを怖がってるなら、僕が守ってやる――だから、怖いなんてもう言うな」
「あなた、あれを聞いて――」
「別に聞いても聞いていなくても、こういうつもりだった」
「・・・!」
「困ったことがあれば僕に言って。力になるよ」
「ふ、不正なアクセスっ!!」
紅音は、顔を真っ赤にして走り去った。
「お、おい・・・」
群青はぼーとしたまま取り残されていた。
「女に逃げられてんじゃん。ぐんじょーだっせー!」
「・・・木苺か」
後ろから煽りに来たのは木苺。
「いちいち言わなくてもいいだろ。お前の知ったことじゃない」
「そうか? 俺の父さんにお前らを見せたら、何か言ってくれるかもよ?」
「遠慮しとく」
「賢明だ」
何気ない会話。
「そういや、今日はちさとんが家にいるっつったな」
「はぁ!? なんで千里ちゃんがお前んちに――」
「詳しくは、工房だ。父さんに用事があるっぽい」
「用事か」
「思い当たる節でも?」
「無いな」
「今後の予定は?」
「無いな」
「盗み聴きしないわけ?」
「無いな」
「決定。いくぞぐんじょー」
「お前が仕切るな」
■ ■
「懐かしいな。神威さんとことはあまり会っていないからな」
「どうも、久しぶりです轟さん!」
「久しぶりだ」
工房。
の休憩室に、二人は居た。
「何かあったのか? 俺に用事なんて」
「はい」
緊張する空気。
まるで肌が斬れてしまいそうなほど。
「轟さんは、『異常』と『普通』についてどう思いますか?」
虎徹が答える。
「一言で言えば、くだらない、だな」
「・・・」
「そんなものは社会が創り出したイデアの副産物だろ。俺のような社会からかけ離れたじいさんに、『普通』だとか『異常』だとか考える余裕は無いのさ」
「では、質問を変えます」
「ん?」
「『普通』を望む『異常』な女の子を『普通』に戻してあげるにはどうすれば良いでしょうか?」
「しらねぇよ」
「・・・はぁ」
「そんな訳わかんないみたいな顔されても困る。俺はその厨二病を抱えた女の子を知らないんでな」
「厨二病とか、そういう次元の問題じゃないんです!」
「だったら、その子を俺んとこまで連れて来い」
「もう呼んであります」
「は?」
「ラブレターで」
■ ■
「あ、もしもし? はい。はい。分かりました」
通勤ラッシュの時間であるはずの交差点。
いつもなら、とんでもない数の人間がそこを歩く。
「うふふ、ああ楽しみだなぁ。この姿で会うのは初めてだからなぁ」
しかし、そこには大型の男が一人居るだけだった。
「にしてもこの体のスタイルは本当に使いやすい。この体に映って良かった」
彼は笑った。
「まずは、家からだな――確か、父親がいるんだっけ?」
うふふ、と笑う。
「さぁて、元父親であるこの体を、この顔を見た時、どんな顔をするだろうかねぁ、うふふ」
そう言って、彼は――
『神無月億輔』は、うふふ、と笑った。




