制裁探偵事務所―零― 『紫色の戦争』4
「例えば――」
教室、クラスメイトと何らいつもと変わらない話。
「自分が殺し屋に狙われてるとしよう」
「――おう」
数人で集まって、どうでもいい話をする。
「自分ならどうやって逃げ切る?」
「ホームセンターでスタンガン」
「チェーンソー」
「木刀」
「草刈機」
「なぜ誰ひとり逃げようとしないんだ」
とまぁ、こんな感じで――
「ホームルームを始めるぞー」
「ういー」
一日はこうやって始まった。
■ ■
「私ね、黒崎さん」
昼休み。
黒崎と千里が、一緒にご飯を食べている。
「表くんが、好きみたいなの」
中庭にあるベンチ。
人は一人も見当たらない。
「・・・・・・」
「それでね? 黒崎さんなら、告白するときどうするか聞きたいのだけど」
「・・・・・・」
悲しい顔をする。
胸が苦しそうな顔。
「私は、恋愛感情を理解できないから――分からない」
「・・・答えてくれて、ありがとう」
千里が笑顔を見せた。
その行為に、黒崎は驚いたようだった。
「なんで、笑うの? 私は、あなたの期待に答えられなかったのに」
「黒崎さんが、私とコンタクトを取ってくれてることが嬉しいの」
私は他人とコンタクトをとらない。
黒崎はそう言っていた。
「ふ、不正なアクセス」
「何か言った?」
「・・・・・・」
黒崎の顔が紅潮した。
「私は、異常」
「へ?」
「異常だって、周りの人間からよく言われた」
「そんな――」
普通・・・とは言えなかったけど。
「普通じゃないことが異常? 普通でなければいけない?」
「・・・」
「私は、その困ったような、怖がるような顔が怖い――何を思っているのか・・・分からないから――怖い!」
黒崎が、弁当を地面に落とした。
「だから、私は、他人と関わらないようにしてた! なのに! どうしてあなたや表群青は、私に関わろうとするの!?」
「――それは・・・」
「私は最初からそうだった! 何も感じなかったから怖かった! 誰も私を近づけようとはしなかった! 神威千里――
私に――『心』を教えてよ!!!
誰も教えてくれなかった! 父さんも! 母さんも! 先生も! 周りの人間は私と関わらなかった! なんで!? 私が何かしたの!? 怖い! 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!! あなたは、私になにかしてくれるの!?」
悲痛で、悲哀な叫び。
でも、か弱い声だった。
だから、他の人は誰ひとり振り向かなくて――
そんな現在も、彼女にとっては恐怖の対象なんだろう。
「―――あ、ああ・・・」
ふとしたように、黒崎が我に返る。
「・・・っ!」
そして、落ちた弁当の具を拾い集め、走り去ってしまった。
「く、黒・・・崎さん――」
千里は、ただ呆然としているだけだった。
■ ■
「き、木苺くん居ますか?」
別の教室。
そこには、轟木苺がいた。
「はいはーい、ってあれ。ちさとん」
「やっほーきいくん」
「久しぶり」
「久しぶり」
二人は、小学校中学校と同じで、高校も同じ。
お互いを軽く呼び合うくらいの仲良しだった。
「虎徹さんって――今日は?」
「父さんなら・・・今日は商会にいるよ」
「そう。何時くらいに終わるかな」
「んー、19時には工房に戻ると思うけど」
「ありがと」
「んにゃ、構わんよ」
短い会話。
「・・・虎徹さんなら」
何か知ってるはず!
千里は胸に希望を抱いていた。
■ ■
「・・・これは?」
「『回転しないチェーンソー』」
「・・・・・・」
とあるバーの奥。
二人の男が談話していた。
「つまり、観賞用ってこと?」
「いや――ちゃんと実用性はある・・・使える奴に使わせればな」
「・・・虎徹――僕には君がなんて言ってるのかさっぱりだ」
「そういうな上田さん。いくらぐらいになる?」
「今までも散々変なものばっかだったけど、今回はずば抜けてるね――受け取れないよ」
「はっはっは! 面白い冗談だ!」
「冗談じゃねぇよ! 冗談じゃねぇよ!! こちとら仕事なんだよ!」
「うー・・・む。困ったな」
「他にはないのかい」
「あるけど、チェーンソーより変な物だからな」
「・・・まぁいい。出して」
「これだ」
チャリンと置かれたのは、『鍵』
「鍵・・・?」
「車を作ってみた」
「車ァ!?」
「ギラッギラのな」
高笑いする虎徹。
「・・・そうだなぁ――こりゃあ鎌足さんとこに売れるか?」
「買い手がいるのか!? 驚いたな」
「こっちのセリフだ・・・まぁいい」
鍵を受け取る『上田』と呼ばれた人物。
「細かい点検は後日するとして、まずはお疲れさんというわけで『7000』な」
「追加されるんだよな?」
「製品的に問題がなかったらな」
「おし。分かった」
そう言って、席を立つ二人。
「ああ、そうだそうだ。『あの子』の件どうなった?」
「あの子? ああ、あの件か――すでに手は回してある」
「さっすが上田さんだ」
「茶化すな――すでに始まってるよ」
「そうかい」
「鎌足さんのとこに依頼したから」
『上田 政宗』
彼は、楔である。
物語の、中間を担うもの。
彼は、商人である以前に、裏業界のトップである。
そんな彼の上に立つ者が下した『件』
それこそ、物語の破滅を意味しているものだった。




