制裁探偵事務所―紅― 『七色の魔法使い』10
「なっ――何なんだお前!!!」
アルトが叫ぶ。
その言葉の矛先は、赤い眼光の、細菌に向けられていた。
「お前ッ!!狼男なんじゃないのか!?いくら狼でも!毒は使わねぇだろう!!!」
その叫びは、悲痛でもあった。
「教えろ・・・答えろ!!お前は一体、何なんだ!!」
「細菌・・・だ」
「―――!!!」
その返答に、アルトは激昂する。
「この僕を、ここまで怒らせたのは・・・君が初めてだよ細菌」
すでに怒りを通り越したのかもしれない。
「全身全霊で、君を潰そう」
「やれるもんなら、やってみな――」
細菌がそう言った瞬間、地面が砕け、細菌の姿が消えた。
「――またか!」
そして、まるで銃弾のように、それは落ちてきた。
「ぐぅ――づぅあぁッ!!!!」
アルトはそれを回避する。
「はぁ――はぁ――」
息が上がっている。
「君は、疲れないのかい?」
「ああ、お前と違ってな」
短い会話の後、再びその攻防は開始される。
鈍く、痛々しい音が響く。
「らぁッ――!!」
アルトが電撃を発した。
「ぐぅ――!?」
不意の雷に、細菌は少々揺らぐ。
しかし、すぐに、笑う。
「それが、どうした?」
近い間合いに伸びた腕がアルトの胸に触れる。
そして――
「―――ッ!?」
電撃が走った。
「ぐぅッ!!――うぐぅ、あ、ああああああああああああ!!!!!!!」
断末魔。
その電撃は、アルトの全身を駆け巡った。
「ああぁ、がぁッ!!」
膝から崩れ落ちた。
両手を地面に付ける。
「電気を流した、か」
「はぁッ!!はぁッ!!」
強く呼吸するアルト。
「――隙だらけだよ・・・細菌」
「―――!?」
ずぐっ
そんな、音がした。
見れば、細菌自身の腹から――土の刃が生えていた。
「あ、アルトぉお!!!」
「ふふ・・・」
アルトはフラフラになりながらも立ち上がる。
「僕が何かに触るってことは、それを操るスイッチに触れてるってことだよ?学習しなかったのかい?」
そして大きく拳を振りかぶり
「『闇』」
一言だけ言い放ち
「鉄ッ――!!」
右上から拳を振り下ろした。
「拳ッ――!!」
左腕を下から振り上げ
「制ッ――!!」
右腕を引き、正面から右頬を殴り
「裁ッ――!!」
左腕で、顎を撃った。
「・・・ふふ」
吹っ飛んだ細菌を見て笑うアルト。
「『黒』の力で、拳の重さを操作したんだけど・・・どう?痛かった?」
返事は無い。
「あぁそっかぁ・・・もう、死んじゃったかぁ」
返事は無い。
「じゃあ、お父さんの加勢にでも行こうかな―――」
「うっせぇよ」
その声は、紛れもなく、細菌のものだった。
「―――!?」
流石に驚くアルト。
「ばっ馬鹿な!!!お前は確実に殺したはず!!」
「馬鹿はお前だよアルト。お前、なぜ今まで戦ってきた中で、おれの能力に気づかない」
「・・・?」
「しゃーねーから、出血大サービスで教えてやる――
おれは、月光を浴びると、狼の力を得る。だが、
新月――つまり月の影を浴びることで、世界中の生き物の、長所を得ることができる」
「は、はぁ――ッ!?」
見れば、細菌が受けた傷は、既に完治していた。
無論、腹の穴も。
「この再生力は、イモリのものだ――さっきの大ジャンプはバッタ、ダイビングは・・・大まかに言えば亀だ」
「な、なんだよそれ・・・」
アルトは絶望した。
その、完璧さに。
「補足すると、おれの力の中の生き物は、全て同じ大きさとして設定されている」
「ど、どういう――」
「お前、本当に研究者か?まぁいい。おれも人のことは言えないしな」
「・・・」
「つまりは、バッタの跳躍力やノミの跳躍力。カブトムシの筋力やゴキブリの生命力まで――全てが全て、300%ぐらいに引き上げられてんだよ」
「――!!」
「だから、まぁ、新月の日――おれは最強ってわけだ」
「く・・・」
成すすべがない。
しかし、アルトには、諦めるという選択肢は無かった。
彼にとっての敗北は、それだけを意味するものではなかったから
「細菌・・・最後の質問だ。聞いてもいいかい」
「答えるかどうか分からないけどな」
「そうか、まぁいいさ。聞いてくれ」
「・・・」
「君の能力は、常時発動し続けるものなのかい?」
「・・・自分で確かめろよ」
「わかった――!!」
途端、アルトの体が発光した。
ただの光ではない、直視すれば、目が潰れてしまうような
そんな強烈な閃光を発した。
「目潰し――!?」
「いくぞ!!」
土を硬め、ハンマーのようなものを創った。
それを、大きく振りかぶる。
「だらぁああ!!!」
「・・・・・・」
細菌は何も言わなかった。
強烈な閃光を発している中、彼の存在を知った。
「・・・英雄!!」
そのハンマーの一撃を避ける。
これは、いくら目がやられていようと、音や匂い、そもそも触覚がいたるところに張ってあるので場所はわかる。
もしも、音を消し、匂いまで消して、触覚に一度も触れることなく細菌に致命傷を与えられるようなら、この戦いの勝者は、アルトだっただろう。
しかし、アルトにそこまでのことはできない。精々、炎を操り、水を操り、土を操り、雷を操り、光を産み出し、闇を纏うだけである。
「いや・・・」
と細菌は思う。
できるじゃないか。と
「―――!!!」
その読みは、当たった。
これ以上ないほど、綺麗に当たってしまった。
辺りの自然に炎が灯され、水の膜がその辺りを覆った。
「くそ・・・!」
これでは、視覚、聴覚、嗅覚、触覚すべてが使えない。
触覚は燃やされ、視界は光に満ち、燃え盛る音で耳は使えず、炎の匂いが鼻を潰した。
「言ったじゃないか・・・全身全霊で、君を潰そうと」
その言葉は、細菌には聞こえない。
「例え、全てを使っても」
細菌には聞こえなかったが
何が言いたかったのかは、予想がついた。
「じゃあこの水は、おれの仲間を来させないためか?」
「・・・」
細菌は、聞いた瞬間、まっすぐ走った。
「新月の影を、捻じ曲げるためだ」
「だろうな」
アルトが目の前にいることを確認し、蹴った。
新月による効果は無い。つまりはただの蹴り。
「お前の言いたいことは分かった」
その蹴りには、攻撃の目的などは無く――
「このおれが【不完全】って言いたいんだろ」
ただの、隙をつくつもりさえ無く――
「お前は正しいよ――おれは不完全だ」
それは、仲間に託す――バトンパス
「だからそのために―――」
落ちていく細菌の背後には――銃を構えた青年が
「仲間がいるんだよ」
放たれた銃弾は、脳天を貫いた。
そもそもの身体の強度は普通でしかなかったアルトにとって、致命傷だった。
勿論、アルトには再生能力などは無く――
その場に、『奇跡の薔薇』は――枯れ落ちた。
「師匠――!!」
英雄が駆け寄る。
「大丈夫ですか!?師匠!」
「ああ、心配ない」
そして、炎が消えた。
「え」
水の膜も弾け
「ちょ――」
『人災島』も、分離し始めた。
「うおおぉお――!」
「喚くな」
月の影が開放されたので、能力も開放された。
海の上に、細菌は立った。
「え――」
「アメンボって知ってるか?」
「ま、まぁ」
「そういうこった」
「?」
英雄は銃を打つその瞬間まで、どうやって使うのかが分からず、ずっと悪戦苦闘していたので細菌の話など聞く暇がなかったのだが。
「ま、いいか」
そんな締まらない言葉を境に、青薔薇との戦いは終わった。
■ ■
「むぅ―――!?」
「――?」
アルトが死んだ直前まで、ソプラと白黒暴徒は戦っていた。
「息子が――」
「え?」
「ぬ、うぉお・・・おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「――!?」
突如咆哮をあげたソプラに少なからず驚く白黒暴徒。
「許さん!!許さんぞ!!!我が息子を!!!よくもぉおおおおおおお!!!!!!」
泣いていた。
涙を流していた。
自らを『屍』とさえ呼んだ彼が――
「うっせぇよおっさん」
突如、ソプラは吹っ飛んだ。
「ふぅ・・・大丈夫か英雄。あと・・・白黒暴徒、でいいか?」
「え、あ、はい・・・」
あまりにも突然の出来事に頭が回らない白黒暴徒。
「おいおい英雄。このくらいの速さで気絶してんじゃねえよ」
「あ、あのあなたは?」
「・・・そうだな、お前には言っとくか――おれは一昨年日露璃。細菌だよ」
「え、あ、あなたが?」
「そうだ。守人はさっき会ってそのことは話した。紅は既に知っていたよ」
「そ、そうなんですか」
「ん、じゃ、帰ろうか」
「え?でもソプラは」
「いいよ、おれが片付けとく」
「・・・」
ちょっと待ってろ、と英雄を渡す細菌。
「向こうの、まだ辛うじて残っている島の一部に守人と紅がいる――それじゃ、2分待ってろ」
そう言い残して、消えた。
人間の大きさにすると、恐らくだがもっとも速いのはトンボと予測する。
その速さで跳ぶ姿は、細菌などとは言えなかった。
まるで暴君のように――
「だぁ――ッ!!!!」
「き、貴様はッ!!!!」
会話はそれだけだった。
海上をまだ飛び続けていたソプラにさらに突撃しただけだった。
無論、細菌を『屍』にする暇はなく
その体は朽ちた。
その間わずか30秒。
そしてそのままの勢いで向かい側の陸地に着地し、また『人災島』の方へと跳んだ。
その間2分ちょうど。
「待たせたな」
「まさか、オートくん。君がこんなに強いなんてな」
紅が凪沙に担がれながら言う。
「君の戦力は、かけがえのない物になりそうだよ」
「よしてくれよ紅。あんたにくらべりゃどうってこともないさ」
「んじゃ、帰ろうか」
そして、その一件は、何一つ証拠を残すことなく幕を閉じた。
■ ■
薔薇の抗争の後、事務所にて
「結局、施設も崩壊したっぽいねー」
「これは凪沙さんのせいです」
「えっ」
「そういえば、なんで師匠は俺のことを英雄って知ってたんだろう」
「・・・」
「細けぇこたぁいいんだよ、んで、命くん。そろそろ返して」
「え?」
「ブラックホークだよ、さっさと返せって」
「あぁ、はいはい」
「ったく、人から借りたものぐらい覚えていたらどうなんだ」
「すんません」
「別にいいけどよ」
「なんか、謎の多い一件でしたね」
「そうですね。なぜ薔薇達はこうも『青薔薇』に執着していたんでしょう」
「師匠の件も」
「もう師匠はいいだろ、うっせぇな。ま、私には大方予想はついてるけどね」
「・・・実は、わたくしもです」
「僕も少々」
「え!?なんで!?」
「っていうか、何でお前がわからねぇのかがわかんねぇよ」
「・・・」
「「「齋藤 樹」」」
「あ」
「どう考えてもあいつの仕業だろ」
「といいますか、なにかの黒幕は全てあの人のような気がしてきました」
「僕は、彼、『世界樹』と呼ばれるその人が、何らかの精神操作の使い手であると、考えます」
「ふぅん、まぁ、いい線いってんのかもね」
「・・・」
「まぁいいや、こういう難しいのはあいつらとするにして、飯食おう」
「ですね」
「わかりました」
「・・・おう!」
『七色の魔法使い』~完~
次回からは制裁探偵事務所―蒼― 『霞ヶ月のかぐや姫』をお送りします!
これからも、よろしくお願いします!




