制裁探偵事務所―蒼― 『霞ヶ月のかぐや姫』7
「・・・彼女が一番の重体ね」
「ヒナさんが・・・?」
それは、砂城と萌九頭の声。
浅いベッドに横になる、海、監視長、火奈兔。
「うん、全身の至るところに火傷があるわ・・・こんなの初めてかも」
「・・・・・・」
萌九頭は、恐らく、暮のスタイルについて予想がついていた。
「それは、自分のスタイルなんだよ」
「自分?」
「そう・・・ヒナさんのスタイルは、炎の動きを細部にまで完璧に操る力を持っている・・・それなのに、炎に関しては右に出るものはいないほど、彼女の能力は徹底しているのに――なぜ、彼女は火傷を負ったのか・・・」
「そこまで説明されちゃあ、予想くらいはできるわ・・・私でも」
「「『跳ね返す能力』」」
二人の声が重なった。
「それぞれ、男の子は手首と足首に絞痕、黒髪の女の子には外傷は無くて、君は、なんとか意識を持ったまま倒された――と」
「そうだ。ヒナさんは、自らのスタイルをぶつけられたんだな」
「そうなるわね」
軽い沈黙が通った。
その時だった。
「ただいま、砂城姉」
青年の声がした。
「あら、お帰りなさい――希望」
「・・・あれ、お客さん?」
「そうよ、緊急の」
萌九頭は固まったままだ。
なぜなら、彼に見覚えがあったから、接触した覚えがあったからだ。
「初めまして。自分は、姫劉院希望。ここの砂城姉のアシスタントをしています」
「あら、希望くんは覚えていないのかしら? 彼、萌九頭くんよ」
「えっ? あの、萌九頭くん・・・?」
「そう、俺は萌九頭。あんたと同じ軍に所属し、後に殺害対象となった『異常者』の、闘々龍萌九頭だ」
「闘々龍、萌九頭・・・!! 異常者!」
「お久しぶりです。『隠密』こと、希望さん」
「間違いない・・・萌九頭くんじゃないか! ああ、懐かしい・・・」
「そうね、同じ場所に居た3人が、今こんなところで出会うなんて」
「運命? 偶然か」
「さぁ、どれでしょうね」
萌九頭は、彼らと話しながらも、何か違和感を抱いていた。
『姫劉院』・・・?
この名前は、どこかで聞いたことがある・・・。
「それで、萌九頭くん。ここに寝ている3人が、今の仲間かな?」
「いや・・・」
萌九頭の思考は中断される。
「そいつらだけじゃない・・・あと、6人いる」
「6人・・・合わせて10人」
「そうだ」
思い出せないどころか、その名前が頭から離れない。
「砂城姉、今回はこの3人が対象なんですね?」
「そうよ。ほら、私は萌九頭くんを処置するから、3人をお願い」
「わかりました」
そこで、背筋を伸ばし、顔を引き締め、静かに礼をした。
「承りました」
「―――――ッッ!!!!」
萌九頭の鳥肌が立った。
この立ち振る舞い、言葉の形・・・
―――そして、姫劉院という決定的な名前!!
「あ、あんた・・・希望さん」
声が震える。
本当に運命だと思える。
「姫劉院、幸を――知っているか?」
「―――っ!?」
対して希望の反応は、萌九頭のそれを超えるものだった。
「み、幸・・・!? 幸を知っているのか!?」
今までの立ち振る舞いからは予想できないほど取り乱し、目を見開いて萌九頭の二の腕を掴んだ。
「何処だ!? 今何処にいる!? あいつは今、どこで何をしている!?」
「ま、待て! 落ち着け!! 言う! 言うから話してくれ!」
「――・・・ご、ごめん。つい取り乱してしまいました」
「いいって、とりあえず・・・」
萌九頭は、口を開いた。
幸が、今萌九頭の仲間であるということ、制裁探偵事務所というところにいるということ・・・今までのイベントを全て話した。
「・・・・・・そうですか」
「どうした?」
「いえ、まさかあの幸が・・・大きくなったんですね」
「兄として、か?」
「いえ、家族として、です」
「そうか・・・」
「そろそろいーい?」
砂城の声が聞こえた。
「あ、今向かう」
「はーい」
砂城は、感動の兄弟の再開には興味がないようだ。
■ ■
「あああぁぁぁあああぁぁぁあ――――――ッ!!!!!」
目を覚まして、かぐやが目の前にいることに驚いて、時間を確認して、ああ、まだこんな時間かと思って、布団から出て、卵焼きを作って、朝食を一人で食べ終わった後、何か忘れてるなと思い、記憶をたどった後、蒼はこんな叫び声をあげた。
「どっ、どどど、どうしたんですか蒼さんっ!」
突然の大音量のシャウトに驚いたかぐや。
寝巻きがずれている。
「・・・忘れてた」
「え?」
「海くん監視長萌九頭くん火奈兔ちゃんのことすっかり忘れてたああああああああああああ!!!!」
「あ!!」
家を飛び出した蒼。
「あ、私も後で追いかけますううう!!!!」
かぐやはそんな言葉しか思い浮かばなかった。




