制裁探偵事務所―蒼― 『霞ヶ月のかぐや姫』13
「やはり・・・来たか」
砂城の診療所。
全員集まっていた。
「おう――それで、みんなは無事か?」
「蒼と海のみ、治るのに少々時間がかかるようだ」
「そっか・・・」
監視長と萌九頭は、奥で希望と話している。
笑い声も聞こえるので、何てことない日常の話だろう。
「―――暮を、殺したか」
「ああ」
短い会話。
「だから、私はここに来た」
彼女は、明らかに、自分のことを『私』と言った。
俺様と名乗っていた彼は、もう彼女には憑いていない。
「あ、ヒナちゃん・・・悪いな、俺も行きたかったんだが、こいつらの世話もしなくちゃいけなかったから」
「いいんだ・・・私は無傷だからな」
「・・・」
萌九頭が申し訳なさそうな顔をする。
「そんな顔をするな――まぁ、今までとは比べ物にならないくらい強くなってるからな、私は」
誤魔化すように言う火奈兔。
「今度、手合わせでもお願いするよ」
「――ああ!」
「あ、ヒナちゃん帰ってきてたの? おかえり」
監視長が言う。
「どうだった? なんか掴めた?」
「いや、どちらかといえば捨てたって感じ――ああそうか、あんたにゃ分かってたんだな」
「命さんから聞きました」
「そうか」
そう喋ってから、かぐやの方へ行く火奈兔。
「待たせたな、姫様」
「・・・分かった。全部話そう」
かぐやが姿勢を正す。
「妾が忘れていたのは、『過去の記憶と妾自身の力』だった」
「過去の記憶と、力――」
「そう。まずは記憶から話そう――妾は・・・そうだな、其方らの言葉で言う『宇宙人』の類だ」
「は、はぁ? 宇宙人?」
「宇宙人って、私、たこみたいな物を想像してました」
「其方らが我々のことを『宇宙人』と呼ぶように、我々は其方らを『地球人』と呼ぶ――そして、『月人』と、我々は自分のことをこう言うのだ」
「え、ちょ、ちょっと待て! 話が飛躍しすぎだ――ちょっと整理させてくれ」
「妾は『月の住民』。これだけでいいだろう?」
「いいわけねぇ! 宇宙人だと? そんな信憑性かけるもん――」
そこで火奈兔が思い出したのは、暮のこと。
「ひょっとして暮も、宇宙人とか?」
「そうだ、あやつは妾の屋敷を鉄で埋めた・・・そして追放されたのだ」
「かぐや、私にあんたを、信じさせてくれ」
「いいだろう」
そう言って、火奈兔はかぐやの鎖骨辺りを優しく触った。
少し煙が上がった。
「・・・熱い」
「悪い、少し我慢して」
見れば、数秒で、『火奈兔が付けた火傷』が治っていた。
「・・・まぁ、証拠は不十分だけども――今はそういう事で話を通すか」
「――有難う」
「とは言ってもまだ100ぱー信じたわけじゃないぞ」
「それは分かっている、証明など到底できぬ事柄だからな」
火奈兔が落ち着いたところで、蒼が起きた。
「あ、ヒナちゃん。無事だったんだね」
「まぁな、ついでに倒しておいたぞ」
「ありがと」
「それで、かぐや」
「ああ、力のことだろう。妾が持つ神技は、『月夜見』と『天照』、それと『草薙』の三つだ」
「『月夜見』『天照』『草薙』・・・どれも日本神話に関係しているな」
「勿論元々は違う名前だった。ただまぁ、記憶を失う前の妾が、日本で付けた名前だからな」
「なるほどなぁ・・・それで、どんな能力なんだ?」
「『月夜見』は、『夜にする』能力」
「条件は?」
「無い。これは発動した時に発動する」
「はぁ・・・」
「『天照』は『覚悟を失った時』『一部の重要な記憶が排除される』力」
「それであんたは――」
「そうだ――そして『草薙』が、『神技を進化させる』能力」
「私に撃ったやつか」
「そういうことだな」
「っはー! なるほどね! でも、かぐや空飛んでたよな?」
「あれは『月人』の基本能力だ」
「あ、そう・・・」
そこで、海が起きた。
「んあ、ヒナちゃん? あれ、くらっしーは?」
「非公認ゆるキャラみたいに言うな。もう私が殺した」
「あぁそう・・・残念――ってヒナちゃん、今『私』って」
「あーなんだ、その――まぁいいや説明めんどいし」
「えー・・・」
「太刀風火奈兔」
かぐやが言った。
「其方には本当に、心から礼がしたい――もしよければ、妾の家へ」
「んー、心が揺れるお言葉だけど、遠慮しとくよ」
「――其方ならそういうと思っていた」
そう言って立ち上がる。
「では、妾は失礼する」
「あら、もう行っちゃうんですか?」
「まず、向こうの者に謝らなければいけないからな」
「戻ってくるか?」
「いつか――」
「もっと話したかったなぁ!」
「其方とは、あまり話をしていないからな」
「困ったときは、いつでもおいで」
「頼りにしているぞ」
「じゃあな、いつかきっと――また会う日まで」
「――その日は、何十年も後かも知れないんだぞ?」
「待ってるさ、『友』の帰りを待つのも、悪くない」
「友、か――懐かしい響きだ」
ドアを開ける。
「さらばだ、戦士よ! またいつか会おう!!」
彼女は富士山頂へと飛んでいき、そのまま垂直に上へ上へと上がっていった。
「まさか、本当に宇宙人だったとはねぇ」
「私驚きましたよ」
「俺は、狼男を知っているから、そうでもなかったな」
「狼男!?」
一瞬の間の関係は、それでも契れる事はなく――
いつかきっと、強く、強くなってまた、振り向かせてくれることだろう。
「じゃあな、かぐや」
火奈兔は、天へと続くその光を、まるで涙を浮かべているような輝く瞳で観ていたという。




