制裁探偵事務所―蒼― 『霞ヶ月のかぐや姫』12
「ほほう・・・この様子から察するに、『天気を操る神技』ですか?」
暮が言う。
「しかし私には『雷』がいますから――」
「勝手な早とちりしてんじゃねぇよバーカ」
「・・・」
遊炎魔がいつも被っていたフード。
それが頭を離れ、黒と金が入り交じった髪が垂れた。
「私のスタイルを教えてやる――教えてやるが、その代わり、てめぇが蒼の斬撃を喰らったはずの傷口を見せろ」
そう言った。
「傷口、傷口・・・傷口ですか。分かりました」
暮は、斬られていたはずの服を脱いだ。
しなやかかつ強かな体。
やけに白かった。
「私、回復力は人一倍高いんですよ?」
「・・・高いってレベルじゃねぇだろ」
ってことは、蒼の一撃は無駄になったってわけか。
遊炎魔は冷静に考える。
「では、あなたの神技の正体を、お教え願います」
「ああ、分かってるさ。スタイル名『熱願冷諦』
『その場に温度が存在しているとき』『その場全ての熱を操ることができる』
これが私の、進化したスタイル」
私にとって、遊炎魔は、彼の遺品。
これでやっと、彼を忘れられる。
あの悪夢から、解放される。
「熱を? なるほど、この雪は――」
「空気から熱を『奪った』。だから冷たくなっただけ」
「そうですか・・・」
会話の後に、右手を暮へ向けた遊炎魔。
「そろそろ行くぞ、暮」
「ふふ・・・」
「かぐや、危ないから、みんなのところへ」
「分かった。蒼も持っていく」
「よろしく」
そう言って彼女は、蒼を掴んで飛んでいった。
狂兵器は、監視長と狐を連れて、砂城のところへ行っただろう。
「ふぅう・・・」
息を深く吐く。
遊炎魔の体が歪み始めた。
「な、蜃気楼かっ!」
その通りである。
「これでもう、てめぇは私を見ることすらできない」
暮の視界が大きく歪んだ。
「私の幻は、重なった幻によって具現化されない」
「ど、どうなっている!!」
そこは、何もないただの荒地。
「くっ、くそ!!」
「珍しく取り乱しているな、暮」
暮の肩に、何かが乗った。
「寒いか?」
後ろから、暮に抱きついた。
「――な、何を!」
発熱。
何℃という次元ではない。
「あっためてやるよ」
「ぐ、ぐうぅぅぅおおおおおおおあああああああああああ!!!!!!」
摂氏300度。
離れて、蹴る。
「ぐっ」
「ほらよぉッ!!!」
下からすくい上げる様な打撃。
見えない。
ジュゥウと、焼ける音が響く。
「ぐうぅぅううう!!!!」
「あ、熱かったか? ごめんごめん。すぐに冷やしてやっから」
うずくまった暮の頭を無理やり掴む。
「あっ――あがッ――あああああああああああ」
「冷たくて気持ちいいだろ?」
暮にとてつもない苦痛が訪れる。
「あっ・・・あぐぅうッ」
「でも外傷は治るんだよなぁ・・・めんどくせ、溶かしちまうか」
蜃気楼を解く。
「この私を見ろ」
「うっ・・・うううぅう」
暮が大きく飛び跳ねた。
「――!?」
「ううううううあああああぁぁぁぁぁああああああ―――!!!!」
雷。
「――しゃらくせぇッ!!!」
跳ね除けた。
「くっ・・・」
「全力でかかってこいよオラァッ!!!」
回し蹴り。
ヒットした。
「ぐっうお――」
「ああ、なんだ」
そこで、遊炎魔が気づいた。
「お前、弱いな」
「くっ――」
そう。
暮は弱かった。
スタイルによる強さとは違う――何か。
「一応聞いておく。『世界樹』について何か知っているか?」
「いや、知りませんね」
即答だった。
「そうか・・・」
遊炎魔は哀しい目をした。
「ただまぁ、このままケリをつけるのも何だか気分悪いからよ――体温を戻してやるよ」
「え・・・?」
「ふぅうー。証!!」
ため息の後、叫んだ。
彼の名を。
狂兵器のスタイルによって姿を隠していた『浮雲証』を
「何!?」
蒼から、聞いた。
戦いのさなか、『証がいる』とだけ。
「・・・!」
何も言わずに遊炎魔の横に立つ。
小さいのに、気迫は、まるで獅子のようだった。
「行くぜ暮!!」
遊炎魔が叫ぶ。
右手が橙色に発光し、左手には青白い氷の粒が纏われている。
証が指で暮を囲った。
「『空磁石』ッ!!」
そのスタイルは、発動しなかった。
「――なんだとぉ・・・ッ!!?」
「こんな時のために考えていた必殺技ァ!!」
ここぞとばかりに満面の笑みを浮かべる遊炎魔。
「8!! 7!!」
それぞれ違う方向からの打撃。
「6!! 5!!」
次第に速度が増していく。
「4!!」
構える。
決着を、つける!!
「3! 2! 1!!」
三連打撃。
大きく振りかぶる。
「0!!!!!」
見事な八連擊。
そこから展開されるのは、0
「だぁりゃりゃりゃりゃりゃりゃらららららららららららららァァ!!!!!」
ただの暴力。
しかし、そこには美しきものがあった。
「――――ッ!!!」
後ろに吹っ飛ぶ暮。
そのまま倒れる。
「ああ・・・」
ぐちゃぐちゃの顔に、涙がつたわる。
「やっと見えた・・・私の家が」
それが、彼の最後の言葉。
「・・・・・・」
証の頭をぽんと撫でてから、暮に歩み寄る遊炎魔。
「・・・かぐやに、話を聞かないといけないな」
そう言い残し、証と共に、彼らが待つ場所へと向かったのだった。




