制裁探偵事務所―蒼― 『霞ヶ月のかぐや姫』11
「・・・もう、私の目的は――」
暮は震えていた。
「私の目的は、『役目』はこれで終わったのですよ・・・」
自分自身を抱きしめるようにして。
「ふっふふふふふ――はぁーっはっはっはっはっは!!!!」
「何笑ってんだ気持ち悪い!」
遊炎魔が炎を身にまとった。
「『フレイムズ・ダーティオーダー』」
技名なのか、そう言った遊炎魔。
「かっこいいじゃん」
蒼が言う。
「『静蒼無双』」
「あんたのスタイル、使い方によっちゃあこの街全体を『かき消す』ことになるんだからな、気をつけろよ」
「分かってるって」
「――ただまぁ、このまま背中を見せて逃げるというのも些か気分が悪い。姫を裏切ったせめてもの償いとして、自ら戦ってしんぜましょう」
「しんぜましょう?」
「気にするな」
「おう」
短い会話。
その中にも、絆が見られた。
「『フレイムズ・ダーティオーダー』・・・暮、好きな動物は?」
「・・・は?」
「だから動物だよ、うん。いいから答えろよ」
「燕、ですが?」
「なるほど――いいチョイスだッ!」
手を組んだ遊炎魔。
背中に燃え盛る炎によって映された影は、『燕』の形をしていた。
「『モデル:スワロウ』!!」
影に映った『燕』から生まれたかのように、突如現れた『炎』。
燕の形をしていた。
「『空磁石』!」
しかし暮は、目の前に黒い壁を作り、それを防いだ。
「砂鉄!!」
「その通りですッ! 次は私の番ですよ!」
壁の形をしていた『砂鉄』は、遊炎魔の方へ向いた。
「そりゃあッ!!!」
しかし、どこからともなく現れた蒼によって、それは斬られた。
「ふーっ、またつまらんもんを斬っちゃったってか」
「ふっ」
しかし暮は笑う。
「ま、砂鉄を斬っても仕方ないことくらい分かってんだけどね!」
蒼が遊炎魔の胸ぐらをつかんで飛び跳ねた。
集まっていた砂鉄が、蒼たちの足の下を通り抜けた。
「さすがの身体能力ですねぇ! 『静蒼無双』!」
「こっからだ! 暮!」
と、ここで暮が違和感に気づいた。
――言葉が、口の動きと一致してない――
かもしれない。
「・・・?」
「集中しろォ!!」
ほんの僅かである。
一瞬で追いつくが、確かにずれている。
腹話術か何かか、いや、今そんな物を使っている暇はないだろう――。
ならば何だ?
静蒼無双の神技か?
「答えは、証明するものッ!!」
「何ッ!?」
砂鉄を小さく丸め、銃弾のように飛ばした。
蒼は、それを当然のように避ける。
まるで日常茶飯事であるかのように。
「・・・!」
しかしそれは問題ではない。
これは、『静蒼無双の神技の予想の証明』
「正解・・・か!」
なんて恐ろしい神技!
「何を言っているんだ!」
大きく刀を振り上げる蒼。
そして振り下ろす。
暮は、きっさきが少し当たった瞬間に後ろに退いた。
「なっ――」
流石に困惑する蒼。
ただのズレのせいで、『自らのスタイルを晒してしまう』なんて!
スタイル名:『静蒼無双』
『戦う覚悟を決めたとき』
『場の時間をそれぞれずらすことができる』
――静蒼無双は、『遅れている』!
今見ている彼と、本当にそこにいる彼。
場所は同じでも、過ごしている時間は、ずれている。
「しかしッ!!」
分かったからなんだというのだ!
正体がわかったとは言え、その力に変わりはない!
スゥ、と息を止める蒼。
「こんだけで分かったのは、お前が初めてだ」
「くっ・・・!」
「だが、それで俺が、怖くなっただろう」
言葉はそれで切れた。
暮の体から、大量の鮮血が飛び出した。
「なっ、ぐぅううあああああああッ!!!!」
悲痛な叫びの後、蒼が動き出した。
「きっ、貴様! 静蒼無双!! 一体どれだけの時間を――」
「5秒だ」
「なっ!」
「5秒間、俺は時間をずらせる」
「くっそおおおおおお!!!!」
「遊炎魔!」
「行くぜ!」
バーナーを構える遊炎魔。
「ずっと狙ってたんだぜぇッ!!」
噴射されたのは、炎ではなく、熱線。
ほのかな橙色をした熱線。
その熱線が通過したあとは、何も残らなかった。
「勝った・・・!」
「ちょ、遊炎魔それフラグ――」
「まて!! 奴には――」
かぐやが声を荒上げる。
「第三の神技――天叢雲」
「なっ、なんだと!!」
「この私には、天竜が味方してくれている」
「天竜・・・?」
「遊炎魔ッ!!!」
咄嗟に時間をずらす。
限界の5秒。
遊炎魔の脇腹を押す。
「ぶ、蒼!?」
瞬間、蒼の体に、一瞬の光が『当たった』
「か、雷?」
「そう、私は、『雷を降らせる』ことができる!」
「てめぇ、空磁石とやらは使わねぇのか?」
「私が一度に使える神技は一つまでですから」
「そうかい!」
バーナーを構える。
「それは、もういいです」
バーナーに雷が直撃する。
「ぐあっ――」
「さようなら」
「かっ――かぐやッ!!!!」
「―――分かっている」
青白い光の線。
神々しいまでの輝き。
「穿け」
それは、遊炎魔の背中から、突き刺さった。
「うっ――」
一瞬の出来事。
そして、遊炎魔目掛け雷がくる。
ドォン
「さぁ、次は姫。あなたです」
「いや? 妾には終わっているようには見えないがな」
笑っているかぐや。
「・・・なんのことでしょう。あ、そういえばもう一人いましたね」
「妾は、そのことを言っているつもりはない」
「―――ッ!?」
暮は震えた。
威圧感や、そういうものではなく――単なる『寒さ』
富士山頂では珍しくない雪。
だが、こんな一瞬に―――
「さて、せっかく進化させてやったんだ。楽しませてもらうぞ」
「悪いがなぁ、かぐや――そいつぁ出来そうにねぇや――」
雷の着弾地点の土煙が晴れる。
「だってよ、一瞬でカタがつくぜ――この勝負」
スタイル名:熱願冷諦
「『私』の、冷めた勝利――」
彼女は冷たく微笑み――
「熱い展開で終わらせてやんよ!!」
熱く笑った。




