制裁探偵事務所―蒼― 『霞ヶ月のかぐや姫』9
「おや、私はてっきり『静蒼無双』がくると思っていましたが・・・貴方達でしたか。随分お高い回復力ですね」
富士の火口付近。
今では大きな岩がごろごろと転がっているだけの地帯。
「おい狂兵器・・・お前の話じゃあ、暮とかぐやはグルってことじゃあ無かったか?」
困惑する遊炎魔。
いや、遊炎魔に限った事ではない――その場に居合わせた、遊炎魔、狐、狂兵器の全員が、その光景を見て唖然とした。
監視長は、その名の通り、蒼を見張っているが・・・。
今はそれどころではない。
「みんな・・・逃げ・・・て」
「姫・・・姫様が一言『はい』と言えば済む話なのです」
「いやだ・・・」
暮が、かぐやの首を締め上げていた。
「――ぐぅっ!」
「・・・・・・」
その光景に、たまらず遊炎魔が突貫する。
「何だかよくわからねぇけどッ――とりあえずその手を離しやがれッ!!!」
「・・・」
遊炎魔を見た暮。
「はぁ・・・『リバース』」
そう言った。
「うぅおッ!?」
今まで暮の方向に向かっていた遊炎魔が、突然反対方向に吹っ飛ばされた。
「ぐっ――な、何だぁ!?」
「私の神技は、決して破ることはできません」
「なんだとォ!? てめぇ舐めやがって――」
「下がって」
怒りに身を任せそうになった遊炎魔を、狐がフォローした。
「狐!」
「多分、僕は分かった。あいつのスタイル」
「え?」
「行くよ」
そう言って、狐は『けん玉』を投げつけた。
「な、なんですかあれは」
「ぎはははは! 全くおもしれえ戦いするぜあいつは」
「けん玉・・・?」
「そう! 市販のね!」
暮の目の前までけん玉が迫った瞬間、狐は『けん』の所をキャッチした。
「――!?」
「だりゃあああああああ!!」
暮の腕は塞がっている。防御は出来なかった。
1、2、3、4、5、6、7
七回、暮の体にヒットした。
「ぐぅ――」
狐が叫んだ。
「今ッ―――!! 狂兵器!!!!!」
「分かってるっての―――ッ!!!」
――スタイル名『瞬間意動』
『誰かに触れたとき』
『一緒に任意の場所へ瞬間移動できる』
「来いッ! かぐや!!」
かぐやは、抵抗をやめ、狂兵器に手を伸ばした。
一瞬の出来事、異常事態。
暮は身動きが取れなかった。
そして消える。
恐らく、監視長の所へ行った。
「なるほど。あんときの瞬間移動はこれだったわけか」
遊炎魔は、ガスバーナーを取り出した。
「んじゃま、俺様たちも始めようか?」
「貴方達――ッ!」
「もうあなたが働かせている力はありませんよ。暮さん」
「――ッ!」
「『力の方向を操る』これがあなたのスタイル・・・いや神技のはずだ」
「な、なんで――」
「なんで分かったか、ですか? だってうちには、『それ』に関してのスペシャリストがいるんですよ? 一回でも見れば大体わかりますよ」
「なら、さっきの――」
「ああ、『多分、僕は分かった。あいつのスタイル』ってやつですか? 生憎ですが僕は狐なんですよ。嘘なんていくらでも出てきますし」
「う、嘘――ッ!?」
「かなり取り乱していますね。そんなに彼女が大切でしたか?」
「くっ――」
「こちらから一対一で挑めば、僕の勝ちは確定でしょうね」
後ろを気にする。
監視長は上手くやっているだろうか
「くっくくくく」
暮が笑った。
「・・・何がおかしいんです?」
「いやいや、勘違いも甚だしい・・・見ていると笑えてきますね」
「失礼な人だ・・・見損ないましたよ」
「それはこっちの台詞ですよ」
「・・・」
「私が使える神技が、一つだと誰が言いましたか?」
「―――ッ!?」
「神技『空磁石』」
「えっ――!? う、うわ――」
―――。
「おや、もう一人いたと思ったのですが・・・仕方がありません。探しましょう」
そこには遊炎魔の姿はなく、腹に大きな穴があいた狐が倒れているだけ。
「・・・探す手間が省けたようですね」
目の前に、狂兵器が現れた。
■ ■
「ですから! なぜ私と監視長さんが接吻を交わさなければいけないんですか!?」
「いいから! もう物分りの悪いお姫様だ! ていやっ」
「きゃ――ちょっ、んむうううううぅぅぅう!!!???」
近くのカラオケボックスに、三人は居た。
「ぷはぁっ・・・ごちそうさまでした」
「ひ、ひどいです・・・私、初めてでしたのに」
「あんた忘れるスタイル持ってんだろ!? 全部終わったら忘れればいいじゃねぇか!」
「こ、こんな扱いって」
「かぐやさん」
監視長が言った。
「今私は、あなたにスタイルを与えました」
「へ・・・?」
「『一時的に一つのスタイルを封印したとき』『記憶が全て蘇る』」
「・・・!」
「このスタイルを与えました」
「・・・全部思い出せってことね」
「そういうことです・・・お願いできますか?」
「・・・・・・」
「かぐやさん、この状況を打破するには、証くんの『スタイルを無効化するスタイル』と、あなたの記憶が必要なんです」
「分かっているわ・・・でもちょっと、外に出させて」
「で、でも危険――」
「お願い」
「・・・分かりました。狂兵器と私も同伴します」
「それでもいいわ、なぜかこの狭い空間が嫌なの――せっかく覚悟をきめようとしているのに」
「・・・」
「大きな空に見守られている方が、安心するでしょ?」
「・・・それもそうですね」
部屋を出て、店のカウンターを過ぎた時
「―――!?」
狂兵器が血相を変えた。
「狐が危ない!」
「え? でも暮の能力は」
「二つ目の、スタイルだろう」
「!」
「俺が行ってくる、遊炎魔をこっちに送る!」
「う、うん!」
狂兵器が消え、遊炎魔が現れた。
「・・・狂兵器の野郎・・・俺様じゃあ不安かよ」
「少なくとも狂兵器の方が安心よ」
「はっきり言うんじゃねぇ・・・」
「監視長さん」
かぐやが言った。
「はい・・・もう、いいんですか?」
「ええ、もう十分です」
深呼吸して。
「始めます」
■ ■
「見えた! 富士!」
「・・・見えたはいいんだけどよ、本当に連れてきてよかったのかよ」
「・・・あぁ、この子か」
蒼の膝の上に、ちょこんと座っている白髪の子供。
「証くんは、この物語の必須登場人物なんだよ」
浮雲証。
物語の発端の登場である。
10で終わりたかったのですが、12くらいになりそうです。




